13.前途多難な旅路
「ちょっと、姫様が旅に同行してるのよっ!それなのに、馬車で寝泊まりしろって言うの!?」
王都を出てまる一日馬車の中、騎士たちの話によると次の村や街までにはかなりの距離があるから今日は野宿になるらしい。
一日馬車の中で揺られ続けたのでさすがに疲れた。馬車に乗ること自体が稀で慣れてないから余計だろう。
それでも、初めての外、初めての旅、初めての野宿で、私の巻き添えで大変な目に遭っているアリソンには申し訳ないけど私は少し楽しく感じていた。
だけど、アリソンは野宿と聞いて堪忍袋の緒が切れてしまった。
「アリソン殿、次の村まではまだ距離があります。なので、何度か野宿をすることになります。それに、宿がない場合もありますのでご容赦ください」
「あなた方には姫様が同行しているという自覚がないようですね。それとも、隣国に捨てられるような出来損ないの王女には敬意を払う必要もないということかしら?」
「な、何を言っているんですか!あなたこそ、そのような物言い不敬罪ですよ」
アリソンが怒っている。怖い。
騎士の人も怒りだしちゃった。どっちも怖いな。
「あなた方に不便な思いをさせて申し訳ありませんが、これは旅程上、仕方のないことなのです。ご理解ください。それでは、野営の準備がありますので私はこれで失礼します。それと、先ほどのお言葉は隊長に報告させていただきます。あなたこそ、ご自分の立場を理解した方がいい」
ああ、良かった。
騎士が馬車から離れたので喧嘩がこれ以上発展することはなかった。
ただ、アリソンは消化不良で終わったからなのか舌打ちをしていたし、苛立ちが収まらないみたいで、ずっと足を揺すっていた。
「こちら、今夜のお食事になります」
「ちょっと」
「では」
食事は騎士が準備したものだから王宮でアリソンが普段食べているものとはかけ離れていた。
だからアリソンは文句を言おうとしていたけど、喧嘩になるのを避けるように騎士はさっさと行ってしまった。
アリソンが外に気を取られている隙に少しだけカーテンを開けて外の様子を見てみた。
たくさんの木々が生えていて、薄暗いけどその分、騎士たちが数ヶ所で焚いている焚き火の色がとても綺麗で暖かく見えた。
それに、和気藹々と過ごしていて楽しそうだ。ちょっとだけ加わってみたいなって思ったけど、私には到底無理な話だ。
Ωの私には。
「姫様、姫様が食べるような食事ではないのでこれは私が頂きますね」
普段と変わらない、品数が多い分普段よりも豪勢な食事だったけど薬の副作用と旅の疲れもあってあまり食欲がないので別に構わない。
それに、機嫌の悪いアリソンには逆らわない方がいい。
初めての野宿は色々と新鮮だ。
馬車の中で寝るのもそうだし、お風呂はなく、騎士の人が用意してくれた水で体を拭くだけなんて初めての経験だった。
それに何から何まで用意されるものだ。
自分たちのものなのだから、自分たちで用意すべきなのではないかと思うのだけどアリソンが全て対応しているので騎士にそう申し出ることもできない。
アリソンが全て騎士に任せているから、そういうものなのだろうか?
†††
side.騎士
「あなた方には姫様が同行しているという自覚がないようですね。それとも、隣国に捨てられるような出来損ないの王女には敬意を払う必要もないということかしら?」
「な、何を言っているんですか!あなたこそ、そのような物言い不敬罪ですよ」
全く。なんという女だ。
「どうかしたのか?」
同僚の一人が背後の馬車にチラリと視線を向けたから会話は聞き取れなくても雰囲気から揉めていることを察したのだろう。
内容が内容だけに下手に話せば不敬罪が適用される。だから「なんでもない」と言って俺はこのことを隊長に報告した。
「陛下は何を考えていらっしゃるのでしょうか?あのような女を王女殿下に付き添わせるなんて。それも、あの女一人のみですよ。王女殿下が、哀れです」
いくら、悪評まみれのお方でも不幸になっていい理由にはならない。
それに、もし殿下が噂通りの方ならあの女と同じかそれ以上に文句を言っているだろう。
でも、実際は逆だ。
馬車の中では分からないけど、少なくとも不満を垂れ流しているのはあの女であって、王女殿下ではない。
それに、これはあくまで人伝に聞いた話だから真偽のほどは分からないけど王女殿下の悪評はあの女が流したらしい。
どちらも真偽は分からない。だが、ここまでの様子を見れば答えは自ずと出てくるだろう。
「アリソン殿の言葉は何も間違ってはいない」
「隊長!?」
それって、隣国に捨てられた出来損ないの王女だってことか?
いくらΩだからって、まさか隊長が肯定をするなんて見損なった。
「勘違いをするな。Ωかどうかは関係ない。どういうわけか、王妃様は最初から王女殿下のことには関心がなかった。それに、今回のことでより一層、王妃様は殿下に対する拒絶が酷くなった」
それは俺も知ってる。
これでも王宮護衛騎士だからな。だから一部では王妃様が心を病んでいると言われていることも知っている。
「陛下にとって優先は王妃様だ。だから、王妃様が拒絶をするならたとえ実子であっても要らないのだろう」
まるで物を捨てるような物言いで言うんだな。
血の繋がった我が子をそんな簡単に捨てられる人を主人と仰いで大丈夫なのだろうか?
実子ですら簡単に捨てられるのなら、血の繋がらない俺らは要らなくなったらもっと簡単に捨てられるのではないだろう。
「王妃様は現在、第二子を妊娠している。Ωの王女殿下がいなくても問題ないと判断したのだろう。それに、Ωではどのみち王にはなれない。加えて王妃様のあの拒絶の仕方を見て、今回殿下が起こした事件は陛下にとって渡りに船だったのだろう」
「ならば、余計にもっとまともな人をつけても良かったじゃないですか?せめてもの親心として。殿下だって、好きでΩに生まれてきたわけではないのですから」
ましてや、Ω嫌いの王子に嫁ぐことになるのだから。
王女殿下がΩであることは伏せられている。緘口令は敷かれたけど騎士である俺たちが知っているのだ。隣国の王子なら簡単に調べられるだろうし、バレたら国際問題にもなる。
そうなれば、陛下はきっと完全に王女殿下を切り捨てるだろう。
王族を憚った罪で王女殿下が最悪、処刑になったとしても。どうして、ここまで冷酷になれる?そんなに王妃様が大事なのか?
あの、散財しかしない、責務を放棄した人が?
確かに美しい人ではあるけど、王妃なら見た目より中身だろう。
「陛下が一番捨てたかったのは付き添いのアリソン・レドブルガ子爵令嬢だ。彼女が国内にいてはいずれ、王妃の身が危うくなるからな。それに、妊娠を知ったら何をするか分からない。だから、まとめて捨てたかったのだろう」
なんて、酷い話だ。
あの女は王女殿下の侍女らしいけど、侍女なら本来は主人が快適に過ごせるように色々と気を配るものなのにあの女は不満を垂れ流すだけで何もしようとしない。
同僚からも、あの女に関する不満の声が出始めている。
俺たちは騎士であって、侍女ではない。
なのに、食事の準備や、王女殿下のもとに食事を運ぶことまで俺らがしている。
少しは手伝えよ。
「余計なことは考えるなよ。王族のすることだ。俺たち一介の騎士がどうこうできる内容ではない。俺たちは、言われたことを忠実にこなすだけだ。それが出世への近道であり、生き残る術だ。いいな」
「・・・・・はい」
隊長の言っていることは分かっている。だから、不満なんじゃないか。
せめて、この旅の間だけでも心安らかに過ごせればいいのだが。
・・・・・無理だろうな。何せ、あの女とずっと同じ馬車の中なのだから。




