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ファンタジー好きの俺、設定ガバガバな異世界に召喚されてぶちギレる。~こうなりゃ俺が本格ファンタジーの真髄を叩き込んでやる~  作者: 中島健一


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第31話 激突

 ヴォルンドは、高揚に胸を震わせながら、白馬を駆り、眼前の魔王軍へとひたすら突進した。彼の背後からは、数多の仲間達が追随してくる。しかし、先頭の彼の前には、味方は誰もいない。ただ一人、広野を駆け抜けるヴォルンドの姿は、かつて亡き勇者が単騎で魔王軍に挑んだ時の情景を、彼自身に初めて理解させた。あの偉大な勇者も、このような孤高の感覚の中で、敵へと向かっていったのだろうか。そう思うと、ヴォルンドは、まるで彼に一歩近づいたかのような不思議な喜びに包まれた。


 遠くに見えていた魔王軍の先頭も、すでにこちらに向かって恐ろしい雄叫びをあげながら突進してくる。彼らは、まるで飢えた狼のような獰猛な獣に跨り、一歩一歩と速度を増して迫ってくる。獣は、灰色の毛に被われながらも筋肉質で引き締まった体躯であることがわかる。その背に跨るのは、主にホブゴブリン達だ。彼らは黒鉄の鎧を身につけ、ぎょろりとした目でこちらを見据えている。手には、使い込まれた鉈のような剣や、蛇のような歪な弓を携え、その全身から発せられる悪意が、風に乗ってヴォルンドの元へと届くかのようであった。


 そして、ついにヴォルンドは、先頭の獣に跨ったホブゴブリンと相まみえた。ホブゴブリンがその鉈のような剣を振り下ろす。ヴォルンドはそれを紙一重で掻い潜ると、長剣ティルヴィングを素早く振り払い、ホブゴブリンの脇腹を深く斬りつけた。一撃で戦闘不能にし、彼はそのままホブゴブリンの脇を通り過ぎる。そしてその背後にいる次の獲物へと襲い掛かろうとした。


 その瞬間、ヴォルンドの背後で、地響きを伴う鈍い衝突音が轟いた。それは、味方の軍勢と敵が激しくぶつかり合う、凄まじい響きであった。両軍から放たれる雄々しい雄叫びが、一瞬にして途切れる。代わりに、馬や獣がその巨体を激しくぶつけ合う音、跨がった者達が地面に叩きつけられる鈍い音、そして、鋭い武器が空を切り裂き、肉や骨を斬り裂く、生々しい音がヴォルンドの鼓膜に届いてきた。それは、まさに嵐の到来を告げるかのようで、広野全体が一瞬にして血と鉄の匂いで満たされた。兵士達の怒号と、魔物の咆哮が入り混じり、戦場の混沌が始まったのだ。


 ヴォルンドは白馬を進めながら、次々と迫りくるホブゴブリンや、足元を駆け抜けるゴブリンの群れを斬り払っていく。飛び交う矢を紙一重で躱し、振り払われる剣をティルヴィングで受け流し、あるいは刀身で受け止めながら、容赦なく相手を斬り伏せていった。彼の剣は、血に濡れ、しかしその輝きは失われなかった。


 その時、ヴォルンドの乗る白馬が、高々と前足を上げて立ち止まった。その先にいたのは、トロールの上位種ハイトロールであった。その巨体は、通常のトロールを遥かに凌駕し、一回りも二回りも大きい。トロール特有のだぶついていたはずの肉はすべて引き締まり、鋼のような筋肉が全身を覆っている。その瞳は、狡猾な光を宿し、獲物を見据える知能の高い獣のようであった。白馬に跨ったヴォルンドの背丈よりも高所に位置するその顔には、鋭い牙が覗き、見る者に狂暴な印象を与える。彼らは、専用の重厚な鎧を身につけ、その存在そのものが、並大抵の敵ではないことを物語っていた。


 馬に跨ったまま、ヴォルンドはハイトロールに相対した。ハイトロールは、巨大なメイスを振りかぶり、容赦なくヴォルンドへと振り下ろす。ヴォルンドはティルヴィングを構え、その強烈な一撃を受け止めた。だが、メイスに込められたあまりの威力に、馬ごと吹き飛ばされ、彼は背後で戦闘していたホブゴブリンの群れに激しく衝突し、そのまま地に伏した。亡き勇者から受け継いだティルヴィングでなければ、今の攻撃で剣は折れ、ヴォルンドをあの世へと送っていたことだろう。


 ティルヴィングに感謝したヴォルンドだが、地に伏した様を、ホブゴブリンの一体が目に止め、その手に握られたさびれた剣を突き刺そうと迫った。ヴォルンドは間一髪、転がりながらそれを避け、膝立ちとなり、ティルヴィングをホブゴブリンの腹に突き刺した。何とかホブゴブリンを撃破できたがしかし、ヴォルンドを吹き飛ばしたハイトロールが、すでに眼前に迫り、再びメイスを振りかぶっている。立ち上がる暇もなく、防御が間に合わないと悟ったヴォルンドは、一瞬、死を覚悟した。


 その刹那、ヴォルンドの背後から、ドワーフのドーリが雄叫びをあげながら突進してきた。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ドーリは、ハイトロールが振り下ろすメイスに、自らの持つ巨大なハンマーを叩きつけた。


 破城槌同士がぶつかり合うような、想像を絶する衝撃音が、戦場に響き渡る。そのあまりの威力に、ドーリとハイトロールは、互いに仰け反った。体勢を崩したハイトロールに、今度はモルドレッドが閃光のように迫る。彼の剣は、ハイトロールの着込む鎧と兜のわずかな隙間、首筋を正確に切り裂いた。しかし、それでもなお、ハイトロールは完全に倒れることはない。その頑強な生命力は、まさに脅威であった。


 だが、間髪入れずにエルフのリラゼルが、精確無比な矢を放つ。その矢は、ハイトロールのわずかに開いた目に吸い込まれるように命中し、ようやく、その巨体は絶命の咆哮を上げて大地に倒れ伏した。


 ヴォルンドは、改めて自分が一人ではないことを認識した。彼は、差し伸べられたドーリの手を取り、力強く立ち上がった。しかし、ようやく倒したはずのハイトロールは、戦場のそこかしこで、未だに猛威を振るっている。モルドレッドが、その現状を冷静に指摘した。


「ヴォルンドよ、見ての通り、王国軍は押され気味だ。一度下がって、ドワーフとエルフの軍に助力を乞おう」


 モルドレッドの提案に、ヴォルンドは頷いた。彼らの軍勢がこれまで参加していなかったのは、統一された指揮系統が確立されていないことと、ここが人間の領土であるため、まずは人間の軍が先行して武威を示すことに意味があったからである。


 ヴォルンドたちは一度後退し、人間達の戦いを可能な限り援護しながら、王都へと戻った。そして、ドーリとリラゼルは、それぞれ互いの軍へと赴き、出撃の命令を下した。


 今、まさに、種族間の協力が試される時。第二波の攻撃が、始まろうとしていた。

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