序章
自己満足小説です。設定がぶっとんでます。最近流行りの異世界モノではないかもしれません。一応僕の中ではSFに分類してます。文字を読むのが好きな人向けの小説なので、よかったら読んで下さい。
君たちは情報の重要性を十分に理解しているだろう。
試験で。試合で。仕事で。生活で。様々な状況でそれらは役立つ。それら無しには成立しないと言っても過言ではない。それらを"知識"と、君たちは呼称しているのかもしれないが、本文では"情報"と置換させてもらう。
少し話は反れるのだが、君たちは、我々の肉体にはDNAという遺伝子情報が組み込まれていることを知っているだろう。我々の肉体は、我々がこの地に生まれ出でた時から、そのDNAという筋道に従って成長をする。勿論、全く同一のDNAを持つ者でも、生育環境によっては全く別の肉体が完成するということも周知の事実ではあるが。まとめると、我々の身体すら情報で構成されていると捉えることができると言う事だ。
話を戻そう。情報はデータに変換することができる。知っての通り、1と0の集合体だ。そしてそれらは蓄積することができる。注意しなければならないのが、データとして蓄積、保存する場合は、二次元の世界にのみ可能だという条件が付随することだ。
ここからが重要なのだが、我々は情報を蓄積することのみならず、情報を作成することができる。既存の情報の改竄と言っても良いだろう。また、二次元世界の法則を定義付け、その場に情報を入力してやれば、その世界、限りなく(我々の住む)三次元世界に近いシミュレーションを行うことも可能である。無論、高度に高度な演算装置が必要であることは言うまでもないが。
さて、ここで一つ、とある推測が持ち上がる。荒唐無稽で、突拍子が無く、正に信じられない、等という感想を、君たちは持つだろうが、私はそのファンタジーを信じている。
我々は三次元世界に住んでいて、二次元世界を構築することができる。これは前述の通りである。
ならば、四次元世界に住まう者達が、三次元世界を構築することができると推測することは、当然の思考ではないだろうか。そしてそれが正しいと仮定すると、我々三次元世界の住人は、四次元世界の住人が構築した存在なのではないか・・・という推論である。
――――以上、「情報に関する考察」、一部抜粋。
◇◆◇◆◇
僕、栗原才賀は唖然としていた。それ以外にすること、例えば明日の授業の予習とか、日々のトレーニングとか、両親が不在の為に僕がする必要のある家事とか、そういう雑事が山積していたのだけれど、今この瞬間だけは、思考が停止していた。
ただ視線は、目の前に浮遊する眩い光に釘付けになっていた。
◇◆◇◆◇
帰路。夕方。今日も一人で寂しく寂しく夕飯(もちろん僕が自炊する予定だ)を食べ、日々のルーチンワークをこなすことや、ああそういえば今日は両親から手紙が届くはずだ、なんてことを思い浮かべながら、僕は足を動かす。季節は日較差の激しい春。朝晩は冷え込み、昼は暑いから、温度調節のできる服装で出歩かなければならない面倒な春。花粉も飛ぶし(僕は花粉症に随分悩まされている)、大陸から飛んでくる低気圧が小雨を降らせて鬱陶しい。しかしながら、色気の無く質素なイメージの冬とは違い、桜は満開だし、名前の分からない野花も、その素朴ながら美しい花弁を開く季節。僕は正に今、その足元に野花を咲かせながら、荘厳とそびえる桜の大樹、それらが並び立つ、通称桜街道(なんかありきたりな名前だけど)を歩いていた。
大学ではよくある光景だろう。この日本では入学、卒業には桜が欠かせない。舞い散る桜は、正に花々しい。門出を祝うには打って付けの樹だ。だから、大学のみならず、大抵の学校には桜が植えてあることが多い。まぁ、そんなことはどうでもいいか。夕日に桜吹雪ってのは、僕にとっては(多分他の多くの人もだろうけど)、黄昏を感じさせる。風情のある光景だってことが最も重要だ。
そんな光景も大学の通用門を出さえすれば終わり。コンクリートジャングル、とまでは行かないが、お世辞にも整っているとは言いがたい、つまり雑多な街並みが姿を現す。蜘蛛の巣のような電線。色落ちの激しい看板。恐らくはヤンキーに描かれた芸術作品を消した痕跡が現れているシャッター。様々なチラシが剥がされては貼られていく電柱。よく日本人は節操が無いとか、計画性が無いとか言われるけど、その氷山の一角を現しているんじゃないだろうか。
自宅に帰り着く。両親とはもう二年も顔を合わせていない。彼らは個人貿易商だから、海外を飛び回っているのだ。まぁ、幼い時分は何かと寂しかったものだけれど、成長して、慣れてしまえばどうってことはない。叱られもせず、何かを強制されもせず。自由に過ごすことができる。生活費と言って、両親から振り込まれる金額も潤沢だ。有体に言わば金持ちなのだ。まぁ、その代償として、生活のアレコレは全部僕自身で面倒を見なければならない事実が確かに存在するのだけれど。
玄関を開ける。やけに明るいなと感じる。そこで、僕の時間は止まったのだった。
「栗原才賀君。話をしよう」
目の前の光は、漫画に出てくるような星の形をしていて、浮遊していた。浮遊というよりは、空間にそのまま固定されている感じか。よくよく見れば微動だにしていない。といったのが、声が聞こえてから、ようやく正気に返った僕の頭がひねりだした現状。
「話とは、一体?」
恐る恐る、尋ねてみる。
「君の世界と、僕の存在についての話さ。安心したまえ。君には私が奇怪な姿に見えているだろうが、私は君に危害を加えない。君がそれを信用するかどうかはさておいてだが。まぁ、どう足掻いても君は私と話をせざるを得ない。そういう風に情報を改竄したからね」
話の意味がよく掴めない。この光が僕の健康に何らかの害を加えることが無いということだけは理解できたが、情報の改竄とは、一体。
加えて、声もどこから聞こえてくるのかが把握できない。光自体から発生している様にも聞こえるし、丁度イヤホンをつけたときの様にも聞こえる。
「僕はあなた(?)の言ってる意味がわかりませんが」
「確かにそうだろう。だから、まずは私の力について説明をする。君は、私が星型の光に見えているだろう? 通常の人間なら、驚き戸惑い、逃げ出すはずだ。しかし君はそれをしない。何故か。私が君にそういう思考をさせていないからだよ。おっと。今君は身体を動かすことができない。私の話を聞いてもらう為にね」
盲点だった、というわけではないと思う。僕は危険を察知したらすぐに逃げる癖がついている。家が金持ちで、両親が傍にいないということと、カツアゲの対象になりやすいということはイコールで結ばれる。それなのに、僕は今逃げ出していない。そしてようやく気付く。身体が動かないことに。力が入らないことに。丁度、夢の中で誰かと格闘している時のように。
「理解できただろうか。君には私と会話するという選択肢しかないことが」
頭が混乱しているが、恐らくこの光の言うとおりだろう。僕は視線すらこの光に釘付けになり、文字通り動かせないのだから。
「さて、それでは会話を始めよう・・・」