Re.10 vs神山紗綾
開始の合図とともに俺たちは・・・
「・・・・・」
「・・・・・」
膠着状態に陥った。
しかし、それも表面だけのものである。
お互いの頭の中では、如何すれば敵を倒せるか。如何すれば初撃を与えることに成功するか。
それについてシミュレーションを立てているのだ。
かく言う俺も、何処に攻撃すればいいかを模索しているのだが・・・・・この神山紗綾には隙がない。
それは感嘆に値するが・・・・おかしい。
この立ち振る舞いは、戦場に立ったことがある者のソレだ。
(・・・この女。いったい何者だ?)
そう別の事を意識した瞬間、神山が動いた。
「フレア!」
神山が放った火球は俺目掛けて向かってくる。
・・・・火が得意な魔法使いなのか・・・?
「ウィンド」
俺は風の属性を持っている。
・・・・と、言うか風しか使えない。
才能の面もあるのだが・・・まあいいだろう。
俺が放った風の下位魔法「ウィンド」は、激しい暴風を巻き起こしながら同じく火の下位魔法「フレア」とぶつかり合う。
「なっ!?」
神山が急に大きな声を上げて驚く。
・・・しかし、それもまあ仕方がないだろう。
元々、ウィンドという魔法はそよ風程度の微風である。
それがこれ程の・・・・竜巻のような威力を誇っているのだ。
おかしいと思うに決まっているだろう。
・・・しかし、その隙が命取りになる。
今の内に終わらせるとしよう。
「エアプレス」
風の塊を上から降り落とそうとする。
・・・だが、神山は危機を察知したのか、体を大きく回転させて後ろに飛び退いた。
それと同時に、地面が大きく陥没する。
・・・少々加減が足りないな。
「なんという威力だ・・・。仕方ない!行くぞ!」
神山の周りの空気が変わる。
異常で、異質な空間にだ。
・・・この女、やっぱり・・・
「アオス・ブルフ!」
そう思った瞬間放たれる火の上位魔法。
これは、摂氏3000度オーバーの高熱の炎を放つ魔法だ。
・・・・正直、この魔法はほぼ殺傷用なのだが、このアマはいったいなにを考えてやがるのだろうか?
「チッ・・!?トーベン・シュトゥルム!」
俺は風の中位魔法・・・訳すれば「荒れ狂う暴風」のたが、それで応戦する。
流石に下位魔法で上位魔法に対抗するという無謀はする気が無かったからでもある。
そして荒れ狂う暴風が地面をえぐり、神山のアオス・ブルフと衝突する。
「・・・くっ!」
このままでは押し負ける・・・。
俺はそう感じ、横に飛びのいた。
その瞬間に、俺が今までいたところから感じる異常な熱量。
大地を焦がし、草木を焼き払うそれは・・・・一瞬だが、国家魔法使い『紅蓮』の称号を持つ者のそれであると感じた。
・・・だが、奴は男であるらしいから、この神山は違う人間なのだろう。
「・・・・我の勝ちだな」
・・・その前に、こいつの非常識さをどうかと思いたい。
完全にクラスメイトを殺しにかかるこいつは、そこまで考えていなかったのだろうか?
「・・・負けた。だが、お前馬鹿か?」
「・・・なぜだ?」
・・・・気づいてなかったようである。
拳を深く、そして強く握りながら言い返す事にした。
「あの一撃。俺でなければ確実にあの炎に巻き込まれて骨すらも燃やしつくされてたぞ?」
「結果、死ななかったから良いだろう」
その言葉に、俺はキレた。
それも当たり前だろう。
目の前で自分を殺そうとした奴が、反省も何もせず結果的に大丈夫だったから大丈夫なんてほざけば、それは普通誰でも怒る。
「・・・・おい。お前、人の命嘗めてるだろ」
「いや、そんな事は・・・」
「『そんな事は無い』だと!ふざけんなボケ!結果的に大丈夫とかほざく奴が人の命を嘗めてない訳無いだろうが!」
そう神山に詰め寄る。
「す、すまない・・・。だが君なら大丈夫と・・・」
「はぁっ!?大丈夫なワケ無いだろうが!あのまま応戦してたら確実に死んでたぞ!お前のその安直な考えのせいでだ!」
「わ、我は・・・」
狼狽える神山に、詰め寄る俺。
流石に頭がきたので、まあ仕方がないだろう。
「お前は人の痛みを感じれないのか!力量云々の問題ではなく、クラスメイトに命を狙われる気分が分かるのかクソが!」
「う、うぅ・・・・」
「黙ってんじゃねえ!・・・・あぁあぁ!そうですか!なら、お前も一回殺されかける気分味わうかコラ!ウーア・ゲヴァ・・・」
『ウーア・ゲヴァルト』・・。
かつて、花奏に教えて貰った風の上位魔法にして、風の魔法の中の最強の一つ。
それを放とうとした瞬間、俺はレイラに頬をはたかれた。
乾いた音が鳴り響く中、俺はレイラに言い返した。
「・・・・・なんだ急に」
「その子。半泣きじゃない。もうやめてあげなさいよ・・・」
見れば、神山は目尻に涙が浮かんでいた。
「それに、その魔法は使ったらここもろとも吹き飛ぶやつじゃない。周りを考えてやってよ」
「・・・すまない」
今度は俺が怒られる。
・・・・でも、まあこれは怒られても仕方がないだろう。
少々熱くなりすぎた。
灸を据える・・・って、目標が危うく変わりそうだった。
「それとありがとう。止めてくれて。助かった」
「気にしなくても良いわよ。勝手に手が動いただけだから」
その言葉を聞き、俺は神山に向き返って手を差し出す。
「すまない。少し頭に血が登りすぎた。立てるか?」
地面に座っていた神山に手を差し出す。
神山はそれに警戒しながらも手をとろうとするが・・・・
「・・・すまない。腰が抜けて・・・」
・・・・腰が抜けたようだった。
「はあ・・・。仕方がないな」
そう言って、俺は神山を抱き抱える。
「・・・ふえっ!?」
なんとも可愛らしい声を上げて驚く神山に苦笑いをする。
「このまま保健室まで行くぞ」
「い、いや!は、恥ずかしいからおろしてくれ!」
「腰が抜けてるのに保健室までいけるワケないだろ?大人しく抱き抱えられてろ」
「う、うう・・・」
雰囲気から似合わない声を出す神山を無視しつつ、俺は教師に向かって声を上げる。
「すんません。神山が腰抜けたみたいなんで、保健室まで行ってきます」
「お、おう」
どうやら、さっきの出来事を見てたようで、若干オドオドする教師をスルーしつつ、俺は保健室に向かって行った・・・。