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ファンタジー好きの俺、設定ガバガバな異世界に召喚されてぶちギレる。~こうなりゃ俺が本格ファンタジーの真髄を叩き込んでやる~  作者: 中島健一


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第25話 決戦前日

 黄昏は深く、幽遠なる帳を大地に下ろす。それは現実と夢の境、幻想のヴェールが世界を覆う時。森は琥珀色に染まり、木々の梢は幽玄な調べを奏でる。かの勇者、芹澤将太は、この神秘の薄明に身を置き、葉の隙間から覗く緑色に輝く星を見つめていた。彼の魂は、描かれし理想の彼方へとひた走り、その実現に胸躍らせる。


 魔王討伐のパーティーメンバーは将太が出会った頃と比べて、信じられない程の成長を遂げた。テンプレ以下、ギャグテイスト満載のキャラクター達が、勇者である将太の命を散らすことで、魂の変容を遂げさせる。スキル『創造』で彼等の父や母、歴史等を修正し、彼等自身──ヴォルンド以外──にも将太の死で何かしらの影響を与えるように多少作用させた。魔王を討伐せんとする誇り高き者達へと彼等は成長したのだ。


 今や魔王の軍勢をモルドレッドと共に作り上げ、茨の森から襲来させるその時を待つばかり。


 将太の眼差しは緑色に瞬く星より、この幻想の森に佇む、今にも綻びんとする薔薇の蕾へと注がれる。茨の森を茨と呼ばせている象徴だ。彼はそっとそれを摘み取る。それはあたかも、これから広がる理想の世界を、この蕾が美しく咲き誇るであろう花に重ね合わせているかのようだった。咲き誇る薔薇を幻視し、その花弁の中に将太の理想がけ入る。


 その時、闇よりモルドレッドが姿を現し、ヴォルンドの成長を告げる。


「着々と成長しております。これも将太のおかげかと……」


 将太は満足げに頷き、問うた。


「このまま魔王であるお前をヴォルンド達にぶつけるわけなんだが、その落としどころはどうする?」


 将太の望みは、魔王を倒すまでの心と身体の旅。行きて帰りし物語だ。将太の理想では魔王はヴォルンド達に討伐される。しかし、将太はそれを望んではいない。何故なら友であるモルドレッドが死ぬことなど考えられないからだ。


 モルドレッドは答えた。


「この世を壊すことこそが、我が至上の目標。されど、将太の理想のためならば、我が死も辞さない……」


 その狂気じみた言葉に、将太は冷や汗をかいた。しかし彼は、胸中に秘めたるスキル『創造』により、モルドレッドをも生かすと決意する。今の自分のように死を偽装させ、モルドレッドを生かすつもりなのだ。初めて得た真の友を、将太は失うわけにはいかない。彼は、その真意を友に告げたせいで、いさかいが起きることを恐れ、それ故に内に秘めることとなった。そして共に魔王の軍勢の創造に没頭し、その問題を直視せず逃避した。


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 ジギタリスの花が咲き乱れ、紫のつりがねが微風に揺れる。訓練場にて、若きヴォルンドは今は亡き勇者の長剣ティルヴィングを手に、ただ一心に素振りを繰り返す。その姿は、剣士の修練というよりは、むしろ優雅なる舞踏であった。剣は彼の腕の中で生き物のように躍動し、光を纏いながら弧を描く。一振りごとに風を切り裂く音は、まるで秘められた旋律のごとく、空間に響き渡る。その切っ先は星辰せいしんの軌跡を辿り、その動きは水面に描かれる波紋のように淀みなく、見る者を魅了してやまない。


 舞踏の如き素振りが終わりを告げた時、師であるモルドレッドの声が響く。


「ヴォルンドよ!」


 呼び声に応え、彼は師の元へと向かい、共に王都への道を進み始めた。かつてそばかすに彩られ、幼さの残る顔つきであったヴォルンドの面差おもざしは、この一年間の修練を経て、見違えるように精悍せいかんさを増していた。瞳には揺るぎない光が宿り、その口元は固く結ばれ、額や腕、黒衣によって見えないが身体中に幾度もの困難を乗り越えた証の傷が刻まれている。もはや、そこに往日おうじつの村人の面影はなく、ただ使命を帯びた勇者の顔があった。


 王都へと続く道中、ヴォルンドとモルドレッドを乗せた馬車に、エルフ王国の馬車、次いでドワーフ王国の馬車が合流する。互いに顔を合わせることもなく、ただ王都へと向かって進み続けた。


 そして壁に囲まれた王都の威容が目前に迫る。門前に立つは、アイリーン王女だ。彼女の白い肌は夕陽を浴びて輝き、金色の髪は風に揺れる。


 馬車から降りたヴォルンド、モルドレッド、エルフのリラゼル、ドワーフのドーリ、迎えに門までやって来たアイリーン王女は静かに、しかし確固たる足取りで横一列に並び立つ。彼らの歩みは、まるで時の流れさえも緩やかにするかのごとく、荘厳な沈黙の中に響き渡る。一歩、また一歩と、彼らの魂が一つに結びつき、未来への確固たる意志となって王城へと向かう。


 やがて彼らは、国王トマス陛下の待つ王の間に足を踏み入れる。純白の大理石で築かれた玉座にトマス陛下は鎮座している。広間は静寂で満たされ、謁見者の心に畏怖の念を抱かせた。床には複雑な幾何学模様が織り込まれた深紅の絨毯が敷き詰められ、ステンドグラスから差し込む光が、ヴォルンド達の姿を絵画のように荘厳に照らし出す。一同は厳かに跪き、その場の空気は張り詰めた緊張感と、これから始まる壮大な戦いへの期待に満ちていた。


 その沈黙を破り、勇者ヴォルンドの低く、しかし力強い声が玉座の間に響き渡る。


「陛下、魔王を討つべく、勇士ここにまかしました」

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