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26.何者であっても守ると決めた

side.イクシオン


「は?働いている?王女が?」


王妃に嫌われ、父王からは関心を持たれず、不遇な環境で生きてきた王女

世間知らずではすまないぐらいに外に対する常識も王侯貴族に対する常識も持ってはいなかった。

それは全て彼女の専属として共にやって来たアリソン・レドブルガのせいだ。


ほぼ、洗脳に近い状況でラティーシャは彼女を盲目的に信頼していた。


彼女から離すことで少しでも影響下から逃れられればと思ったけど、離れてすぐに生計を立てようとするとは思わなかった。

意外に行動力があるな。


だが、世間知らずなのも事実だ。

彼女は外の世界がどれだけ危険かを知らない。


「護衛をつけてくれ」

「すでに手配済みです」


さすがはルルーシュだな。だが、それでも心配は尽きない。

忙しい合間を縫って、俺も市井に降りてラティーシャの様子を見守ることにした。


「・・・・・ストーカ」とギベルティにボソリと言われたが、断じてストーカではない。あくまで、見守っているだけだ。

だって、仕方がないじゃないか。初夜は拒否されるし、やっと目処がつきかけた時に別居を言われるとか、もう始まる前から絶望的じゃん。


アルトゥールは友好国ではあるけど、不審な動きも見え始めたから警戒をしていた。

父上もアルトゥールのことで他国との情報交換を兼ねて各国を訪れているのもある。

まぁ、万が一に準備は必要だからな。


そんな時にアルトゥールの王女であるラティーシャとの縁談話が上がった。

悪い噂しかなかったから、他国に捨てるつもりでの縁談なんだろうというのは分かっていたが、何かしら役に立つかもと思って縁談を受けた。


もしかしたら、ラティーシャ自身が国から何か言われている可能性もあった。

縁談を断って、分かりづらい何かをされて対策が取れなくなるよりは側に置いて監視できる方が良かった。


しかし、何も起こらないどころか拒絶をされる始末

それすら何かの策略かと現実逃避したら「ただ単にアンタが嫌われているだけだろう」と俺の乳兄弟であるギベルティに容赦無く叩き落とされた。

本当、容赦なねぇよな。


「ホテルに来た、犯罪くさい男を撃退した?」


その日、ラティーシャの護衛についていた騎士の報告に俺は一瞬思考が停止した。

アルトゥールにはラティーシャ以外後継がいなかった。

帝王学の中には護身術や剣術も入っているから彼女が普通のお姫様のように守られるだけの存在ではないことは何も不思議ではない。


だが、だが、だ。


「シフトがオフの時に森に入って、魔物を狩っていた?」


低級な魔物相手なら問題はない、ないが。王女がすることでもない。


「予算は足りていないのか?」

「足りているどころか、使っていません。まぁ、アリソン殿がその分自分のドレスやアクセサリーに使い込んでいますが、現在はアンナが徹底的に管理しているので、このままいけば余ることになります」

「じゃあ、なんで、そんな無茶をする?」


魔物狩りだけじゃない、ホテルで犯罪者を制圧したことだけじゃない。

王族が市井で身分を偽って働くこと、それ自体が危険なんだ。彼女はそれを分かっているのだろうか。


「予算は使えば全て記録に残りますし、こちらにも報告が行きます」

「つまり、ラティーシャは俺らに知られたくない買い物をしたいってことか?」

「おそらく」とルルーシュは頷いた。ギベルティも反論をしなかったことから同意見なのだろう。


自ら望んだこととは言え、裏があるかもしれない妻を迎え入れるのはなかなか大変だ。自分のパートナーでさえ気が抜けないなんて。


「殿下、追加情報があります。アルトゥールに探りを入れていた部下が入手できた機密事項です。妃殿下に関するものです」


ギベルティは王家の暗部を司る一族だ。幼い頃からスパイや暗殺術を叩き込まれ、王家の暗部として活躍し続けている。かなり優秀な側近だ。その彼が教育し、育てた部下ももちろん、かなり優秀だ。


その部下がここまで手こずったのだ。アルトゥールの中でもかなり重要度が高い情報になる。


「妃殿下はΩです」

「・・・・・は?」

「ですから、妃殿下はΩです。αではありません。ずっと、αだと偽って生きて来られたようです。アルトゥール国王も知らず、王妃とアリソン殿が隠し続けていたそうですが、バレてしまった上に、王妃の拒絶が相当なものと陛下しら欺いていた罪は重いので、王妃にその類が及ばないよう今回、全ての罪を被った妃殿下がルビンスティに嫁ぐことになったそうです」

「実質の国外追放ですか。なんとも痛ましいことですな」

「全くです」


ギベルティとルルーシュのやり取りを聞き流しながら、先ほど脳みそにぶち込まれた情報をなんとか整理した。


「それで、何で、今回もαと偽って嫁ぐことになってるんだ」

「国民に、実はΩでしたと公表するわけにはいかないですし、我が国の王太子殿下はΩ嫌いで有名ですから。と、なると、妃殿下は抑制剤が欲しいのかもしれませんね。抑制剤は高額ですが、予算で購入すればΩ嫌いで有名な殿下に露見するのは必須」

「別に、Ω全員を嫌っているわけではない」


言い訳みたいになっているが、事実だ。

ただ、Ωであることを利用して、フェロモン誘発剤を悪用して俺の妃に治ろうとするから嫌なのだ。


「アルトゥール国王が王妃を溺愛しているのは有名な話です。そしてこれは王妃も関わっている案件。下手に公表して、王妃まで害意の手が伸びるのを避けるためと、後は単純にアルトゥールを舐めているのでしょう。先代国王はまだまともでしたが、現王は野心家な上にあまり聡明ではなさそうですし」


ルルーシュの言葉に俺は、素直に頷くことはできなかった。

なぜなら、アルトゥール国王は、その国の重鎮たちは一ミリも考えなかったのだろうか。もし、自国の姫が、娘が性を偽っていることがバレたら、どうなるのかと。そう思ったから。


気性の荒い王なら間違いなく、即座に首を刎ねる。

そうなくても、国内でのラティーシャの立場は最悪になるだろう。国際問題に発展し、解決するまでは監禁になる。

そうなっても構わないと思ったのか。駒を捨てるように、自分の娘を捨てる王には嫌悪しか湧かない。


ラティーシャは幼い頃からずっとアリソンの洗脳下にあった。彼女がΩであることを隠し続けたこともその影響だろう。

Ωという存在を嫌悪するように刷り込まれた。自らの性を否定され続けた。

それがどれだけ酷いことなのかも分からないままに。


「殿下、アルトゥールの王妃は妊娠しているそうです。これもまだ機密に近いので知る者はごく僅かですが」


だから、ラティーシャを捨ててもいいと国王は考えたのか。

本当に、どうしようもないな。そんな奴は信用できない。現に、戦争の準備を始めている可能性も浮上している。


脳裏に浮かぶのは結婚式で初めて見た儚げで、全てを諦めているような寂しげな目。それでも、自らの足で必死に立ち続けている美しい花嫁姿をした我妻だった。


守らねば。

たとえ、どのような理由で迎えたにせよ、それは彼女を蔑ろにしていい理由にはならない。彼女が俺を拒絶しているのなら、どうしても受け入れられないのなら心穏やかに過ごせる場所を作ってあげるのも夫の役目だろう。


「アルトゥールに、制裁を加えないとな」

「では、この件を父王陛下に報告し、許可を取って参ります」

「ああ、頼む。ギベルティ」


さて、俺はそろそろ仕事を終えて、始まってもいないうちから終わりかけている妻との関係を何とかしないとな。いや、マジで。

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