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ファンタジー好きの俺、設定ガバガバな異世界に召喚されてぶちギレる。~こうなりゃ俺が本格ファンタジーの真髄を叩き込んでやる~  作者: 中島健一


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第34話 ドワーフの魂

 モルドレッドの非業の死が、ドワーフのドーリの魂を激しく揺さぶった。彼は自らの激情に驚愕していた。まさか、今まで蔑んできた人間の死が、これほどまでに己の感情を掻き乱すとは思っていなかったのだ。怒りの矛先は、この混沌と悲劇をもたらした魔王ではなく、友を焼き殺した、あの翼を持つ蜥蜴に向かっていた。


 その仇が今、天空から鋭角に滑空し、彼を食い破らんと迫る。ドーリはデイルハンマーを構え、迎え撃った。ハンマーは竜の鼻先に命中し、激しい音と閃光が炸裂した。滑空してきた竜は上空へと高く突き上げられる。この戦鎚の形状、怒りをぶつけるにこれほど相応しいものはなかった。この時ほど、ドーリはハンマーの形状に感謝したことはない。今の攻撃でようやく竜の身体から血が流れ始め、大地を炎以外の赤で染め上げる。


 その威力に恐れをなしたのか、魔王がドーリめがけて長剣を振りかぶり、斬りかかった。だが、それをヴォルンドが阻む。鋼と鋼が激しくぶつかり合う音が鳴り響き、ヴォルンドの口から力強い言葉が放たれた。


「もう二度と仲間は失わない!」


 その言葉は、ドーリの心に更なる力を与えた。あんなにも頼りなかった田舎村の少年が、今では自分の背を預けられるほどに成長した。モルドレッド亡き今、自分がヴォルンドたちを引っ張らねばならない。ドーリは落下してくる竜を見ながら、渾身の一撃を放つべく狙いを定めた。


 しかし、これまで竜との戦闘中に近づいてこなかったゴブリンやホブゴブリン、ワイバーンたちが、魔王の命令を受けたかのように乱れ飛び、襲いかかってきた。


「ちっ!」


 ドーリは舌打ちした。するとリラゼルとアイリーンが矢と火球で応戦し、ドーリを竜との戦闘に集中させる。


 ドーリの曾祖父、ドーリ二世が怪物グラウヴァルズを討伐した際に用いられた宝具、デイルハンマーは、仲間達の想い、そしてドーリ自身の想いが強まれば強まるほど、脈動し、その威力を増しているように感じられた。そんな多くの想いを一心に受け、落下してくる竜に狙いを定め、渾身の一撃を見舞おうとしたその時、何の因果か、彼の軸足が竜の血に取られ、ズルリと滑った。千載一遇の機会は失われ、一撃を振るうことすら叶わなかった。ドーリは竜と衝突しながら大地に伏した。


 衝撃により一瞬視界がチカチカと明滅する。しかしドーリは直ぐに起き上がった。身体に不調はないかと一瞬で確認し、辺りを見回す。竜の落下によって周囲にはたくさんの土埃が舞っていた。


 土埃がドーリの視界を遮る中、怪しく光る竜の両眼が見えたのもつかの間、ドーリは竜に上半身を飲み込まれ、胴体を両断するかのように鋭い牙で噛み砕かれた。激痛がドーリを襲い、夥しい量の血と共に意識が薄れていく。竜は上半身だけとなったドーリを飲み込もうと顔を上に向ける。ドーリは歯を食い縛り、上半身だけとなってしても、デイルハンマーを竜の口内で振るい始めた。


 生臭くヌメヌメとした真っ暗な口内で、彼は激痛に踠きながら何度もハンマーを打ちつける。ドーリは自分が死ぬまでハンマーを打ち続けると固く誓った。


 ──例え俺の血が流れ尽きようとも、俺の腕が動かなくなるまで、可能な限り腕を振るい続けてやる!!

 ──この一撃にドワーフの魂を込めろ!!

 ──栄光あれ、我が友よ!!

 ──そして、滅びろ、冒涜者よ!!


 ドーリの最後の誓いがデイルハンマーに力を与える。まるで雷を帯びるかのようにデイルハンマーは蒼白く光り、打ち付ける度に稲妻が迸った。


 その都度、竜は喘ぎ、苦し紛れに空を飛んだものの、一度大きく天を仰いだかと思えば、腹をくるりと上へ向け、まるでボロ雑巾のように天空から落下した。その間にも竜の体内では、巨大な心臓が脈打つかのように、ドーリのハンマーが打ち鳴らされる音が響き渡り、やがてその音も、静かに消えていった。


─────────────────────

─────────────────────


 魔王の一撃を受け止めたヴォルンドは、瞬時に違和感を覚えた。魔王の剣戟が、これほどまでに軽い筈はない。しかし次の瞬間、竜との戦いに巻き込まれぬよう後退していたはずのゴブリン、ホブゴブリン、トロールそしてワイバーンの群れが一斉に動き出した。魔王軍による大規模な進軍は、ドーリと竜、ヴォルンドと魔王の激戦に次々と割り込み、混乱を招くかに思われた。だが、アイリーンとリラゼルが、それを許さなかった。弓と魔法の閃光が闇を切り裂き、ゴブリンたちを次々と薙ぎ倒していく。


「ここは私たちに任せて、殿下は南の戦場へと向かってください」


 リラゼルの声が響く。アイリーンは一瞬ためらったが、リラゼルの『私達を信じろ』と語る瞳の輝きを見て取り、深く頷いた。そして、迷いなくここを離れ、突如として現れたホブゴブリンとハイトロールの大群が押し寄せる南の戦場へと駆け出した。


 その間にも、ヴォルンドは一撃、二撃と魔王の剣を受け止める。すると魔王は、唐突に上空へと飛び上がり、進軍するワイバーンの群れへと向かった。何を思ったか、空中で剣を振るうと、衝撃音と共に見えない何かが流星のように南方面へと移動していくのが見て取れる。何をしているのかと疑問に思うヴォルンドに対して、空中から一気に加速してきた魔王が、再びヴォルンドに襲いかかった。


 ヴォルンドは、魔王が振り下ろした剣をティルヴィングで受け止めた。しかし、その威力はこれまでの比ではなく、ヴォルンドは驚愕に目を見開いた。その破壊力に、ヴォルンドを中心として大地が抉れる。同時に、ドーリが宙に浮かせた竜も落下し、土埃が大きく舞い上がった。竜はドーリを信じて任せることを決意し、ヴォルンドは全神経を魔王に集中させた。


 魔王は剣を振り下ろし、そして薙ぎ払う。あまりの速度に、ヴォルンドは受けに回ることしかできない。またしても、魔王の一撃をティルヴィングで受け止めるヴォルンド。魔王の攻撃を受け止める度に衝撃波が周囲に飛び散り、ヴォルンドは少しずつ裂傷を負っていく。その衝撃波は周囲のゴブリンやホブゴブリンまでをも巻き込み、次第にヴォルンドと魔王を囲むような円形の闘技場が形作られていく。敵に囲まれてもなお、ヴォルンドは魔王の攻撃に次第に慣れ始め、周囲の状況を気にしなくなった。


 まだ魔王とヴォルンドの間には明確な力の差がある。しかし、ヴォルンドは唯一、自分が勝っている部分に気づいた。それは、魔王が持つ剣と、ヴォルンドが持つティルヴィングの質の差であった。ヴォルンドは、魔王の攻撃を受ける振りをしながら、魔王の剣を斬りつけるようにして、剣の消耗を図る。そして、魔王が剣を振り下ろそうとしたその時、ヴォルンドは好機と見て、魔王の剣を斬るようにティルヴィングを斬り上げた。


 金属の軋む音が響き渡り、魔王の剣が甲高い音を立てて折れた。そして斬り上げたティルヴィングは、そのまま全身を覆う魔王の鎧の肩部分に、くっきりと亀裂を入れた。すかさず、ヴォルンドは追撃の一撃を魔王に見舞おうとしたが、魔王は折れた剣を捨て、ティルヴィングを振り下ろそうとするヴォルンドの腹めがけて手を翳しながら、その腕を伸ばした。剣を持つヴォルンドの方が間合いが広い。魔王の伸ばした腕は、明らかにヴォルンドには届かないはずだった。


 だが、ヴォルンドは腹に衝撃を受け、後方へ吹き飛ぶ。何とか持ちこたえようと踏ん張るが、先ほど受けた衝撃で腹が痛み、踏ん張りが効かずに、地面を転がった後、背中を地面につけてしまう。何をされたのか分からぬまま、腹の痛みを堪えながらヴォルンドはゆっくりと立ち上がった。その腹部を見ると、鎧が粉々に砕け散っていることに気づく。鎧がなければ、自分は死んでいたかもしれない──ヴォルンドはそう悟ったその時、追撃を加えにきた魔王が詰め寄ってくる。


 死の恐怖がヴォルンドを襲ったが、リラゼルがヴォルンドの背にそっと手を置き、回復魔法を唱えた。


「アエテルナ・ヴィタエ・ルクス!」


 ヴォルンドはみるみるうちに回復し、先ほどよりも身体が軽いとさえ感じた。向かってくる魔王に、ヴォルンドは渾身の一撃を叩き込む。魔王はそれを右腕で受け止める。魔王の腕部分の鎧にひびが入った。しかし、魔王は受け止めた体勢から、先ほどの技をヴォルンドに再び見舞おうとする。だが、リラゼルが放った矢が魔王の動きを牽制し、その隙を与えない。


 ここに、ヴォルンドとリラゼルの二人が、魔王を相手取る新たな戦いの幕を開ける。

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