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22.護身術

ホテルには様々なお客さんが来ることが分かった。ただ、泊まりに来るだけのお客さんばかりではないことも。

犯罪者をホテルに泊めるわけにはいかないので、お客さんの観察はとても大事なのだ。


「もう一度、言ってみろ、あぁん?」

「ひっ」


休憩から戻ったらガラの悪い男が女性スタッフに怒鳴っていた。

彼の隣には俯き、怯えている女性がいる。彼はその女性の手首をかなり強く握っていた。多分、痕ができてると思う。

彼は怒りで周囲が見えなくなっているようで、彼女の手を握っている手に更に力を入れている。


これ以上は、彼女の手首が折れてしまう。

かなり痛いはずだが、彼女は声を上げようとはしない。まぁ、あげたところで現状が変わるわけではないので無意味な行動はしない主義なのかもしれないけど。


「お客様」


あまり目立つことはしたくない。でも、私は今ホテルのスタッフで、休憩を終えてしまったので仕事をしないといけない。


「あぁん?いててててててっ」


女性の手首を握りしめていた男の手を掴んで持ち上げた。その際に関節を軽くきめたのだけど、そこまで痛がることないと思う。

随分と大袈裟な客人のようだ。これは、クレームに繋がるのかな?


「何しやがるっ!」

「申し訳ありません。ですが、興奮のあまりお連れ様に怪我をされて困るのはそちらではありませんか?」

「うるせぇっ!そんなの俺の勝手だろっ!」


男が私を殴ろうとしている。これが所謂、裏拳というやつかとまじまじと観察する程度には遅い。図体がでかい分、愚鈍なのだろう。


痛いのは平気。慣れているから。ただ、顔を怪我した場合、アンナへの言い訳を考えないといけなくなる。

アリソンは私がどこを怪我しても気にしなかったし、聞いてくることはなかった。

そういうものだと思っていたのに、どうしてアンナはあそこまで干渉してくるのだろう。


面倒だとか嫌だとかは思わない。ただ、困るだけ。どう、対処していいか分からないから。


だから、殴られてはいけない。

私は男の手を受け流した。受け止めると力で押し負けるから。

すると、自分の勢いを押し殺せなかった男は体勢を崩して派手に転けてしまった。


これは、まずかったかな?

お客さんに怪我をさせてしまったかもしれない。

どうしようかと悩んでいると転んだ男を男性スタッフが数人がかりで押さえつけた。


お客さん相手に何をしているのだろうかと思っていると別のスタッフか呼んでいたみたいで憲兵の人たちが駆けつけて、男を連れて行った。

女性の方も保護と事情を聞く必要があるとこかで憲兵たちへ同行することになった。


「あ、あの、ありがとうございました」

「?いいえ、仕事をしただけなので」


軽く頭を下げて、憲兵に同行する女性からは微かにだがΩのフェロモンが漏れていた。


「ラティーシャ、大丈夫?」

「ラティーシャ、お前、強いなぁ」

「ミスト、ミーシャ、私は状況がよく読めていないのだけど」


憲兵が連れて行ったということはあの男は犯罪者なのだろう。でも、なぜ犯罪者がホテルに?


「女性を無理やりって感じでホテルに来ていたから受付で止められたんだろう」

「どう見ても慣れてる感じだったからってことでバックヤードで調べたら案の定前科持ちだったから憲兵団に直行ってところ」

「そう」


相手の女性はΩだった。だから、そういう対象にされたのだろう。Ωとはそういう存在だから。


「ラティーシャ、護身術を習ってたのか?」

「少しだけ」


普通の人は習わないのか?

もしそうなら、あまり使わない方がいい。目立つ場所でなければ多少の怪我は仕方なしと受ける方がいいのかもしれない。

外の世界に出てまだ日が浅いから仕方がないけど、まだまだ未熟者だな。

今後は気をつけないと。

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