LV.011 ティアラを騙す事にしました
『ふわぁ……。良く寝たな……。ん? ここは……』
「……」
日が沈みティアラが目覚める。
既に彼女には《おねがい》を発動済みだ。
本当に彼女は俺の『協力』を拒む事が出来ないのかどうか……。
『アルル? ……はて? 何処かで見たことがある部屋のようじゃが……。ふうむ』
キョロキョロと部屋を見回すティアラ。
こいつの真意は一体何処にあるのだろう。
しかし今は――。
「実はさ、ティアラ。お前が寝ている間にめっちゃ強いモンスターに襲われてさ……。で、なんかの《転移魔法》? それを俺が喰らっちまって……」
用意しておいた『嘘』を吐く俺。
声が震えないように。
ティアラに気づかれない様に。
『なんじゃと? ならばお主だけがパーティの面々と隔離されてしもうた訳か。……つくづく不運な男じゃのう、お主は……』
ヤレヤレといった仕草をするティアラ。
……大丈夫。
こいつは何も気づいてはいない。
魔王ルージュは王の間へと戻って行った。
恐らくティアラが覚醒している時は姿を隠すつもりなのだろう。
そしてルージュにより渡された1つの《鍵》――。
「まあ、お前に憑依された時点で……って感じだけどな。でよう、この城の一室に転移しちゃって困ってた所なんだよ。何とかここから脱出して、アーシャ達と合流したいんだ。協力してくれるよな、ティアラ」
『……協力……。ああ、勿論じゃとも。お主とワシは一心同体なのじゃから』
一瞬返答に戸惑った様子のティアラだったが、《おねがい》が発動したのだろう。
しきりに首を傾げながらも特に不審がっている様には見えない。
「サンキューな、ティアラ。お前がいてくれて助かったよマジで。で、これをそこで拾ったんだけど……」
魔王ルージュから渡された《鍵》をティアラに見せる。
『これは……《魔法の鍵》? 封印された扉を開く事の出来るアイテムじゃが……。しかし何故、魔王ルージュの所持品である《魔法の鍵》を――――』
一瞬沈黙するティアラ。
そしてまたしきりに首を傾げている。
『――――あれ? ワシ、今なにを考えておったのじゃったか……。むむ……?』
《おねがい》の力がきちんと発動し、記憶の一部を失ったのだろう。
やはり『魔王城』に対する記憶は失ってはいるが、『魔王ルージュ』に対する記憶は完全には消失してはいないみたいだ。
これでルージュの検証は正しかった事になる。
やはりティアラとルージュを会わすのは危険か……。
「もう歳なんじゃないの? ティアラ」
『ワシをババァ扱いするでないわ! 失敬な!』
いつものやり取りをかわし、苦笑する俺。
大丈夫……。
俺だって馬鹿じゃない。
ティアラが俺を騙しているのか。
それともルージュが俺を騙しているのか。
俺は双方ともに信じている訳では無いのだ。
俺は見極めなきゃならないんだ。
ユフィア姉さんが本当に生きているのか。
ティアラの狙いは何なのか。
ルージュの狙いは何なのか。
アーシャ達は無事なのか。
(俺は利用される側なのか、それとも――)
見極めてやる。
せっかく手に入れた《命令の力》――。
まずは検証しながら、レベルを上げ、様々な《命令スキル》を覚えていく。
前にティアラが言っていた事を試すチャンスだ。
ルージュには《魔法の鍵》の使い方を教わっている。
そして彼女からは『この城の外には出るな』と念を押されている。
要は彼女も俺の《命令の力》の有用性を独り占めしたいのではないか?
その為に俺に甘い囁きを耳元で――。
(《ささやき》、か……。まずはここからかな……)
未だギャーギャー騒いでいるティアラを尻目に部屋から出る俺。
向かう先は――。
◆◇◆◇
『なんじゃ、この部屋は……?』
迷路の様になっている長い赤絨毯の廊下を延々と進み。
俺達は金色の紋様が施された扉を通過し部屋へと入った。
道中には一切『魔族』は出現しなかった。
恐らくはルージュの配慮なのだろう。
そうでなければ凶悪な魔族に一瞬で食い殺されてしまっているだろう。
「あー、たぶんアレじゃね? ほら、この《魔法の鍵》の模様と同じ扉だったし。この鍵を使ってなんかする為の『部屋』って事なんじゃね?」
『……ふむ。じゃがしかし、どうにも見覚えのある部屋の様な気が……ううむ……』
すっ呆ける俺と首を傾げるティアラ。
この部屋は《異界の部屋》と呼ばれる、云わば魔王城内に設置された『訓練場』みたいな所だ。
ルージュから渡された《魔法の鍵》を駆使し、俺はここで《命令士》としてのレベルを上げる。
流石に《魔族》と戦ってレベルを上げることは許されないのだろう。
城の外に出る事も許されていない訳だから、当然の配慮という事なのだろうか。
「気のせいじゃね? ほら、ティアラ。そこにちょうど良い感じの《鍵穴》があるじゃん。そこにこの《魔法の鍵》を差し込むんじゃね? もしかしたら外に出られるかも」
部屋の中央にある大きな台座を指差す俺。
台座の中心には金の紋様が描かれた《鍵穴》が。
『そう……じゃったかな……。どうにも記憶が曖昧というか……。というかワシ、何故お主に言われるがままこの部屋まで着いて来ておるんじゃったか……』
あ、ヤバイかも。
流石にレベル3程度の《命令の力》じゃ、許容量オーバーか?
(『重ね掛け』って出来るのかな……)
《スキル》や《魔法》の種類によっては『重ね掛け』で効果を増強させることが出来るものも多い。
特に付与魔法とか強化・弱体魔法なんかはそうだし。
試してみっか……。
何を《おねがい》するか……。
「……ティアラ。もう一度顔を見せてくれないか? おねがいだ」
『おいこら! だからワシに《おねがい》を使う――――』
静止する世界。
白黒の世界。
『……良いぞ。好きなだけ眺めるが良い……』
はらり、と顔の布を外すティアラ。
そして現れる少女の顔。
やっぱ可愛い顔してるよなティアラ。
本当に1000歳を超えているのだろうか。
……もしかしたらそれも『嘘』なのかも知れない。
俺はティアラの事を何も知らない。
全ては彼女が口にした内容にしか過ぎないのだから。
俺は彼女の耳元で再度《おねがい》のスキルを使用する。
ちょっとくらい悪戯してもいいだろ。
「……その上着も脱いでくれないかティアラ。おねがいだから」
果たして何処まで《おねがい》の効果が得られるのか。
相手は霊媒師ティアラだ。
レベル3程度のスキルでは制限が掛かって当然――。
『……ああ。良いぞ。上着を脱げば良いのじゃな』
「え」
スルスルと上着を脱ぎだすティアラ。
これくらいの《おねがい》ならば問題無いという事なのか?
じゃあ、もっと《おねがい》したら一体どうなるのだろう?
そして露になるティアラの下着姿。
少し心が痛む俺。
一体何をしているのだ、俺は――。
『…………はっ!』
数分間の後、正気に戻るティアラ。
「あ、もう着てもいいよ」
『……なっ……なななっ……なななななっ……!』
顔を真っ赤にさせながらワナワナと震えだすティアラ。
《おねがい》使用中の彼女の記憶は当然無い。
そして先ほど掛けておいた『俺に協力する』という《おねがい》効果は持続中だ。
持続中のスキルの『記憶喪失』に、『重ね掛け』した《おねがい》スキルで発生した『記憶喪失』は『重ね掛け』されるのか――。
何だかナゾナゾみたいだが、検証しておいて損は無い。
『……あれ? ここは一体何処じゃ? 何故ワシは下着姿なのじゃ……?』
「覚えてないのか?」
『……アルル? ワシに……《命令》を……?』
「ううん、使って無いよ。お前が勝手に暑いからって脱ぎだしたんだろう?」
『ワシが勝手に脱いだ……。え? アルルがいる前でか?』
こくりと頷く俺。
そして再度顔が真っ赤になっていくティアラ。
見ていて飽きないなこいつ。
『あ……ああ……ああああああああああああああ!』
そして俺は耳を塞ぐ。
いいじゃんかよ、もう結構な歳を取っているんだし。
下着姿くらい見られたって、減るもんじゃないだろう?
『うわあああああん! ワシ! なにしてんのワシ! ストリッパーじゃないぞワシ! うわああああああああああああん!!』
アルル:順調に《命令の力》を検証中
ティアラ:ワシなにしてんの!
ルージュ:良い子は早寝早起きが基本
その他メンバー:まだ気絶中・・・




