ねんがんの ハーレムをてにいれたぞ!
ハーレムものを書いてみたいなあ、と思ったらこれが出来た。
愕然としながら投稿ボタンを押していた。
気が付けば、知らない場所にいた。
すべてが真っ白の空間で何も無い。辺りを見渡してみるが果てまで白い世界だった。
そこにいるのは自分だけ。誰かがいる気配すら無い。
いきなり知らない場所で目を覚まし、周りには誰もいないこの状況。俺の胸の中は不安でいっぱいに――
――なんてことはなく、むしろ期待に高鳴るほどである。
だって、あれだろ? 王道っていうか、お約束っていうか。
「気がついたか」
背後から声がした。
振り返れば白い衣装に身を包んだ仙人のような老人。
心の中でガッツポーズ。間違いない、例のアレだ。
「お主は不条理な死に見舞われてしもうた。しかし心優しい青年をそのままにしておくのも心が痛むということでの。だから…………」
剣と魔法の冒険、異世界転生、貴族の息子。ありとあらゆるファンタジーの単語が俺の頭の中を駆け巡る。
となれば、次に来るのはチート贈与か?
「…………しかしながら、次に生を受ける世界は日本と比べて危険が多い。ゆえに死なないためにチートスターターセットを授けようかと……」
ほらな、やっぱり。思ったとおりだ。
しかしなんだスターターセットって、いずれエキスパンションエディションでも出るのか。
「じゃが、昨今チートによる冒険よりもハーレムによるスローライフを望む者もでてきておる。なので選択性にしようと思うてな」
なんだそれ、そんなのチート一択じゃないのか?
チートによる無双、そして拍手喝采や羨望の眼差し。英雄扱いされて女が勝手に寄って来てよりどりみどりの酒池肉林。
最初にハーレムを選んだが最後、俺自身に生き残る術はなく、ただ危険な世界の荒波にもまれる存在になってしまう。そんなのは嫌だ。
しかし、ハーレムという単語に心惹かれるのもこれもまた事実。なぜなら生まれてこの方彼女がいなかったからだ。
いやいや待て俺。ここは一旦チートを選んでだな、腰を据えて俺だけのハーレムを築いていけば良いのでは?
「どうする?」
「ハーレムでお願いします」
「わかった。なら――」
なんで俺ハーレムを選んだ? まずはチートって言っただろ?
そんなの絶対に苦労するじゃん、言って取り消してもらわないと……。
「年齢はどうする?」
「年上でお願いします」
待て俺の口。勝手に動くんじゃない。
でもさすが俺の口だ、わかってるじゃないか。年上の余裕、色気、包容力。年下が勝てる要素なんて皆無だ。
安心感を与えてくれる年上の女性は何者にも代えがたい。
「とりあえず五人……くらいでいいかのう。よし、召喚するからよく見ておくんじゃぞ」
「今? ここで? 五人も?」
「そうじゃ」
「いやっほう」
てっきり異世界で出会うことになるんだと思っていた。そんなの釣書のないお見合いのようなものじゃないかと少しだけ不安だったのだが。
さすが神様、かゆいところに手が届く親切設計だ。
神様(?)は何も無い空間に手のひらをかざす。手のひらが光り輝いたかと思えば、五人の光の輪郭が形作られていく。
光のぼやけたシルエットだけで、容姿は未だ見えない。しかし、ここでブサイクが召喚されたり……なんてオチは無いだろう。俺の中で期待値はいやが上にも高まり続ける。
シルエットはようやく形を成していく。手や足が見え、下半身から上半身へと徐々にその姿をあらわにする。
「………………」
ウェーブのかかったブロンド女性や、結ばれて頭頂部にお団子結びをしている女性、ロングヘアーの黒髪の女性も。
パーマをかけた茶色の髪やベリーショートな白い髪まで。
手足はスラッと伸びていて――――腰は曲がり、微かに体は震え、顔も……よく見れば手足もシワシワ。
どう見ても老婆だった。
「あの」
思わず挙手。
神様はきょとんとした表情で小首を傾げた。なんでそこまで不思議そうな顔が出来る?
「年齢層高すぎませんか」
「え、だって。その方が好みなんじゃろ?」
「そんなバカな。年上は好きだけど年上にもほどがある」
「お主の最期を見たうえでの判断だったんじゃが……」
俺の最期?
死に際ってどんなんだったっけ……? よく思い出してみる。
それは……そう、家への帰り道だった気がする。
わりと大きめな通りだった、点滅を始めようとする横断歩道を早足で渡っている時のこと。
季節外れの金木犀の香りがしたんだ。
その香りに思わず振り返ると、シルバーカーを押しながら渡ろうとする老婆がいた。
今思い返してみれば金木犀じゃなくて湿布の匂いだったかもしれない。
とにかく。
信号は赤になってしまったが老婆はまだ渡りきっていなかった。にも関わらず車は突っ込んでくる。
老婆を助けるべく引き返した俺は、悲しいかな車と接触してしまい…………。
…………。
「ただの親切心だったんですけど」
「え、そうなの?」
「はい。だいたい彼女たちいくつなんですか」
何処からともなくフリップボードを取り出した彼女たちは、自身の年齢を書いて胸元に掲げて公開した。
69、72、68、77、84。
マジかよ。
「俺のお婆ちゃんより年上なんですけど」
「そういう趣味かなって」
「違います。チェンジで」
「えぇ……割と疲れるんじゃが」
「チェンジで。もう少し年齢層を下げて欲しいです」
「わかった。もう少しじゃな」
俺はこの一言を死ぬまで後悔することになる。
神様の手のひらが光り、老婆たちは一瞬で消え去り俺と神様だけ残された。
その後すぐ手のひらが光り、新たなシルエットが――――
「わざとやってます?」
「言われた通り年齢層下げたのに?」
「彼女たち幾つなんですか」
またもフリップボード。書かれた年齢やいかに。
67、66、64、65、61。
いや下がったけども。微々たるものすぎないか?
まだまだ高い。あと干支を三周くらいして欲しいくらいだ。
「チェンジで」
「ええ……注文多すぎない?」
「注文を聞いてくれなさすぎだと思うんですが」
今のところ最低条件は"女性"ってところしか合致していない。
その状態で妥協しろと言われても困る。
「チェンジは1回までじゃ」
「そんなシステム初耳なんですけど」
「もういいじゃろこれで。はい、異世界に送るからの」
「え、いや、ちょっ……」
俺の足元が光る。更に五人の女性たちの足元も。
待って、親よりも年上の人と何しろっていうのさ。
「がんばれよー……」
「な――」
何を? その言葉は最後まで紡がれることは無かった。
………………
…………
……
気が付けば、何処かに立っている感覚が足元から表れていた。
目を開く。足元には土や草があり、そこは神様がいた空間ではないのが見て解る。
木々や草むらに囲まれた……森の中?
こんなところに置いていかれて何をしろと……。
『最近の若者は身一つで領地を開拓するのがトレンドなんじゃろ?』
何やらそんな声が聞こえた気がした。だいたいそういう人たちってチート持ってますけどね。
ふう、と溜め息を漏らし、頭痛の種を眺めてみる。
母親より年上な妙齢の女性たちが、キョロキョロと辺りを見渡していた。
不安そうな表情だ。彼女たちもひょっとしたら巻き込まれただけかもしれない。
背骨は微かに曲がり、少し立ちづらそうにプルプルと震えてるのが確認できた。
「とりあえず……杖が欲しい人いますか? あ、はい、全員ですね」
一人二人程度の手が挙がると思っていたが、まさか全員が手を挙げるとは思っていなかった。
手頃な枝を拾ったり、枝を折ったりして人数分確保していく。
少しばかり姿勢が安定して背筋が伸びた気がする。
彼女たちを連れて……俺は今から、何処に行けばいいんだろう?
とりあえず……これでシメればいいのかな?
こほん。
俺たちの冒険(介護)はこれからだ――!
……前途が多難すぎるなぁ。
読んでいただきありがとうございました。
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