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第4話 王女様

 芹澤将太は空を見上げ、半透明の画面に目を奪われていた。そこには『創造しますか?』と文字が浮かぶ。炎に包まれた家屋の轟音と、戦士の「殿下!」という叫びが耳に響く中、将太は心の中で叫んだ。


 ──勿論する!!


 画面が揺らぎ、新たな文字が現れる。


『創造を刻んでね』


 将太は目を閉じ、焦る心を落ち着かせる。


 ──雨、雨を降らせたい……激しい雨…大地を揺るがすような……


 そう念じると、頭が熱くなるような感覚が走る。それと同時に画面に文字が刻まれた。


『銀のハープのような雨が天から降り注ぎ、炎の霊を優しく鎮め、抱擁する』


 その瞬間、空が一変した。青空に黒い雲が渦巻き、雷鳴が轟いた次の瞬間、画面に刻まれたような雨がザアアと降り注いだ。


 雨は燃え盛る家屋を叩き、炎を瞬く間に鎮めた。黒煙が薄れ、鋭く肺をかきむしるような焦げた木の匂いが湿った土と優しい雨の香りに変化していく。雨の音はまるで柔らかなハープの調べのように聞こえる。雨は火が消えると、まるで目的を果たしたかのようにピタリと止んだ。呆気に取られていた将太の腕から戦士は離れ、「殿下!」と叫びながら焼け跡に駆け寄る。


 村人達が将太と同様にして呆然と空を見上げ、囁きあっていた。


「奇跡だ……」

「こんなことって……」

「創造神マアナ様のおかげですじゃ……」


 将太の隣には、先程3体のゴブリンに襲われそうになっていた少年がいつの間にか立っている。少年は目を輝かせ、叫んだ。


「さすが…流石勇者様です!!」


 その声は村中に響き渡り、村人たちの視線が一斉に将太に集まる。


「あのお方が勇者様?」

「予言の勇者様か!?」

「おお、勇者様じゃ!」


 ざわめきが広がる。将太はたじろいだ。


「いや、ちょっと待て、落ち着けって!」


 手を振り、村人の視線を遮ろうとするが、村人達が更に集まり始めた。しかしその時、焼け焦げた家屋の壁がガラリと崩れる。


 戦士が脆い壁を蹴破り、中から出てきた。続いて、付き人の女に支えられた少女が現れた。燃える家屋の中にいた王女だ。燃え盛る家屋の中で怯えていた姿は消え、威厳に満ちた表情を浮かべている。清楚な服は煤で汚れ、髪は乱れているが、目には王女然とした落ち着きを宿していた。彼女は将太を見つけると、突然駆け寄り、両手で将太の手を握った。


「ありがどうございまずぅぅぅ!!!」


 王女と思われる者は涙と鼻水を流しながら叫び、将太の手から今度は腰に抱きつく。スーツにべっとりと鼻水が擦り付けられるのを将太は感じ取った。


 将太は内心でツッコミを入れる。


 ──人前で号泣する王女なんていねぇわ!ちょっと緊張しちまった俺の心境かえせよ!


 戦士が一歩進み出て、深々と頭を下げた。


「王女殿下の救出にご尽力賜り誠に感謝申し上げます、勇者様」


 将太は心の中で叫ぶ。


 ──いや、この王女をまず止めろよ!?王女殿下っぽくないことやってるから!!威厳が失くなるから!!


 戦士は続ける。


「あなた様が予言にあった勇者様なのですね?」


「予言?」


 将太は眉をひそめる。


 ──さっき村人も言っていたが、予言って何だ?


 考える間もなく、王女が泣き止み、涙と鼻水はいつの間にか引いている。嘘泣きだったのか?と疑いたくなるような変わりようだった。王女は名乗った。


「私はゴダート王国の王女、アイリーン・クローバー・マーティン・ルイスです」


 将太は思わず吹き出し、心の中でツッコむ。


 ──ファンタジー作家の名前を合わせたような名前だな!!節操ねえぞ!


 王女は続ける。


「この度は、予言によりあなた様を迎えに来たのです」


 将太は頷きかける。


 なるほど、俺を迎えるためにこんな田舎村に来たのかと納得しかけた瞬間、王女がさらりと続ける。


「そんな理由がなければ、こんなクソ田舎には来ないんですけれど、あなた様にお会いしたく、馳せ参じた次第でございます」


「口悪っ!」


 将太は思わず叫び、内心で毒づく。


 ──王女が『クソ田舎』って何だよ!?なろう系異世界のキャラかよ!?


 すると王女の付き人の女が言った。


「王女殿下!これは勇者様の好感度アップイベントですよ!?」


 ──お前らがなろう系の主人公視点を体現すんなよ!


 将太は内心でツッコミをいれる。王女はハッとして、ぎこちない微笑みを浮かべた。


「つきましては、勇者様降臨の宴をしたいと存じますが、如何ですか?」


 将太は手を振る。


「いや、いいよ、やらなくて。俺、さっきのスキルをもうちょい試したいし……」


 ステータス画面やスキル『創造』の力が気になって仕方がない。だが、王女は同じ文言を繰り返す。


「つきましては、勇者様降臨の宴をしたいと存じますが、如何ですか?」


 笑顔を張り付けているが、目が笑っていない。


 村人達も「宴だ!」「勇者様を祝おう!」とうずうずしているのが伝わる。王女はさらに圧を込める。


「如何ですか?」


 将太は自身が空腹であることを察し、ため息をつく。そして渋々、宴に参加することを決断した。

 

「まあ、腹も減ったし…いいか」


 王女は両手を合わせて叫ぶ。


「まあ、なんておめでたい日なのでしょうか!これで勇者様の好感度MAXですね!?」


 付き人が言う。


「はい!間違いなくこのままハーレム確定です!」


 ──確定すな!!


 将太が内心でツッコミをいれると、アイリーン王女は村人たちに号令をかける。


「さあ、皆さん、勇者様を囲い、宴の準備をするのです!」


 村人達が歓声を上げ、村総出で動き始める。この村で一番立派だった建物が焼けてしまい、ゴブリンの爪跡も残っているにも拘わらず、皆とても明るかった。


 ──宴どころの騒ぎじゃねぇだろ……


 村人の何人かは、この焼け跡のまだ灰になっていない木材を薪にしようと、切り始める始末だ。将太が村人の逞しさに呆気に取られていると、宴の準備が整い始める。子供達は笑いながら走り回り、楽しそうにしていた。


 ──さっきまでゴブリンに襲われて死にそうだったってのに……あ、そっかこれなろう系だからそんな感情どうでも良いのか……


 将太は取り残されたように立ち尽くしていると、将太が助けた少年がそっと近づき、囁く。


「勇者様、すごかったです!あの雨、僕、絶対忘れません!」


 将太は少年のキラキラした目を見て、気まずそうに頭をかいた。


「いや、まあ…な……」


 言葉を濁す。すると将太は少年の着ている服に違和感を抱いた。


「ん……これは…まさか!?」

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