たった一人のあたしのために
ねえ、せめて、
嘘でもいい。
誰でもいい。
あたしは、愛のコトバが欲しいの。
あたしと、あたしと、あたしと……。
世界に、たった一人のあたしのために。
たった一人のあたしのために。
あたし……一人暮らしを始める前はさ、
家族に秘密なんか1つもなかったんだよね。
だって、うち、4LDKで……6人家族だったから。
あたしとお父さんとお母さんと、お姉ちゃんと、お姉ちゃんのダンナさんと、お姉ちゃん達の赤ちゃんまでいてさ。
なんかさ……ヒシメキあって暮らしていたんだよね。
そんな家じゃ、しょうがないって。
秘密なんか、作れっこないよね。
なのにさ、一人暮らしを始めたら……。
あたしの全ては、秘密に変わった。
ごめんね、お父さん。
ごめんね、お母さん。
自分でも、ビックリするくらい……あたし、色んなことを家族に秘密にしている。
秘密にしないと、生きられないね。
まだ家にいる頃……お姉ちゃんが、赤ちゃんにおっぱいあげた後に、
『胸が張って苦しいのよ』って、
自分で自分のお乳を絞り出してたよ。
うちのお姉ちゃん……よくお乳の出る体質だったんだね。
搾ったお乳は、毎回、お茶碗一杯分だったよ。
あたし……あれを見た時から、牛乳だって飲めなくなったね。
何か、嫌な気分。たまらない気分。
お姉ちゃんが、動物みたいに見えたよね。
あたしは、子供なんて生まないね。
あたしは、動物にはなりたくないから。
あたしは、動物にはなりたくないよ。
そう……あたしは、動物がキライ。
だって、動物は死ぬから。
動物に死なれると悲しくなるから。
あたしは悲しくなるのが一番キライ。
それからあたしは、ヒトを愛するのもキライ。
愛したヒトとは、必ずいつかお別れしなくちゃならないから。
だから、あたしは恋をしない。
あたしは、ヒトを愛さない。
……もう。
そう、贋の恋ならいいかもね。
贋の恋ならしてもいい。
きっと贋の恋なら、別れが悲しくないだろうから。
きっと贋の恋なら、別れが悲しくないだろうから。
……はあ。
どうして、人間も動物なんだろ?
どうして、みんなみんな動物なんだろ?
どうして、お父さんもお母さんも動物なんだろ?
どうして、男も女も動物なんだろ?
どうして、あいつは動物なんだろ?
どうして?
どうして・
どうして……あたしも、動物なんだろ?
あたしの奥で、動物が蠢く。
あたしの中で、動物が鳴く。
あたし、動物になんかなりたくなかったのに。
あたし、動物になんかなりたくなかったのに。
あたし、ヒトなんか愛したくはなかったのに。
ねえ……だから。
嘘でもいい。
誰でもいい。
あたしは、愛のコトバが欲しいの。
あたしと、あたしと、あたしと……。
世界に、たった一人のあたしのために。
たった一人のあたしのために。
どうも2000年頃に書いたらしい。
2007年に直して、今日また直した。