29.反乱
その頃のアルトゥール王国は
「なぁ、最近また物価が上がってないか?」
「物価だけじゃないよ。税だって上がってる」
「俺らの給料が上がることはないけど、増税は鶴の一声で簡単に上がっていくよな」
「嬉しくないな、その現実」
「全くだ。おかげで、金は貯まらないのにストレスは溜まる。母ちゃんの怒りも溜まる」
「お前んとこのカミさん、怖ぇもんな」
side.アラン
「ふふふ、今、お腹を蹴ったわ。きっと元気な男の子が生まれてきてくれる」
「まだ、どっちか分からないよ」
正直、どっちでもいい。男でも女でも後継になれる。
ただ、リリーは気にする。リリーというよりも外野だ。それに、妹のリンステットとも不仲だ。
リリーの出身が子爵家など瑣末ごとだ。現に、公爵家の養女となり、子爵家とは縁を切っている。故に彼女はもう子爵令嬢ではないのだ。
そして、アルトゥールの王妃となった。にも関わらず、何かにつけて過去のことを愚痴愚痴と煩いことこの上ない。
邪魔な連中を一度に片付けられる方法はないだろうか。
「ねぇ、最近お腹が出てきたせいでドレスが着れなくなってしまって」
「なら明日、行商を呼ぼう。必要なだけ仕立てればいい」
「ありがとう。新しい装飾品も欲しいのだけど」
「ああ、好きなだけ買えばいい」
リリーは子爵家の出身であることに劣等感を抱いているのか、あるいは今まで我慢してきた反動なのか、散財する傾向にある。
まだ一度も袖を通していないドレス、身につけたことがない装飾品も数多くある。
それでもリリーはまだ足りないと言う。
本人が満足していないのなら、満足するまで買えばいい。
財務部がうるさいけど、お金がないのなら納税額を増やせばいい。そんなことも分からない連中ばかりで困る。
「陛下、少し宜しいですか」
「なんだ?」
「緊急です」
私がいないと何もできないのか、この連中は。
「リリー、すまない。仕事が入った」
「相変わらず、忙しいのね。私のことは気にしないで」
あまり一緒に過ごす時間をとってやれなくて、申し訳ないがリリーからはそういった不満は一切ない。本当は寂しいのかもしれないが、私のことを気遣って我慢してくれているのだろう。
申し訳ない反面、理解のある妻で良かったと思う。これが他の女だったら自分と仕事、どっちが大事なのかという面倒な論争になっていただろう。
そう思うと、リリーが妻で本当に良かった。
「それで、何だ?」
「それが、グラーバで反乱が」
「何だと?騎士団は?」
「すぐに向かわせています」
ならば、鎮圧もすぐだな。そこまで緊急性の高い報告ではない。にも、関わらずリリーとの時間を邪魔してくれたわけか。
「ならば、何も問題ないではないか。いちいち報告をしてくるな。そもそも、グラーバは以前から問題のある土地ではないか。お前たちの対応が甘いからつけあがらせているんじゃないのか?」
グラーバは元敵国だった。先先代の時に戦争で勝利し、属国とした。
慈悲をかけて生かしておいてやったのに、私たちの統治を横暴だと不平不満を垂らしている恩知らずな連中だ。さっさと滅ぼしてしまえばいいのに。
「属国ごとき、生かしてやる必要もないだろう。身の程を分からせてやるべきだろう」
「陛下、国内でも怪しげな動きをしている者たちがいます。それに、短い期間での度重なる税への引き上げに民への不満も高まっています」
「反乱分子は全て炙り出し、見せしめに皆殺しにすれば良いだろうっ!民の不満だと?無能な民どもは必要な政策の有無も理解せず、文句ばかりを言う。そんな連中に振り回されるのは王である私の役目ではないっ!」
どうして、王である私が無能な民の言葉を聞かなければならないのだ。
「しかし、陛下、その、最近なぜか物価も高騰しています。このままでは民が飢えてしまいます」
「真面目に働けば、そのようなことも起きぬっ!金がないのは不真面目な証拠だろ。真面目に働かないから、金がもらえないのだ。そんな怠け者どもの面倒を見るのは王の役目ではないっ!もう良い、お前はクビだ。お前のような無能は文官は必要ない。明日から、いや、今からお前は文官ではない。とっとと王城から出ていけ」
†††
「おいっ、どうなっているっ!騎士団は?」
「それが、リーゼンで反乱が起き、そちらに集中を」
「馬鹿かっ!すぐに戻せ。優先すべきは王族である私たちの保護だろ」
「は、はいっ」
くそっ、一体何がどうなっている。
各地で反乱が相次いで起きている。無能な者を解雇したら、逆恨みをし、口八丁手八丁で民を煽動して問題ばかりを起こす。
クソっ、殺しておけば良かった。反乱を起こしているのだ。つまりは謀反、結果は同じなら早いか遅いかの違いだ。
この王城内ですら、安全とは言い難い。リリーは妊婦なのに、もし腹の子に何かあればどうしてくれるつもりだ。
「少数精鋭でここを離れる。一旦身を潜め、安全を確保した上で反乱分子を叩く。さっさと準備をしろ」
「は、はいっ!」




