第2話 使ってみたい
「さて……どうすっかな」
転生したらしい、という事実を受け止めるまでに二分。そこから頭を切り替えるまでに三分。
気づけば俺は、無意識に草をちぎって匂いを嗅いでいた。
「周囲は草原……視界は開けてる。気温は……体感で18〜22度か。湿度はそこまで高くない」
淡々と独り言を並べながら、現実逃避のように分析を続ける。
脳が“化学実験レポートモードから抜けきっていない。
「よし、まずは探索と情報収集だな」
言葉に出すことで、ようやく“現場作業”が始まった気がした。
そして歩き出して、10分後――
「はぁ、はぁ……つらっ……」
足が鉛みたいに重い。
肺が燃えてるみたいに熱い。
「……ろくに五年間も体動かしてないからなぁ」
高校から大学まで、化学薬品の分子構造は覚えても、筋肉の動かし方は忘れていた。
まさか異世界の初仕事がリハビリとは思わなかった。
二時間が経ったころ、問題が起きた。
水がない。
周囲を見渡しても、川も沼も、湿った土さえ見当たらなかった。
草原はただ、どこまでも乾いて広がっている。
「……喉が、渇いてきたな。流石にやばいな」
舌がざらつく。唇が張り付く。
頭の中の知識が自動で動き出す。
「人間は体重の一〇%以上の水分を失うと、生命維持が危険になる……」
そう、俺の脳はこういう時でも教科書を引用してくる。
「そういえば……さっき“魔力量9999”って言われたよな。
なら、魔法が使えるのか?」
胸が高鳴る。
死の危機の真っ最中だというのに、科学者としての好奇心が勝ってしまう。
だが、使い方がわからない
「声、創造、ジェスチャーどれなのか?」
ここは理系らしくエラーしまくって情報収取だ
「まずは声、アクア!」
でない
「ウォーター!」
でない
「声ではないのか?」
次にイメージで試してみる
「水の流れる音、温度、反射、物質...ダメだ深くイメージしすぎて頭がパンクするもっと楽なイメージの方法はないのか?例えば式のように...式?」
理系ならだれでも通る化学の式
「化学式をイメージすれば」
「水のイメージ生成……分子式で言えばH₂O
つまり水素二つと酸素一つを結合させればいい。
問題は、この魔力がそれに使えるかどうか、だな」
両手を前に出す。
掌に集中し、頭の中で反応式を思い浮かべる。
2H₂ + O₂ → 2H₂O
「いけっ!」
──ボフッ。
軽い破裂音。
手のひらに青白い光が走った次の瞬間、小さな水滴がぽとりと落ちた。
「……出た!」
だがその喜びも束の間。
「ん?……熱っ!?」
次の瞬間、手のひらから煙が上がった。
どうやら、反応熱の調整を完全に忘れていたらしい。
「おいおい、最初の魔法が発熱反応で手の甲焼くとか、理系転生者として恥ずかしすぎるだろ……!」
けど、俺は魔法が使えることを何より喜んだ




