#64 揃うはずがない
そうして文化祭の準備は着々と進んでいった。
「文化祭の来賓の依頼が通りました。アマ中の校長先生と、アマ高吹奏楽部顧問の松阪先生。それから合宿でお世話になった記者の宮下さんと、今回会場を貸してもらう天文博物館の館長さん。そして館長さんのつてで、市長も来てくれるそうだよ」
ミーティングでそう伝えると「市長!? すげえ」とざわめいた。僕もこれは予想外だったがいいチャンスと受け止めた。
「最初に話した通り、今回の文化祭の目的はこの『来賓』の方々に演奏を聴いてもらって、ミト中のことを知ってもらうこと。それで……どうする? ナンプ」
「名前を残す!」
気合い充分。
「そう。つまりそのアピールをしたい」
「どうやって?」
「『校歌』と、『呼びかけ』だよ」
卒業式かよ、とか、恥ずかしい、とか言われるかと思ったが案外生徒たちは真剣だった。
「演奏後に想いを述べて、校歌で締める。ミト中の名前を消したくないこと、それを全力で伝えるんだ」
「それから、部の存続もや」
思わぬ言葉に驚くと、梅吉が強い瞳で続けた。
「そうじゃろ? ヒビノ」
「え……」
正直、これは僕からは言い出しづらいことだった。もちろんやれるものならやりたい。だけどこの文化祭で『目的』が達成されたとしたら、その後のことは僕が決めることではない。
「……やりたい?」
控えめに訊ねてみた。すると──。
「「当たり前っ!」」
そんなセリフが揃うか、という言葉の塊を浴びて思わず笑った。
「……はは。まあでも、三年生は文化祭でひとまず引退だよ。受験だからね。『全校生徒』は、ここまで。一、二年生も、そこから先のやるやらないは自由だよ」
「そんなもん全員やるに決まっとるじゃろ」
少し怒っているらしい梅吉を「まあそれぞれ事情もあるだろうしさ」となだめた。
「なんにせよ僕は一人でも部員がいるなら付き合うから安心してよ。……それもこれも、文化祭が成功して部の存続が許されれば、の話だけどね」
どうなるかは、まだわからない。
「とにかく練習。できることはそれだけだよ。全校生徒での最後の舞台だ。悔いなく」
そう言うとパン、と手を打って場を引き締めた。
「では練習を始めます」
決戦は今週末だ。




