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やがて箒星と共に  作者: くりみなる
9/12

検査

静まりかえった夜の街に固い足音が二つ。それは茶髪で老け顔の大柄な男とその隣を歩く老人から発されていた。


「いやー今日は助かりましたよ本当に。どうにも今の街は人が少なくてアレらが来た時はもう終わりかと……」


「どうってことは有りませんよ。ただ、早く来ていたならばもう少し被害は抑えられたと考えると…無念ですね」

 バーツは声を小さくしながら言った。すると男はふっ、と微笑する。


「いえいえ全滅もあり得ましたし、来てくださっただけ御の字ですよ。それにしてもまぁどのゴブリンも同じ答えばかり言うもんですな」


「えぇ」


 時間はコウと離れたその後、バーツはこの男、つまりは警備隊の隊長とゴブリンへ尋問を行っていた。鉄臭く小さな牢屋に詰められた彼等は実に協力的な姿勢だった。

そして皆揃ってこう証言したのだ。

青くて綺麗な光を見た、と。


「光……」

「お心当たりが?」


「いや全然。魔物ならば絞れますけど。光体類(こうているい)の魔物は珍しいですからね」


「そうですか...本当最近はおかしな事しか起こらんもんです。【魔王】を名乗る馬鹿者が世界各国に現れたり、地下から魔物が現れたり、変な団体も出てきたり、忙しいったらありゃしません」


 彼はそう言うと大きくため息をついた。そんな感じで雑談しながらも歩いていき、二人は道の途中で別れた。


「……すっかり夜ですね」


 星明かりが取り巻く中で、バーツは足を止めて星を見上げた。その夜空には無数の光輝く星々。

目を閉じて空気を深く吸う。今ではポットとなった肺には昔のような感触はないが、それでもヒンヤリと重い気体を感じるような気がした。

 

***


「……」


 シーンとした木造の部屋の中、物音ひとつも聞こえない。コウは座って俯いたまま完全に動きを停止していた。


「遅くなりました」ガチャ

「!」


 バーツが扉から現れた、と同時に首だけを回転させて扉の方を向く。何も言葉を発さないその雰囲気は異質である。しかし、バーツは表情ひとつ変えず部屋の中へと入っていった。


「どうかされました?」

「…ただ腹の虫の世話をしていただけですよ」ドサッ

 

 彼はやっと動くとベッドに仰向けになった。

 

「バーツさん」

「はい?」


「貴方教授だったんでしょ?俺に魔術を教えることってできますか?」

「ふーむ………」


「勿論タダで教えてもらうつもりはないですよ。当然それなりの額は……」

「いえ」


 バーツが彼の言葉を遮る。そしてハッキリと口に出す。


「金は要りませんが“才能“次第です」

「さ、才能ですか」


 魔術の才能。予測としては殆ど無さそうなものである。なにせ現代うまれ現代育ち、魔術なんかとはゆかり、縁、などほとんどありはしなかった。


「それはなぜ?」


「端的に言えば役に立たないんです。魔術はなんでも出来るわけではありませんし、勿論上手く使えれば引く手数多ですが、大半の人はそうはいきません。魔術の習得は難しい...本当に」


「どれくらいですか」


「1000人の魔術師見習いがいるとしたらその中で一人だけが魔術師になれます。それに時間もかかるので下手に覚えようとするよりかは別の職の方が稼げます」


 なるほど魔術師になるのも一苦労するのだ。現代で置き換えるならば医師のようなものだろうか。もしそれほど時間がかかるならば悠長すぎる。

 状況は一刻を争うほどでは無いがそんな遠回りはしたくない。


「………そうですか」


「才能の確認ならできますけど、やりますか?」


「は?は、はい」


「魔力量や魔力に対する適正は確かめられるものです。右手を出してください」


 コウは言われた通りに右手を差し出すと、バーツはその手に触れ眉間に皺を寄せる。それから少しの間そのままの状態でいた。


 彼の鼓動は早くなる。ドクドクと心臓の音が直に聞こえる程に。期待や緊張からだろう。

 そんな彼をいざ知らず、バーツは診断を終えると手を離して言った。


「ダメですね」

 

 やはりダメなようだ。


「本当に?」


「ダメです。魔力量が少な過ぎますね。ダメです。本当にないです」


「あ、ない……」


 そんな強調しなくとも...と彼は少し落ち込むのだった。

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