#28 手加減はない
そろそろ練習内容がマンネリ化しつつある数日後のある日、揃った生徒たちに向かって僕はこんな話を切り出した。
「ここらでガツンとレベルを上げるには、なにか目標を持つべきと思うんだよね」
「目標……?」
訊ねる梅吉に頷いて返した。
「そう。アマ高のサマーコンサートにゲスト出演させてもらえることになったんだ」
「「ええっ」」
ほぼ全員から驚きの声が返ってきた。つまりはこれが彼らにとって初めての本番ということになる。
「アマ高のサマーコンサート、行ったことあるよ私。毎年天文館のホールでやるやつで結構お客さん来るんよねえ」
二年でクラリネット担当の真知さんが言う。結構な数のお客さん、という言葉のせいか一気にみんなに不安が拡がったが構わず続けた。
「それそれ。『本番』っていう経験はコンクールまでに絶対必要だし必ず成長に繋がるから。やるのは短めで簡単な二曲だけだし、それにアマ高と合同の出演だから。まあ気負わずに」
言いながらパートごとに楽譜を配った。
曲は『コパカバーナ』と『風になりたい』。どちらも言わずと知れた名曲で吹奏楽の演奏会では定番となっている曲だ。
「どっちも知ってる、もしくは聴いたことある曲だよね。今日からまずはパート別でそれらを中心に練習してください」
さて。どうなるか。
迎えた、合奏の日。
「本番までそんなに時間がないから、なるべく今日できるとこまでやっちゃいたいんだ。いつもよりあたりがキツくなるかもしれないけど、ごめん、耐えてください」
今日ばかりは『僕』もある程度は覚悟していた。僕の手加減なしの指揮。これを乗り越えていかないと部はいつまでも成長できないから。
「じゃ、始めます」
……──
…………────
合奏、終了。どちらもアップテンポで乗れる『はず』の曲だったんだが……。まるで葬式の後のような、ずーんと沈む音楽室の空気。誰も言葉を発せないらしい。ところどころで鼻水をすする音が聴こえる。涙を拭う姿も見える。
「おつかれさまでした……みんな」
大丈夫? と問うも「どの口が言うか」という突っ込みすら誰からも出なかった。そんなみんなを苦笑いしつつ眺めて「まあ今日が初めてだったからね」と今更無意味とわかりながら僕は言う。
バカじゃねーの
舐めてんの?
はあ? 下手すぎる
返事!
それなに。ふざけてんの?
違う! 汚ねーわ!
あ、もういいや。出てってくんない?
そこもう吹くな。ムカつくから
普段の僕からは考えられない暴言の数々だった。当たり前だけど女の子を泣かすのはいい気分じゃない。
「今週は土曜も合奏入れます。今日注意したところ、それぞれできるようにしてきてください。個人的な相談や質問も僕が……必要なら『指揮の僕』が、いつでも聞くから遠慮なく言いにきて」
そう言うと「じゃ、今日は終わり。自主練は17時までです」といつものセリフを述べて足早に音楽室を去った。いつものような『謝罪』を省略したのは、生徒たちにきちんと前を向いてもらうためだ。僕のことを、見返してやろう、そう思ってもらいたい。




