#25 いつも通りではない
そんなわけでその週の土曜から美咲先生には『顧問補佐』として来校してもらうこととなった。
「みんな久しぶり。部の手伝い、やることになりました。よろしくね」
美咲先生とその事情を知る二、三年生は驚愕の叫びを上げた。ふはは。
そうして数日が経ち────。
アマ高生たちの助けもあって我らがミト中吹奏楽部はそれなりに楽器を鳴らせるようになってきていた。もちろんまだとても『演奏』と呼べるものじゃない。だけど自覚できる成長は大きな喜びとなり、部の勢いはどんどん増していた。
そんな中、僕はみんなに一枚ずつ楽譜を配った。内容は各楽器ごとに異なりどれも耳馴染みのある名曲のワンフレーズを練習曲としてアレンジしたもの。音符ひとつひとつに記入してあるドレミがや指番号は、この間さっそく美咲先生に手伝ってもらって制作した。案の定かなり文句を言われたが。
──はあ? ドレミに指番号? やりすぎじゃないですか? そもそもそういうのって自分でやらないと身につかないと思いますけど。
──まあそうですけど、なるべく練習時間にあてさせてあげたくて。
──しかもこれ、私がいなかったらまさか響木先生ひとりで全部やるつもりだったんですか? え、選曲から? 編曲も!? 無茶でしょ、普通にやれる量じゃない!
──べつにそんなに無茶でもないですよ。
──はあ? やれません! バカじゃないの!?
バカはひどい。それでも彼らには本当に時間が足りないんだ。とにかくコンクール本番までは、僕に出来ることはなんでもしたかった。
「なるべく楽譜も読めるようになってほしいけど、とにかくまずは『吹く』のに慣れることを優先したいんだ。各自それを練習して、三日後の金曜に僕の前で発表」
「ええっ、それってテスト!?」
「や、そんな厳しいもんではないよ」
「いや、テストじゃろ、それは」
『テスト』という言葉に過剰な拒否反応を示す梅吉に苦笑いを返しつつ「がんばって」と微笑んだ。
さて。そんなわけで約束の金曜だ。初めての発表にそわそわする部員たちを微笑ましく眺めつつ、「じゃあ最初は……」とひとりを指名した。
「部長からかな。やっぱり」
キウイ少年は嫌そうながらも腹を決めたようだった。手には例の輝きのない木製風トランペット。
少しの距離を開けて立ち、向かい合う。
「テストっぽいけど結果でどうこうするもんじゃないし、目標があった方が練習がはかどるだろうと思ってやるだけだから。まあ気負わずに」
そう言っていつも通り緩く微笑んだ。
……さて。
僕の右手が、ゆっくりと指揮棒に触れる。────すると、僕を取り巻く空気が瞬時に変わった。
頼むぞ。まだ説明してないんだから。少しは手加減してよ。
……はあ? 音楽やんだろ。なら間違いは正すだけだ。
「じゃ始めます。…………いち、に、さん、」
トランペットパートへの選曲は『歌劇「アイーダ」より凱旋行進曲』。曲名こそあまり知られていないが、サッカーの応援曲を思い浮かべれば自ずと鳴り出すあのメロディーだ。
梅吉の演奏は良くも悪くもそれなりだった。難なく出せるはずの第一音から自信の無さが滲み出ていたし、ノイズもまだかなりある。力みすぎらしく顔は真っ赤になっていたが音はほとんど出ていなかった。ついでに指もきちんと動いておらずリズムも勝手にズレて指揮する意味がまるでない有り様。本人にも不出来の自覚があるようだしこちらからの感想は特にない。
「はい。じゃ次の人」
それだけ言うと梅吉は「え」と戸惑った反応をした。ち。面倒だな。
「……ちょ、なんか言わんの?」
「ない。次の人」
早くそこをどけってば。
「えええ、先生やし普通なんか言うやろ、なあヒビノ」
かちん。あー、残念。俺は気が短いのよ。
「あんさ……敬語使える?」
「えっ……?」




