7.誰も私を知らない
「今回の試験もラティーシャ王女殿下が首席か。さすがはαだな」
「αってだけで首席取れるなんて、楽でいいわね」
「性格最悪でも、王女殿下だから許されることも多いしな」
私は十六歳になった。その十六年間、両親に会うことなく本城に行くこともなく過ごしてきた。
そして私は今、学校に通っている。当然だけどΩだということを隠して。
どんなにαに擬態しても私はΩだ。成長とともにΩとしての特徴が出てくる。
その最たるものが発情期だ。
私は十二歳頃から発情期が始まったのだ。これはΩ特有のもので、発情期期間中はフェロモンが強くなるからΩだとバレる危険が増す。
発情期は一週間から十日ほどで終わる。ただ、その期間中はΩだってバレないためにアリソンが用意した抑制剤を服用することになる。
その抑制剤は副作用が強くて、普通に過ごすのがかなりしんどい。
でも、Ωだって疑いを持たれないためにも飲み続けなければならない。
楽なことなんて一つもない。
あらゆる面で劣っていると言われているΩがαになりすますには並大抵の努力では不可能だ。特に体力面で。
私は現王の唯一の子であり、αということから次期国王候補になる。だから通常の姫や令嬢とは違うことを教えられる。
その人が剣術や体術といった武術系だ。
王というのは常に危険が伴う。他国の王やその地位を狙う者から命を狙われる。もちろん、護衛騎士はつく。だが、世の中に絶対はない。だからこそ、万が一に備えて学ぶのだ。
それに、私はΩであることを隠している。だから、護衛騎士は側に置きたくない。
その分、武術にはかなり力を入れて訓練している。
努力やそれによって出た結果に性別は関係ないと思っていた。でも、どんなに訓練をしても体力や筋力はなかなかついてくれなかった。
それはΩの特徴でもある。だけど、それなら倍の努力をすればいい。
そうやって生きてきた。
アリソンは言う。
私がΩだとバレると、殺される可能性があると。だから決してバレてはいけないのだと。
だから、私は一生誰にも、自分の伴侶となる人にも隠し通さなければならない。
・・・・・一生、私は怯え続けなければいけないのだろうか。
「これは、これは、我が愛しの婚約者殿ではありませんか」
この学校では試験結果が張り出される仕組みになっている。そこに身分による忖度はない。張り出されて恥ずかしい結果を出さないために各々努力をしなければならい。
当然、王族である私も。
そのため、いつもかなり緊張しながら試験結果を見に行く。
もし、満足のいく結果でなければアリソンに鞭で叩かれる。アリソンは私がαに擬態できるためにかなり厳しく躾けてくれているのだ。
今回の試験でも首席をキープできた。これならアリソンに叱られないと安堵していると学校に入る前に婚約したカール・セロン公爵令息が人の良い笑みを浮かべながらやって来た。
大仰に手を広げて歓迎の仕草をしているが、芝居くさい。
言動もそうだけど、目が笑っていないのだ。
「今回も首席とは恐れ入った。さすがはα様だ」
カールは公爵令息という上貴族にも関わらずβなのだ。彼の兄は全員αだ。そのため、彼は自分の性別に劣等感を抱き、αを嫌っている。
「首席を取ることと、αであることは関係ありませんわ、カール」
本当はαだけじゃないけど。
「さすがはα様。仰ることもご立派でいらっしゃる」
「ですが、カール様。ラティーシャ王女殿下には少々、気遣いというものが抜けていますわね」
そう言って私の婚約者であるカールの腕に絡みついているのは私の従姉妹であるマリアベル・レゾン侯爵令嬢だ。
カールと同じβだからこそ、カールが側にいることを許した。
もちろん、それだけではない。
彼女の母親は現王の妹であり、彼女の兄は私がいなければ王位継承権第一位になる。
それに赤毛に碧眼の彼女はなによりも可愛い。
庇護欲をそそるその姿はカールのタイプであったのだろう。
今では婚約者の私よりも親密だ。
「お姉様、婚約者なのですから少しはカール様の顔を立てなくていけませんわ」
「マリアベル、従姉妹ではあるけど私はあなたの姉ではないわ。王族である私に許可もなく姉呼ばわりをするのは不敬よ」
「まぁ、身分を傘に着るなんて。平等を掲げる学校の理念に反しますわよ、お姉様」
「最低限のマナーも守れないの?それでよく侯爵令嬢が名乗れるわね。ああ、婚約者でもない男性に腕を絡めるというはしたない行為を平気でできるあなただからこそかしら」
「ひどいわ」とマリアベルは大きな声を出して泣き出してしまった。
淑女が大きな声を出すだけではなく、人前で涙を見せるなんて、侯爵夫人はどういう教育をしているのだろう。
こんなのあり得ない。と私が呆れているとカールが私を睨みつけてきた。
「ラティーシャ王女殿下、いくら王女とはいえ身分を振り翳すだけではなく従姉妹であるマリアベルを虐めるのはいかがなものでしょうか?」
「は?」
どうして、私が悪者みたいになっているの?
私は当然のことしか言っていないじゃない。
マナー違反だと注意をすることが悪いことなの?
「何?」
「ラティーシャ王女殿下がレゾン侯爵令嬢に身分を振り翳していじめたらしい」
「王女殿下って、性格が悪いって専らの噂よね」
何、その噂?知らない。
社交界に出ることはアリソンに禁じられている。高位貴族にはαが多いし、王族である私は必然的にαばかりがいるお茶会やαも出席している夜会への出席になる。とてもではないけれど出られなかった。
だからアリソンが禁じるのも分かる。
でも、そのせいで社交界に蔓延している噂に気づかなかった。
アリソンは知っているのだろうか?
知っていて、放置していたのだろうか?
いや、アリソンに限ってそれはないだろう。私のただ一人の味方なのだから。
勝ち誇ったカールとマリアベル、私を悪女だと貶す生徒。ここに私の味方はいない。
私の味方はアリソンだけ。アリソンしか、私にはいない。




