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死に掛け女のぐーたら疫神生活  作者: 楠瑞稀
第一章 プログラマーは疫病神の夢を見るか
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#1 プログラマー暁に死す

 ――正直な話、死んだと思った。





  ※   ※   ※   ※



 身体は丈夫な方だと思っていたわけである。

 思い返せば、就職活動最盛期。

 外回り営業なんてもってのほか、内勤できればデスクワークが良いですしー、とそう思って楽観的に決めてしまったのはデジタル土方と悪名高い(個人の感想で効果を保証するもので無し)プログラマー職。

 手に職系のデスクワークですよ、技術力が身に付きますよ、ナウいヤングのお仕事ですよ、と採用担当の甘い言葉に引っかかってしまったのは、正直なところ若気の至りだったと思う。

 それでも、超勤手当なにそれ美味しいの? 的なサービス残業に次ぐサービス残業とデスマーチに次ぐデスマーチを、どうにか心身ともに病むことなくやり過ごして幾何年。

 女は捨てて久しいものの、体が丈夫なだけ儲け物だと楽観視していたわけである。

 根性はない。だが流されるままに生きるのは、昔から得意だった。




 幼少時より変人と名高く(二大巨変と呼ばれていた。もう一人は誰だ。)、恐らくご近所内では私と共に最後まで嫁き遅れるだろうと思われていた心の友と書いて裏切り者と読む幼馴染の、新婚旅行の土産物。

 忙しさのあまりに数ヶ月単位で放置していたら、気が付けば蛍光ピンクの胞子を撒き散らすようになっていた。旅行先のアマゾンの奥地からわざわざ密輸入したらしい、麻布に包まれた謎の柔らかい物体。(税関仕事しろ)

 放置していたのも悪かったが、恐ろしくて手を付けられなかった私を一体誰が責められる。

 そっとゴミ袋に密封して、可燃ごみの日に収集車へプレゼントしたが、その際胞子をこれでもかと吸い込んでしまったのは御愛嬌。



 ――と、そう思っていた時期が、私にもありました。



 恐らくあれが原因だろうと、私は断言する。

 それから半年ばかり過ぎたある日、私は謎の高熱でぶっ倒れた。

 働き過ぎてついに体がオーバーヒートを起こしたかと思ったけれど、それにしてはいつまで経っても熱が下がらない。

 むしろ、全身に少しずつ蛍光ピンクの斑点が広がっていく。


 恐ぇーよ! 超絶恐ぇーよ! 大戦慄だよ!


 医者も盛大に匙を投げる謎の症状。

 感染源を調べたくとも、謎の胞子の固まりはとっくの当に燃えるゴミだし、頼みの綱の幼馴染は、今度は南アフリカの秘境に夫婦でお出かけとやらで音信不通だ。

 閉鎖病棟に隔離された私は、高熱で意識を朦朧とさせながら、痺れて感覚のない四肢を震わせながら、こう思った次第である。



(やべぇ……こいつは確実に、死んだぜ……)




  ※   ※   ※   ※




 次に目が覚めた時、私は良く分からない場所に仰向けになっていた。

 病室のベッドにしては硬くて冷たいし、恐ろしく天井が高い。

 なんだこりゃと思っているうちに、右手首がじくじくと痛むのに気が付いた。

 麻痺していた手がついに腐り始めたかと思って視線を向けると、白くてぞろぞろした衣服を着た数人の男が、右手首から流れる私の血を器に注いでいるところだった。金髪やら赤毛やらと派手な髪。ぱっと見外人ばっかりだ。


「……採血っすか?」


 意識のないうちに、海外のどこかの医療機関に転院にでもなったのか。

 ぼんやりしながらそう尋ねた途端、男たちはぎょっとしたようにこちらに視線を向けた。

 そんなトンビが油揚げを生贄にしてプテラノドンを召喚したような顔をしなくとも、と思っていると彼らはわなわなと唇を震わせ、なぜか日本語で叫んだ。


「め、女神様がお目覚めになられた~~っ!!?」


 そして揃いも揃って、脱兎のごとく部屋を出て行く。

 おーい、説明のために一人ぐらい残っていってくれよ。

 というか、せめて止血だけでもしていけや。

 私はだらだらと手首から血を流しながら、再度こう思ったわけである。


(病死を免れたと思ったら、出血多量のショック死とか洒落にならん……)








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