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15.何も変わらない

初夜だった。ずっと、待っていた。でも、殿下は来なかった。


「おはようございます、姫様」

「アリソン、殿下は来られなかったわ」

「そうですか。仕方がありませんわ。姫様はΩですもの。殿下はΩ嫌いで有名な方ですし、本能で感じ取り、嫌悪していらっしゃるのでしょう。その証拠に結婚式までずっと会い来られませんでしたし」

「そうね」


結局、どこに行っても同じだ。

αに擬態しようが、何をしようが私はΩで、だからどこに行っても嫌われる。

なら、αに擬態する意味があるのだろうか?


「大丈夫ですわ、姫様。姫様にはアリソンがおります。私だけは姫様の味方ですわ」


アリソンの言うことは正しい。

その証拠に殿下だけではない。他の侍女もメイドも私には近づかなかった。

誰も私の部屋には来ない。私も部屋からは出なかった。

アリソンがダメだと言うから。


あの時みたいにΩだとバレないためにも部屋から出ない方がいいと。

私がΩだとバレたらまたアリソンに迷惑をかけてしまう。


部屋の内装はだいぶ派手に変わった。

私の好みではないけど、アリソンが満足そうなので問題はないのだろう。

クローゼット、衣装部屋はあっという間にドレスで埋まった。

全て、アリソンが使うのだろう。サイズが私に合わないから。


私はドレスはあまり使わない。

お茶会も社交界も出ないから。アリソンがΩの私に代わって出席している。


何も変わらない。

アルトゥールにいた時と同じ。

気配を消して、息を殺して、まるで生きながら死んでいくみたいに過ごす。

この先もずっと、そうなのだろうか?


「妃殿下、少々宜しいですか?」


アリソンが留守にしている時に限って来客があった。

最初に私を出迎えてくれた、確か名前はルルーシュとか言った。

下々の者に声をかけられても直接話してはならないと言われたけど、無視するわけにもいかず、対応することにした。


「どうかしました?」

「いえ、お部屋にずっと籠りきりと伺いましたのでいかがお過ごしか気になりまして」


どうして、気にするのだろうか?

部屋から出ない方がみんなにとって一番いいはずなのに。

それとも、同じ王宮ないにいることすら嫌悪されているのだろうか?


「もし、ご迷惑でなければ庭の散策などいかがでしょうか?王宮の庭は王妃様がとても力を入れており、我が国の自慢の一つとなっております」

「確か、年に何回か一般公開されているのですよね。ここからでも見る限り、見事なものだと思っておりました」


確か、王妃様も陛下も視察に出ておられて、当分は帰って来られないのよね。そのせいで、殿下は執務で忙しいと結婚式の時に交わした数少ない会話の中にあった。


「どうです?私で、申し訳ありませんがお付き合いいただけないでしょうか?」


どうしよう。アリソンは当分、帰って来ないし、少しぐらいなら出ても大丈夫かな?


「問題ありません」

「ありがとうございます。では、準備をするための侍女を呼んでまいります」


ああ、そう言えば部屋から出る必要がないからずっと寝巻きだった。

まさか、誰かが訪ねてくるなんて思わなかったから。


「いいえ、必要ありません。自分でできるので。数分お待ちください」

「・・・・・左様にございますか」


何か、おかしなことを言ったのだろうか?

まぁ、いいや。


私は国から持ってきたドレスを適当に着て部屋から出た。


嫁いで初めて外に出た。息がとてもしやすくなった。


「妃殿下、それはだいぶ年季が入っているようですがお気に入りのドレスなのですか?」

「いいえ。特に気に入ったというものではありません。私はお茶会にも社交界にも出ないのでドレスをあまり持っていないのです」

「・・・・・そうですか」


ルルーシュは何が楽しいのか、終始笑顔だった。


案内された庭は部屋から見るだけでは分からないぐらいに見事なものだった。

ルルーシュが自慢したがるもの分かる。


「アルトゥール国の王宮の庭はどのようなものなのですか?もし、妃殿下が望まれるのならそれに近いものに変えることもできますが」

「庭の散策をしたことがないので、分かりません」

「・・・・・一度もないのですか?」

「はい。学校に行く以外では外に出ることもないので」


Ωであることがバレないようにするためには外出は控えた方がいい。

何よりもΩである私は存在自体が嫌悪の対象で、いるだけでみんなを不快にさせるから人との関わりは最低限にしないといけない。


アリソンに口酸っぱく言われていた。


「そうですか。もし、妃殿下がお嫌ではなければ、この老人の暇つぶしにお付き合いくださいますか?」

「・・・・・アリソンに聞いてみます」


多分、ダメだと言うだろう。


「何か不便はありますか?部屋の内装をかなり変えられたと伺ったのですが」

「問題ありません」

「そうですか。部屋の内装はどうでしょう?過ごしやすくなりましたか?ドレスを見るに、妃殿下の好みとかなりかけ離れているようにお見受けしますが」

「内装に関しては全てアリソンに任せています」

「そうですか。ドレスもかなりご購入されたと伺ったのですが」

「そのようですね」

「・・・・・・」


どうかしたのだろうか?

別に、問題はないと思う。アルトゥールにいた時もそうだった。

ドレスも食事も全てアリソンのもので、私はお下がりだったし、余り物だった。

だから何も問題はないと思うけど、国が違えば勝手が違うのだろうか?


「アルトゥールにいた時もそうだったのですか?」

「何を聞きたいのか分かりませんが、ドレスに関して聞いているのであれば必要なのは私の代わりに社交をしてくれるアリソンであって、私ではないのでアリソンが必要だと判断したものを購入しています」

「そうですか。妃殿下は社交はなさらいのですか?」

「私は・・・・・」


するべきではないだろう。だって、アリソンに止められている、これ以上彼女に迷惑はかけられない。


「アリソン殿に止められているのですか?」

「・・・・・」


責められている?どうして?

私は何もしない方がいい。気配を消して、息を殺し、死人のように生きることを望まれている存在だから。だから、そうしているのに。そうすべきなのに。それさえもこの人たちは許さないのだろうか?


「お部屋に戻りましょうか、妃殿下」

「・・・・はい」


以降は会話がないまま王宮に戻った。部屋に戻る途中、殿下の怒鳴り声が聞こえた。

結婚式の時は穏やかな人だという印象だったので怒鳴る姿に驚いた。


「穢らわしいΩが俺に近づくなっ!お前たちのような者の子を産むなど、身の毛がよだつ。ギベルティ、摘み出せ」

「はい」


”穢らわしいΩ”


ああ、やはりそういう存在なんだ。


「すみません、妃殿下。お耳汚しを」

「問題ありません・・・・・あの」

「どうかされましたか?」


だったら、もういいじゃないか。

αに擬態しようと穢らわしいΩであることに変わりはないのだから。

なら、もういいじゃない。


「お願いがあります。離宮に、住まわせていただけませんか?無理ならどこか、空いている小屋でも構いません」


こんな牢獄にいたくはない。

穢らわしいΩがいない方が向こうも生活しやすいだろう。

お互い、離れて好きに生きればいい。


後継に関する問題はあるけど、でも”お前たちのような者の子を産むなど、身の毛がよだつ”ならば、側妃なり愛妾なり迎えればいい。

私である必要はないのだから。

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