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ファンタジー好きの俺、設定ガバガバな異世界に召喚されてぶちギレる。~こうなりゃ俺が本格ファンタジーの真髄を叩き込んでやる~  作者: 中島健一


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第22話 アイリーンの修行

『勇者の喪失に嘆く王女。真の闇を払うべく、力求めん。亡き母との邂逅、命を削る誓いを知りて、愛しき全てのため、尊き宿命を受け入れたり。未来へ、王女の覚悟、光とならん』


 アイリーン王女は勇者の死を嘆いていた。夫となる筈だった勇者、芹澤将太は魔王と刺し違える。ロリス砦の壁の上から、従者のヴォルンドに抱きかかえられている勇者様を彼女はただ見ていた。アイリーン王女はヴォルンドの背中と、ヴォルンドの両脇から勇者様の頭と脚しか見ることができなかった。軈て、勇者様は天へと昇り、世界を照らすようにしてお隠れになってしまわれた。世界に平和が訪れたかに思えたが、勇者様の葬儀の最中、女神マアナの言葉にアイリーン王女達は驚愕した。


 勇者様の討ち倒した魔王は、魔王のただの駒に過ぎないとのことだった。アイリーン王女はそのことに驚きもしたが、同時に勇者様の命を奪った恨むべき根源を叩くことができると喜ばしくも思った。


 その為には今の自分を変え、更なる力をつけねばならない。アイリーン王女は、父であるトマス国王陛下に尋ねた。


「私に、強力な魔法を教えてくださいませんか?」


 国王の表情が厳めしく歪む。アイリーンはその表情を知っていた。父が娘の将来のことで悩む時に必ず、そのような顔を作ったものだった。過去には、娘に魔力が顕現した時と勇者降臨の予言がでた時だ。それぞれ娘の将来に大きく関わる事柄の時に、国王はそのような顔を作っては、大きな溜め息と共に、思考に耽る。だからアイリーンはただ黙って父の言葉を待った。そして父は決まってアイリーンの意に添う解答を出す。


「わかった。お前の母、デイジーが何か残しているかもしれない。城へ帰って、めぼしい記録を探してみよう」


「はい!」


 アイリーンの母デイジーは、アイリーンがまだ幼い時に亡くなってしまった。そんな王妃であるデイジーは稀代の魔法使いとして世に知れ渡っていた。そんな母の遺品をこれから王都のお城で捜索することとなった。リラゼルやモルドレッド、ヴォルンドにドーリと一時別れることになるが、皆それぞれ鍛練を積んで王都にやって来ると誓いを果たした。


 人足先に王都へと到着すると、アイリーンは早速城へ入り、書庫を捜索した。魔法についての書物は粗方読んでいるため、見慣れない本を集中的に開いては、読み漁った。古くなった紙とインクとホコリの臭い、ページを捲る音が書庫を満たす。


 アイリーンはここで何かを見つける予定というか、予感がしていたのだが、何も見つけることができずに、今度は王妃の部屋へ入った。


 ここには殆ど何も置かれていなかった。アイリーンの部屋よりも幾分か広いこの空間。壁には幾つかの絵画が掛けてある。一際目立つのが、やはり王妃の肖像画である。水色のドレスに身を包み、アイリーンと同じく綺麗な金色の髪に真白い肌。本を片手に絵画を見ているアイリーンに向かって優しく微笑み掛けている。


 アイリーンは王妃の手にしている本に注目した。


 ──見たことない本だわ……


 もう一度書庫へと戻り、王妃の手にしていた本を探すが、何も見つからなかった。結局この日は、旅の疲れもあり、魔法の修行をすることができなかった。


 自室に戻り、天蓋つきのベッドに潜り込むと、アイリーンは直ぐに眠ってしまった。

 

 夜中、ふとした時にアイリーンは目を覚ます。華やかな城内にある自室は一変して、暗闇に包まれていた。身体を起き上がらせ、水差しからグラスに水を注いで、口にする。すると室内に一筋の光が煌めいたのを目にする。寝ぼけ眼で煌めいた空間を凝視すると、そこには一本の細い銀でできたような糸が見てとれた。


 ただの蜘蛛の巣かと思ったが、アイリーンはベッドから起き上がり、その糸を掴もうとするが、掴むことができなかった。不思議なその糸の先は、扉を示している。


 アイリーンはその糸がどこから張り巡らされているのか気になり、扉に近付くと、糸は扉を貫通していた。扉を開け、糸の先を確認しようとしたが、糸の行方は廊下の闇の奥に消えている。


 アイリーンはその糸を辿って、城内を歩く。誰もいない、寝静まった城内は薄気味悪い雰囲気を醸し出しているが、この糸を辿っていくことに関しては特段、悪い気はしなかった。寧ろ、この糸が自分を守ってくれる気がしてならない。


 銀の糸は今日訪れた王妃の部屋に続いていた。アイリーンはその扉を開けて、中へと入る。部屋の中は誰もいない筈なのに、蝋燭の火が何故だか灯っていた。


 ──今日来た時は、灯りなんて点いてなかったのに……


 不思議に思っていると、部屋のカーテンのかかった窓際に1人の女性が椅子に座っていた。驚き、息を飲んだアイリーンにその女性が視線を向ける。


 蝋燭の灯りでうっすらと照らされた女性の髪は銀髪で、黒いローブを着ていた。一見、年老いた老婆のようにも見えるが、蝋燭の火に照らされた女性の顔は非常に若く美しく見えた。


 アイリーンはこの女性をどこかで見た記憶があった。


 ──あっ……


 それはこの部屋に飾られた王妃の描かれた絵画だ。


 アイリーンは銀の糸のことなど忘れて、部屋に飾られた絵画を見た。するとその女性が言う。


「絵画の方が綺麗かしら?」


 アイリーンは直ぐに女性に視線を戻す。彼女と目があった。


「お母様……?」


 アイリーンの母デイジーは、鈴のようなアイリーンの声を聞いて涙腺が緩んだ。その為、視線を床に注ぎ、俯く。


「アイリーン……私の可愛い娘。そのお顔をよく見せてちょうだい?」


「お母様!!」


 アイリーン王女は王妃デイジーの元へと駆け寄った。アイリーンはずっとこのようにして母親に甘えたかったのだ。王妃の手がアイリーンの頭を撫でる。懐かしい香り、懐かしい心地にかつて母親に抱かれていた時の記憶が甦った。


「私、今まで頑張って参りました」


 母の残した魔法の書を読むことでアイリーンは母と繋がっている心地になれたのだ。そんな母を追って今まで努力をしてきた。


「ええ、知っているわ。貴方の魔法は当時の私をも凌ぐ素晴らしい腕前よ」


「そんな、嘘ですわ!」


 アイリーンは顔を上げて、母親を見た。


「私はまだまだ未熟者で……勇者様を死なせてしまいましたわ……」


 勇者の最後を思い出し、アイリーンは俯き、小さく震えた。母はそんな震えるアイリーンの手を優しく握る。アイリーンは再び顔を上げて、懇願する。


「私に魔法を教えてください!その為に、ここへ戻ったのです」


 母は浮かない表情をしたまま、黙った。アイリーンはその表情が父のあの厳めしい表情と似ていて、つい笑ってしまった。


「どうしたの?」


 母に不思議がられると、アイリーンは言った。


「フフッ、ごめんなさい。お母様ったらお父様と同じ表情をするんですもの」


「表情?」


「はい。困った時…いいえ、私が我が儘を言う時は決まって、お父様は今のお母様のような表情をするんですのよ」


 王妃は「そうなのね」と昔を懐かしむような視線を向けてからアイリーンのように笑みを溢した。


 そして、何か思い至ったかのような表情となり、アイリーンに言った。


「わかったわ。今の貴方になら修得できるはずよ」


 アイリーンは表情を華のように咲かせて言った。


「ありがとうございます、お母様!」

 

「ただし、これから教える魔法には代償があるの」


 アイリーンは覚悟を決めて、母の言葉を待った。


「物凄く強力だけれど、唱えると貴方の寿命が削れてしまう。だから唱える時は、本当に大切な人を守りたいと思った時に使わなくてはダメよ」

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