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ファンタジー好きの俺、設定ガバガバな異世界に召喚されてぶちギレる。~こうなりゃ俺が本格ファンタジーの真髄を叩き込んでやる~  作者: 中島健一


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第13話 過去すら塗り替える

 芹澤将太は小学生、中学生時代に友達ができなかった。しかし彼はそれでよかった。家に帰ればファンタジー小説が読める。それだけで良かった。父親からの虐待は、将太の身体が大きく成長し、逆に父親は年老いたことを理由に徐々に減少した。そしてとうとう将太の背が父親を抜かしたことによって完全に失くなった。


 父親と母親と話すことは殆どない。


 将太の話相手は、専ら小説、或いはその小説を書いた作家だけだった。しかし将太の読むファンタジー小説の殆どが、仲間と共に困難を乗り越える物語ばかりであった。


 将太は友達が欲しかった。


 しかし小学生の頃、将太が虐められていたことを知っていた同級生の殆どが同じ中学校に進学した。将太の必死の抵抗により、盛大に返り討ちにされたものの虐めはなくなったが、この一連の流れを知っている同級生達と改めて友達になろう等とは将太には到底思えなかったのである。緑豊かな公園で遊ぶ同級生達を尻目に将太は図書館や本屋へと足を運んだ。将太は中学生にもなるとファンタジー小説という幻想文学だけでなく、多くの文学作品を読んでいた。自分の方が公園で遊ぶアイツ等よりも賢い。より多くのことを知っており、誇りや崇高な理念を抱いていると、同級生達を見下しては、自分と同じレベルの話ができる人等、同年代にはいないと思っていた。


 だから高校に進学した将太は、友達を作ることに失敗をした。常に上から目線だったからだ。しかしこれはある意味仕方のないことかもしれない。様々な事柄において、大抵は将太の方がよく知っており、相手の心理を読み解くことに長けていたのだ。


 同級生のほとんどは、アイドルソングを聴き、漫画を読み、アニメを見ていた。たまに将太と趣味の合う同級生がいても、その漫画やアニメにおいて作者が何を伝えたいのか理解しておらず、それを見ていれば周囲から一目置かれる、或いは優位に立てると勘違いしている奴らばかりであった。


 将太は特にただ快楽を貪るだけの娯楽であるなろう系や綺麗事ばかり並べ立てる日本のテレビドラマや邦画に嫌気がさしていた。別にそれらがあっても良いのだが、web小説のランキングのトップを飾ったり、テレビの高視聴率や興業収入ランキングの上位を取って脚光を浴びたりしていると虫酸が走る。まるで将太の世界が──将太自身が否定されている気分になるのだ。


 それらを喜んで享受している愚かな大衆は、反戦を訴えるドラマに涙する一方で、悪役を倒そうと立ち上がる正義の味方に拳を突きあげる。大衆はそれらが孕む大いなる矛盾に気付けず、娯楽としてしか作品を享受できない。


 故に、大衆は将太を理解することなどできる筈がなく、大衆娯楽のせいで本来崇高で脚光を浴びるべき作品が埋もれてしまうことに苛立ちを覚えていた。


 しかし将太は誰であれファンタジー小説の話をしている際に喜びを感じていた。無知な同級生に作品のテーマや作者の哲学を教えることに快感を抱いていた。それが将太と同級生とを繋ぐ唯一の繋がりであり、自分のことを理解してもらえる唯一の方法であった。だが前述した通りに、将太の言葉を理解できず、将太が人にモノを教える様は高飛車で、離れていく者があとをたたなかった。


 大学生となり、コミュニケーション能力について理解し始めた将太だが、真に彼のことを理解してくれる人は現れなかった。そして証券会社に勤めることとなった将太は日々の激務に忙殺され、帰宅中トラックに弾かれた。そのまま異世界転移を果たしたのだ。


 この異世界は将太の嫌いな設定ガバガバな所謂テンプレファンタジーの世界だが、将太にはその全てを変える力があった。大衆娯楽の象徴であるようなこの世界を、幻想文学のそれに変える力だ。


 皆が将太の気持ちを共有できれば、将太は過去すらも塗り替えられることができるとさえ思っていた。何故なら将太の気持ちが解れば、虐待や虐めなんてことは絶対に起きないし、志を同じにした友達もできる。心に傷を負った人間に対する理解は、良き世界を構築する為に必要不可欠なことなのだと将太は固く信じていた。例えそれが、地球とは違う異世界でも。


 将太はロリス砦の自室でベッドに横たわり、額に手を当てて呻いた。


「ぅっ…頭が……」


 とわざとらしく呻き声を上げ、1人にしてくれと世話係やヴォルンド達にお願いする。そして時を見計らってモルドレッドが入室し、部屋の扉を閉め、2人だけの作戦会議が始まった。


「この世界をどう壊すか、具体的に考えようか?」


 将太はベッドから起き上がり、モルドレッドと向き合う。モルドレッドの瞳には、昨夜の誓いの炎が宿っている。


「女神の運命を砕くには、彼女の物語の歯車を止める必要がある。勇者への盲信、決定付けられた運命──そのすべてを」


 将太は頷く。


「テンプレをぶっ壊すには、俺たちの行動を女神のシナリオから外すことだ。今まさに俺がモルドレッドと組むような、そんな予想外の動きで攪乱する」


 2人はアイデアを出し合った。


 モルドレッドが言う。


「女神の駒である王女やリラゼルを離反させるか、利用するべきか」


「そうだな。この状況を有効活用したい。そして民の勇者依存を断ち切り、自分で戦う力を取り戻させる」


 会話は次第に熱を帯び、互いの理想が共鳴する。将太は胸の奥で感じる温かな感触に気が付いた。


 ──モルドレッドは俺の理想を理解してくれる。俺もモルドレッドの魂の炎を理解できる…高校ん時とは大違いだ……


『同志』という聞き慣れない言葉ではなく、将太の胸の内には『友達』という言葉がしっくりときていた。


 作戦がまとまりつつあったその時、砦の門が騒がしくなる。どうやら、将太が回復するのを待ちきれず、王都からの使者がやって来たようだ。しかしその使者とは戦士のことらしく、勇者と共に魔王討伐をするためのメンバーの1人であった。本来なら魔王討伐のパーティーは王都で顔合わせをする予定になっていたのだが、突然現れたゴブリンの軍勢に将太が対応し、動けなくなったと聞いて、ここロリス砦にやって来たらしい。


 モルドレッドが先に部屋を出て、時間差で将太も部屋から出ようとしたところ、召集がかかった。体調を尋ねられ、将太は問題ないと伝えると、その戦士のいる執務室へと案内された。

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