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ファンタジー好きの俺、設定ガバガバな異世界に召喚されてぶちギレる。~こうなりゃ俺が本格ファンタジーの真髄を叩き込んでやる~  作者: 中島健一


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第30話 僕に勇気を

 王都を背に、白馬に股がったヴォルンドは眼前に広がる大いなる平原を見つめていた。未だ眠りから覚めやらぬ朝日は、広野の草葉に露の珠を散らし、そこかしこに銀色の輝きを宿らせている。柔らかな陽光が、地平線の彼方からゆっくりと世界を照らし出し、平穏な美しさを湛える。しかし、ヴォルンドの胸中に渦巻く底知れぬ緊張が押し寄せる。この美しき平野が、間もなく血と炎に染まるであろう戦場となる。その予感は、彼の心臓を鈍く締め付けていた。


 ヴォルンドは、瞼を静かに閉じた。昨夜、ノースエッグ砦から届けられた報告が、脳裏に鮮やかに蘇る。砦から撤退してきた兵士達の顔には、深い絶望と、死の淵を覗き込んだ者だけが纏う異様な生気が刻まれていた。彼らが語ったのは、想像を絶する魔王軍の軍勢であった。


「……ゴブリンどもは、まるで地の底から湧き出す虫けらのように、数限りなく押し寄せ、その歪んだ剣と槍で、我らを貪り食らおうとした。ホブゴブリンは、狡猾な笑みを浮かべながら、大きな刃を振り回し、兵士たちの肉を容易く引き裂いていった……」


 その言葉は、耳を離れなかった。そして、何よりも彼の魂を震わせたのは、竜についてであった。それは、古の書物にしか存在しなかったはずの、最古にして最も根元的な恐怖であった。領主であるキャラハン卿もその竜の吐く業火によって焼かれたとのことだ。それらの報告は、この世の終わりを予感させる、圧倒的な暴力に他ならない。


 これから、この恐るべき存在達と、自らが戦わねばならぬ。その事実が、ヴォルンドの胸に、鉛のような不安と凍てつくような恐怖を押し付けた。果たして、己に、この災厄を退ける力があるのだろうか。


 その時、ヴォルンドの肩に、そっと手が置かれた。モルドレッドの手である。振り返ると、微笑をたたえた師がおり、その背後には、清らかな光を放つアイリーン王女が立っていた。その隣には、翠の衣を纏うエルフのリラゼル、そして頑強な体躯のドワーフのドーリが控えている。さらにその後方には、彼らの希望を一身に背負った、数多の兵士達が、静かに、しかし確かな覚悟を瞳に宿して整列していた。


 朝日が、彼らの甲冑の輝きを増し、その顔を明るく照らす。その光景は、ヴォルンドの胸の奥底に、それまで感じたことのない温かな熱を灯した。彼の背筋を貫いていた重圧が、ほんのわずかだが、確かに和らいでいく。彼は、一人ではない。この広野に集いしすべての者たちが、同じ空の下、同じ志を胸に、彼と共に立っている。その事実が、彼の内に眠る意思の炎を、静かに、力強く燃え上がらせた。


 地平線に、黒い波がうねり始めた。魔王軍の軍勢である。その数は、およそ8万。そのおぞましい影が広野を覆い尽くす様は、見る者の魂を凍りつかせるには十分であった。ヴォルンドの胸に再び戦慄が走る。しかし、同時に、彼は昨日のノースエッグ砦での死闘が、決して無駄ではなかったことを思い出した。あの地で、2万もの敵兵が討ち取られていたのだ。その事実が、彼の胸に感謝と、勝利への確信をもたらした。


 その時、アイリーン王女が、ヴォルンドへと視線を向けた。


「勇者ヴォルンドよ。兵士達に、言葉を」


 ヴォルンドは、自らがそんな大層な人間ではないと、一瞬ためらった。しかし、彼の視線は、隣に立つモルドレッド、リラゼル、ドーリへと向けられ、そして、勇者である芹澤将太から託された、黒い腕輪へと滑った。その腕輪が、彼の心に再び、確かな光を灯す。ヴォルンドは、一歩前へ進み出た。彼の言葉は、民を治める偉大な王や、神話に出てくる英雄が語るような、華麗な修辞に彩られたものではなかった。それは、飾ることなく、民を慕い、彼らに寄り添う、隣人のような、素朴で真摯な言葉であった。


「僕は…僕達は決して強くはないかもしれません。恐れない者など、誰一人としていない。だけど、僕らは一人ではありません。隣には友が、背には家族がいます。今日、僕達の戦いは、明日の光となり、誰かを照らす道しるべとなることでしょう。さあ、友よ、この嵐を共に乗り越えよう。僕達の手で、未来を掴み取りましょう!!」


 その言葉を聞いた兵士達は、互いに顔を見合わせ、やがて、それぞれが持つ武器を天に掲げ、轟くような雄叫びを上げてヴォルンドに応えた。彼らの声は、広野を揺るがし、戦意を燃え上がらせた。


「なんでぇ、もっと血湧き肉踊るようなことが言えんのか!?」


 ドーリが、ヴォルンドを叱責するかのように大声で言った。だが、その顔には、隠しきれない笑みが浮かんでいる。


「だが、お前らしい、良い言葉だったぞ!」


 ドーリはそう付け加えると、兵士達のあげる歓声に加わった。アイリーン王女も、モルドレッドも、そしてリラゼルも、その顔に静かな笑みを浮かべていた。


 その瞬間、魔王軍の軍勢が、広野の深奥しんおうから進撃を開始した。ヴォルンドは長剣ティルヴィングを抜き、刀身を立て、祈るようにして呟く。


「将太さん、僕に勇気をください……」


 そして全身全霊を込めながら、長剣の切っ先を魔王軍に向けて言った。


「突撃ぃぃぃぃ!!」


 ヴォルンドの叫びが、朝日を浴びる広野に響き、兵達がそれに呼応した。

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