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ファンタジー好きの俺、設定ガバガバな異世界に召喚されてぶちギレる。~こうなりゃ俺が本格ファンタジーの真髄を叩き込んでやる~  作者: 中島健一


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第27話 人影

 キャラハン卿の息子、ニッグ。彼は十六の齢にして、既に大人の面差おもざしを宿していた。その瞳には、次期当主としての揺るぎない自覚が宿り、彼の心は、ノースエッグ砦で繰り広げられる魔王軍との開幕戦への参戦を強く願っていた。自分の1つ上の少年達が砦の壁上で弓を引き絞るというのに、自らは母と共に安全な王都へと避難していることに耐えきれず、彼は密かに、そして大胆にも、戦火渦巻くノースエッグ砦へと潜入したのである。


 ──父上は、16歳以下の男に避難命令を告げた……


 それは息子ニッグがこの戦いに参加させない為であると誰もが噂している。父であるキャラハン卿からは次期当主のお前にここで死なれては困ると告げられたが、ニッグにとっては次期当主だからこそ、この戦争に参加するべきだと主張していた。2人の会話は平行線を辿り、ニッグが今回の作戦を思いつき、父の言うことを一旦聞くこととなったのだ。ニッグはこの戦乱の中に身を置くことで、何か得られるものがあるという確信が、彼の若き魂を突き動かしていた。


 既に激戦が繰り広げられている壁の方角からは、ここが砦の奥深くにあっても、ただならぬ異様な雰囲気が伝わってくる。父の武威、そして己が将来率いるであろう兵士達の死闘をこの目に焼き付け、あわよくば自らも戦列に加わろうと決意したその時、砦内にある大きな酒場に、怪しげな人影を見つけた。現在砦の住人は全て、王都へと避難した筈である。ニッグの心に1つの思考が過った。人影の正体がわかったのだ。戦いから背を向け、逃げた者である。ニッグの胸に義憤が込み上げた。彼は怒りを露わにし、その人影を見かけた酒場を覗き込む。


 彼の目に飛び込んできたのは、信じがたい光景であった。兵士ではない人間が、食べ物や酒、そして金目のものを漁っている。ニッグは驚きのあまり後退ると、この酒場の近くの武具店や道具屋にも人影があり、同じようにして物品を盗み出しているのが見てとれた。ニッグの正義の心が激しく震え、彼はこの酒場にいる盗人を叱責した。


「貴様!何をしている!この一大事に、盗みを働くとは何事か!!」


 すると、その盗人は不敵にも反論した。


「ちっ、領主様んとこのガキかよ……あのなぁ、どうせ魔王軍に、この砦は壊されるんだ。なら、今のうちに金目のモンは俺様が預かっておくのが道理ってモンだろうよ?それに、俺だけじゃねぇ。他の奴らにも言ってみな!」


 ニッグは腰に提げた長剣を抜き放ち、その切っ先を盗人に突き付けながら、厳かに命じた。本来ならば魔王軍の悪鬼に向けるべき刃である。


「盗んだ物をそこに置け!さもなくば、この剣が貴様の血を吸うことになるぞ!」


 しかし、次の瞬間、背後から忍び寄った盗人の仲間の1人が、ニッグの頭を鈍器で殴り付けた。視界が暗転し、ニッグの意識は闇の底へと沈んでいった。


「早いとこずらかるぞ」


─────────────────────

─────────────────────


 キャラハン卿は、次第に自軍が押され始めていることを痛感していた。ゴブリンの軍勢ならば、まだ足止めが可能であった。しかし、そこにホブゴブリンやワイバーンが混じり始めると、戦況は一変した。ホブゴブリンの放つ弓矢や投石はゴブリンのそれとは比べ物にならないくらいの正確さであり、梯子をよじ登って壁上での白兵戦が激化する。空からは、馬をも容易く掴み上げるワイバーンの前足が兵士たちを襲い、多くの命が失われていく。兵士たちは苦戦を強いられ、その顔には疲労と絶望の色が濃く浮かんでいた。


 キャラハン卿は、自らの認識の甘さを痛感した。このままでは全滅する。彼は苦渋の決断を下す。作戦通り、ノースエッグ砦を、故郷を捨て、退却を試みるのだ。しかし、その時、壁上の乱戦の中、突如として歓声が上がった。声のする方に視線を送ると、そこには、まばゆいばかりの光を放つ二つの影があった。


 一人は、勇者パーティーのメンバー、モルドレッド。彼の長剣は、銀の稲妻と化してホブゴブリンの群れを切り裂き、その一撃は大地を揺るがすかのようであった。もう一人は、ドワーフのドーリ。彼の手に握られた巨大なハンマーは、まるで生き物のように唸りを上げ、ホブゴブリンの頭蓋を砕き、その巨体を吹き飛ばす。二人は圧倒的な力で魔王軍を押し返し、戦況を覆し始めていた。


「ダッハハハハハ!!来い来いぃ!!」


 ドーリの雄叫びが戦場に響き渡る。彼らは魔王軍の様子を探る為に、斥候として派遣されてきたようだが、血が騒いだせいか、我々に加勢している。見たところ、ドーリが言うことを聞かずに戦闘に参加した為、モルドレッドが仕方なくついてきたといったところであろう。二人の活躍に、キャラハン卿の胸は熱くなった。このまま、ここで魔王軍を、しかも勇者不在の状況で打ち破れるのではないかという、新たな希望が彼の心に芽生えた。

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