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28.悪いことばかりではない

・・・・・体、熱い。怠い


発情期が近い。


「妃殿下、どうかされましたか?あまり、食事が進んでいないようですが」


いつも来ていたイクシオンは、都合はつかなくて一人で食事を摂っていた。

このまま、来なければいいのに。


抑制剤の数はかなり少ない。前のように日常的に使うのは無理だ。

何とかバレないようにするには会わない方が良い。

暫くホテルの仕事も休みにしている。


「今日は食欲がないの。昼もいつも通り、要らないから」

「しかし、妃殿下は普段からお食事の量が少ないのですのに、これ以上減らすのは」


アリソンと違ってアンナは色々と気にする。

正直なんで?って思うけど、これが普通の侍女なのだろうか?それともアンナが気にしすぎるだけ?


「お医者様をお呼びしましょうか?」


たかが、食欲がないだけで?

「いらない」って言ったら普通に何日も食事が運ばれてこなかったりするけど。

それが当たり前だったのに。勝手が全然分からない。どうしよう。


「大袈裟よ。そこまでする必要はないわ」


下手に呼ばれるとΩだってバレる。


「アルトゥールにいた頃から時々あるの。別に病気とかじゃないから、気にしないで」


嘘ではない。


「分かりました。ですが、食事を抜くのは体によろしくはありませんので、何か食べやすい物をご用意しますね。無理なら、せめて果物だけでも召し上がってください」

「果物なんて、そんな贅沢な物は」

「いいえ、妃殿下。果物は妃殿下が望めばいくらでも食べられる物です。決して、贅沢品ではありませんのでご遠慮なさらないでください。何か好きな果物はありますか?」


食べたことがあまりないから、分からない。

種類も知らない。

でも、王族なら当たり前に食べられる物ならここで「種類を知らない」とか「食べる機会がなかった」というのは不自然よね。


どうしよう。

ここに来て、自分が王族としての常識や感覚がまるでないことが分かる。

だから、何を言うのが正解なのか分からない。


「特にないようでしたら、複数ご用意いたしますね。その中から、妃殿下が食べられる物をご自由に選んでください」

「ありがとう」


良かった。それなら、何とかなる。


アンナはあまり良い顔をしないけど、でもお願いをしたら部屋で一人にしてくれた。

文化の違いなのか、立場の違いなのか、部屋に必ず侍女が待機しており一人になることがないというのは慣れていない私にはしんどい。


でも、アンナはお願いをすれば聞いてくれるし、無理な場合は譲歩してくれるからストレスなくやって来れている。ただ、慣れていない背で困惑することも多い。

それは向こうも同じなのだろう。

私の言動に戸惑っているのを感じる。慣れていかなくてはいけない。お互いに。


「妃殿下、お食事をお持ちしました」


ああ、いつの間にかもうそんな時間に。いつもは昼食を断っているのに、今日は一日部屋にいると言ったからと、朝食をあまり食べていないからとアンナが昼食も用意すると言っていた。


お皿には色とりどりの果物が並べられていた。以前、アリソンが食べていたのを見たことがある。瑞々しくて美味しそうだと言ったら「卑しい」と怒られた。


「妃殿下、少しでも良いので召し上がってください。何も食べないのはお体に悪いですよ。何か、食べれそうなものはありますか?」


薬を少し前に服用した。

今まで使っていた薬と違って、副作用が一切ないし、それに持続時間も以前のものよりも長い。高いだけはあるのだろう。


これを服用していれば、私はアルトゥールでαの王女で居続けることができたかもしれない。


以前、使っていた薬は飲んでも飲んでも、すぐに効果が切れる。その癖、副作用が強すぎた。まさに違法薬物に相応しかったということなのだろう。


「どうですか、妃殿下?」


視線を向けると、アンナはにっこりと笑っている。何が楽しいのか、彼女はいつも私の前でニコニコだ。そんな人はアルトゥールにはいなかった。

Ωだとバレなければ、ここへ来ることもなかった。そう思うと、悪くないと感じる。


「・・・・これなら、食べれそう」


シャリとしていて、甘くて、水分も多くて、喉をすんなりと通っていった。


「それはようございました。夜は消化に良いものをご用意しますね」


体はしんどいけど、以前に比べると雲泥の差で、これが続くのならそこまで憂鬱にはならない。働けにいけないのは残念だけど。自分が思っているよりも労働というものを気に入っているのだと知った。


それにミーシャとミストという知人もできた。元気になったら、彼女たちと一緒に市井で買い物をする約束をした。祭というものがあるらしい。


楽しみだ。

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