乱舞【らんぶ】
蒼穹の下、赤や緑、黄色といった色とりどりの花が咲き乱れ、花の周りでは、蜜を吸おうと数多くの蝶々が乱舞している……。
男の見た花畑は、最早花畑と呼べるものではなかった。
見る者誰もが目を奪われる、「妖精たちの創った楽園」と呼んだ方が、正しいと言える。この美しい景色がこの世界にある景色だということすら、信じられないほどだった。
男はハッと我に帰った。
いけない。景色に見とれ、本来の目的を忘れかけていた。
このままでは家族が危ないというのに、何をやっているのだ。男は手で頬をつねり、自らにかつを入れる。
肩にかけていたスポーツバッグのチャックを開けると、中から愛用の一眼レフカメラを取り出した。
愛用と言っても、このカメラにいい思い出はない。あるのは戦場で目にした人々の悲鳴や涙、絶望だけだ。手に取る度に、胸が締め付けられる。だが同時に気持ちが引き締まる。これは真剣に写真を撮るときに使う、戦場用のカメラである。
男はカメラを目の前に構えた。
そして、ファインダーを見ることなく、素早くシャッターを押した。
この景色はいくら雑に撮ろうが、素晴らしい写真になる。そう、思ったのだ。
乱舞【らんぶ】
入り乱れて舞うこと。また、踊り狂うこと。
例「花畑に蝶々が乱舞している」




