始発
ひと段落ついて机の上。暖かい飲み物を飲みながら、彼等はやはり話を続けていた。と言うのも話が噛み合わないものなので難航していていたからだ。バーツは腕を組んで髭をいじる。
「不思議なお人ですねアナタは」
「はい?」
「あぁお気になさらず。ただ…アナタは私の知らない事を沢山知っているのでしょうが常識…と言いますか、そういう知識を持っていない...不思議です」
「それはどうも」
バーツの言葉にいちいちひやっとさせられる。この老人は話しやすい人物ではあるのだが、何か知ってそうで知らなさそうで不安になる人物でもある。故に時々鼓動が速くなるのだ。
コウは木製のコップを持って中の液体を見た。少し青みがついていている液体だった。彼は少し眉をしかめてコップを置く。
「さてコウさん。アナタは今、船が壊れて海に流されてしまわれ、金品や頼りも一切ない状況ということでよろしいですか?」
「はい、恥ずかしながら」
「では私と共に街に行ってみてはどうでしょうか?街ならばたくさんの商人や旅人が行き交っています。何か分かるはずですよ。ご心配なさらずとも金は私が持ちます」
村があれば街もある。今最も必要なものは情報だ。行くほか選択肢はない。しかも知らない街に一人ではなく今回は現地の人間がついている。おあつらえ向きなことである。
彼が二つ返事で了承すると、バーツはせかせかと持ち物の準備を始めた。何処からか二つ分のバックを取り出してパンやら干し肉、寝具を詰めていく。
「バーツさん、町まではどれくらいかかるんですか?」
「たった1日ほど歩けば到着です」
「たった1日…歩く!?冗談でしょう?」
「いえ?ここらへんは魔物も滅多に出ませんし道も整っているので歩きやすいと思いますよ?」
と不思議そうな顔で尋ねる老人。やはり車なんて持っていないようだ。それに魔物とも言った。
魔物なんてものが本当に?
そう思いながらも歳を感じさせない発言に彼は驚きと不甲斐なさ抱いた。
「この肉体を呪っときます」
「それが良いでしょう」
「ほう?」
そんなこんながあり彼等は昼頃、ツリーハウスから出た。そしてその時、不意に【魔法】を見た。
バーツが家の扉を開けた途端、床の木が不自然な速度で地面に伸びていき即座に階段を形成したのだ。
「はっ、嘘だろ」
***
街までの道筋は細かな起伏はあったものの、実に単純な一本道だった。ただ一本道だったからと言って楽なものではなかった。
何時間も歩くなんて運動系の趣味を持たない人にとっては苦行そのもの。それに慣れない野宿も加わるので街に着く頃にはコウは疲れ切っていた。
「や〜〜〜と着きましたね」
目の前に広がる光景はおおよそ彼の想定通り、どこか見たことのある石造りの西洋風の家々やら舗装された道やら、やけに”機械化された“人々。
「……なんだってこりゃ」
驚愕である。道行く人々はそのほとんどが、指、腕、足等の体の一部が“生身“ではなかった。
生身でない部分には、宝石や金属で作られた義手や義足で補われており、あまつさえは仕掛けもなさそうなガラスの頭をつけている人もいた。
それでも皆普通に歩いているのだからコウは疲れも忘れて固まっていた。
「(嘘だろマジかよおい。これじゃあ技術が進んでんのか遅れてんのかよくわからない)」
「さて宿を取りましょう。行きますよ」
「分かりました……」
彼等は異様な人間達を横目に道を進んで行き宿に着く。バーツが手早くチェックインを済ますと、やや広めのツインベッドの一室に案内された。
その時の受付係の両手も義手であった。それも特に動かす仕組みも無さそうで軽そうなもの。それなのにカチャカチャ動くのだから異様である。
「ふぅーーーーーー」
コウは自分の荷物を木の床に置いてベッドにどっしりと腰を下す。同様にバーツもよいしょと腰を下ろすが、疲れた様子は見られない。
「バーツさんの体力はどこから出てるんですか」
「毎日歩きっぱなしなんで、歩くのには慣れてるんですよ。それよりアナタは本当に体力がないですね。これまで見てきた若者で一番……程々に運動しましょう」
「さうですかさうですか。さてと……これからどこに行ったら良いものですかね」
「それなんですが、私実は行きつけの酒場がありましてね。酒場には多くの人が集まるわけです。どうです?」
「酒…は飲めないけれど、そうですね、行きましょう」
こうして彼等は宿を出て行き、その酒場へと赴くのだった。
ありがとうございます