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ファンタジー好きの俺、設定ガバガバな異世界に召喚されてぶちギレる。~こうなりゃ俺が本格ファンタジーの真髄を叩き込んでやる~  作者: 中島健一


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第16話 偽魔王襲来

 将太は見張りのガルムに伝令を頼んだ後、自ら作り出した魔王の軍勢を眺めた。


 以前モルドレッドがけしかけたゴブリンの軍勢の2倍、つまりは凡そ2万の軍を創った。これにはモルドレッドの力を大いに使った。彼は魔王の力を駆使し、いつでもゴブリンやトロール、ホブゴブリン等のモンスターを召喚することができた。何故こんなことが可能なのか。それはモルドレッドの人差し指に嵌められている指輪の力である。なんでも火事のせいで灰となった実家の軒下でその指輪を発見したそうで、その指輪を嵌めて以来このような魔法が使えるようになったとのことだ。


 将太はモルドレッドの話を聞いて先ずはトールキンの『指輪物語』、次いでE・R・エディスンの『ウロボロス』、後はワーグナーの『ニーベルングの指輪』を思い出した。どれも指輪というマクガフィンを巡ってドラマが巻き起こり、その指輪を嵌めた者にはとてつもない力が宿ると同時に破滅的な最後がその者に訪れることになっている。


 そのことを将太はモルドレッドに教えていない。もしかしたらそれらの指輪と違う指輪かもしれないし、いたずらに彼を不安にさせるのは違うと思ったからだ。


 そんなモルドレッドのおかげで無限に沸き出るモンスター達に将太はスキル『創造』を使用して、自分好みの魔王軍を創ったのだ。ホブゴブリンやトロールの姿形を変え、黙示録の四騎士のような幹部的モンスターや首なしのデュラハンのような騎兵も創った。そして一番重要なのは魔王の創出だった。


 1体のホブゴブリンにスキル『創造』を使い、見るからに恐ろしいと思わせる魔王を想像する。

 

 魔王の姿を、一目みただけで何か怪しげな力を感じられるように創造した。その身体に秘められた冷酷な意志と、古より受け継がれし魔術の血脈を、ありありと映し出す鏡のような存在にするよう心掛ける。


 この魔王の身長は、トロール達に比べれば、さほど高くはない。しかし、その痩身そうしんには、一切の無駄がなく、まるで研ぎ澄まされた刃の如き鋭さを持たせた。魔王の背筋は常に真っ直ぐ伸び、その立ち姿には、いかなる時も崩れぬ絶対的な自信と、周囲を睥睨へいげいする傲慢ごうまんさを宿す。


 後は魔王の顔だ。まるでろうでできた仮面のように蒼白そうはくにし、血の気を感じさせないようにした。その肌は滑らかで、歳月の痕跡をほとんど留めていないように調節を施す。だが、その滑らかな表面の下には、計り知れないほどの古の知識と、冷徹な思考が渦巻いていることを予感させるように調整した。


 最も意識したのは、魔王の瞳である。深く窪んだ眼窩がんかの奥に宿る目を、まるで夜の闇そのものを宿したかのように漆黒に塗り潰し、感情の揺らぎを一切見せないようにした。


 しかしその中に、時折、見る者の魂を凍てつかせるほどの、鋭い光が宿るように仕向ける。これは、獲物を定める蛇の如き冷徹さを印象づけさせ、或いは、世界の深淵を看破かんぱする魔王の洞察力を演出するためだ。


 彼の鼻筋は高く通り、唇を薄く、常に固く閉ざすよう命令した。その口元からは、めったに笑みがこぼれることはないが、もし笑うとすれば、それは嘲弄ちょうろうか、あるいは勝利を確信した時のみ冷たく笑うようにと命令する。


 彼の髪は、漆黒の鎧と同じく、闇の色を帯び、長く滑らかに背中に流れる。その髪には、魔術の力が込められているかのように、かすかな光沢こうたくをつけた。そして、彼の指。長く、細く、まるで蜘蛛の足のように繊細に動かせるようにした。何故ならその動きには、見る者を魅了するような優雅さと同時に、世界を意のままに操れるかのような絶対的な力を感じさせる為に必要だと思ったからだ。


 特に、彼の左手の人差し指に嵌められた、妖しく輝く指輪は、モルドレッドのそれを模したものであり、サウロン、或いはゴライス大王を意識して身に付けさせた。


 創造した魔王を前にして将太は満足していた。そして今、死の軍勢を率いて将太のいるロリス砦へと行軍している。


「いいね、いいね!!」


 将太が理想の魔王軍に胸を踊らせていると、モルドレッド、次にドワーフのドーリ、ヴォルンドと領主のガルシア、軍事司令官のバルド、アイリーンをおぶったリラゼルが将太のいるロリス砦の壁の上にやって来た。


 皆、魔王の軍勢を前にして息を飲んでいた。領主のガルシアが呟く。


「あれが、魔王……なんと禍々しい……」


 将太はそのガルシアの言葉にご満悦状態だった。しかし軍事司令官のバルドが言った。


「何故ここに魔王がいるのだ!?」


 魔王はノースエッグ砦の先にある茨の森の最奥、アビスヴェイルという場所にいるとされ、将太達勇者パーティーは今日王都へと出立し、そこへ向かう旅の準備を整える予定だったが、突然の魔王襲来により、その予定が大いに狂ったことになる。


 将太とモルドレッドからしたら、これぞ正に計画通りなのだ。


 ──さぁ、作戦の開始だ。


 将太は軍事司令官のバルドに尋ねる。


「兵は間に合うか!?」


 緊張感を演出する為、焦った言動を将太は試みる。


「は、はい!今、準備させておりますが、あの行軍速度ならば間に合うかどうかわかりません!」


「なら、俺が足止めする!その間に兵を急がせ、住民を避難させるんだ!!」


 ヴォルンドが言った。


「え?勇者様がいればこの前みたいに倒せますよね?」


 将太はその軽い言葉に苛立ちを覚えたが、この壮大な作戦の実行を優先する。


「万が一の場合に備えんだよ!あの魔王がどこまで利口か知らねぇが、見たところ一筋縄じゃいきそうに──」


 すると魔王軍が行軍を止めた。将太はわざとらしく舌打ちした。


「ちっ……」


 ヴォルンドや領主のガルシア、軍事司令官のバルドが首を傾げた。


「どうしたんです?」


 ヴォルンド達の疑問にモルドレッドが答えた。


「勇者様の魔法の範囲外で行軍を止めました……」


 ここにいる皆がそれを聞き、ハッとする。将太は言った。


「そういうことだ」


 ヴォルンドが言った。


「で、でもここに魔王軍が近付かない限り僕らは安全ですよね?近付けば勇者様が魔法を唱えて──」


「俺がこの前みたいな魔法をそう何度も唱えられると思うのか?1日1回、いや2日に1回が限度だ」


 ヴォルンドは、ここでようやく自分の今までの発言を恥じた。ここにいる他の者達もどうしたものかと俯き黙った。その反応に満足した将太は皆に提案する。


「だが1つだけ案がある」


 皆が顔を上げるのを見計らって将太は口を開く。


「俺が魔王の軍勢のそばまで行くんだ」 


 モルドレッドが言う。


「しかしそれはあまりにも危険です!あの大魔法を唱えれば貴方は暫く動けなくなる!失敗すれば魔王軍に殺されてしまいます!」


「でもそうするしかないだろ?」


 モルドレッドとの芝居は皆の心を打つ。皆が不安になり、勇者に命をかけさせることに罪悪感を抱き始めたのだ。


「ならばせめて私が同行致します!」


 モルドレッドがダメ押しの芝居をすると、将太はそれを拒否する。


「ダメだ。俺がその作戦に失敗したらお前まで死ぬぞ?そうなれば誰が砦を守る!?誰が王女を守るんだ!?」


 重たい空気がこの壁の上にのしかかった。すると意外なことにヴォルンドが口を開いた。


「…ぼ、僕がやります!」


 将太は単純に驚いた。


「僕が勇者様を魔王軍の側までお運びします!そして大魔法を唱え終えた勇者様をこの砦まで運びます!!」


 将太は言った。


「…できるのか、お前に?」


「はい!馬にも乗れますし、それに勇者様のお役に立ちたいんです!」


 この時、ヴォルンドの覚悟を聞いた将太は新たな計画を思い付いた。


 ──この何でもないただの田舎者が、勇気を出して魔王軍に挑む感じ、本格ファンタジーの主人公に相応しい…… 


 王や英雄の血筋を受け継いだ者や英雄そのものが主人公である本格ファンタジーも勿論あるが、将太からすれば、何でもない若者が自身の境遇を仲間と共に打破していくファンタジー作品の方が、より感情移入ができて好みの作風だった。


「わかった。頼んだぞ、ヴォルンド!」


「はい!」

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