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やがて箒星と共に  作者: くりみなる
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道中


 公は青白い光源の元へ向かう。暗い森は所々月明かりが行き届き、幸いな事に足元は一応見えた。さらに気温の低下は思ったよりは適温であり、昼よりは動きやすい。


 ただ、これだけはどうにもならない困った事が一つ。夜の森に鳴り響く怪しい鳴き声のことだ。ついさっきも鳴ってはいたが頻度と音が違う。さっきは鳥の鳴き声の様で頻繁には聞こえなかったが今は遠吠え、それか唸り声が聞こえる。


「喜ばなきゃな。愉快な森の仲間達と激しい触れ合いが出来るぜ。仲良くした後には俺の尻はなくなってるだろうが」

 

 少しだけ、ほんの少し歩みが早くなる。彼はなるべく後ろを振り向かない様に、ただ光の元へ向かっていく虫の様に進んだ。


 道中、彼は人を見た。その暖かな炎の光が存在を気づかせたのだ。


 それは大人と子供の二人だった。彼らは荒れた小道を歩いていた。小道は青い光の出所へと伸びているようだ。

 彼等の後ろ姿を静かに草むらから観察するコウであったが、心は急激な高まりを見せた。


「(第一村人発見だ!……よし!)」ガサッ


 それがどんな人であれ、まず話しかけなければ始まらない。彼はふぅと一呼吸おいて草むらを抜け出し道に立つ。

 歩く二人が音に気づいて振り向くと同時、挨拶をしようと口を開いた。


「ご……ごほっんにぢは」


 放たれた言葉は、喉の渇きで(とどこお)りしゃがれて、やたらおどろおどろしかった。加えて夜中であるのに光源も持たず立ちすくみ、汚れた身なりでボロボロの服を着て、目が血走ったその様子は正しく"お化け”であっただろう。


「「ヒャァァァァァァ!!」」ズダダッ!


「………あれぇ?」


 一目散に逃げられた。残当である。

 ただ驚くべき事に、一瞬見えた顔は真っ白に見えた。白粉(おしろい)を塗ったかのように真っ白。

疲れからの幻覚だろうか?


……ブォォォォォ


 しかしそんなことを考える間もなく、招かれざる客が来たようだった。丁度背後から、大きな呼吸音が聞こえる。


「!」


 本能的な危機を感じた彼は振り向きながら後退する。そして視界に唸る“獣”を捉えた。


 その獣は前方10メートル程にいた。硬そうな毛で覆われていて、体長は1メートル半くらいは裕に越していそうだ。体つきや顔は熊に似ている。彼はその圧倒的な威圧感に思わず唾を飲み込んだ。

 獣は様子をこちらの様子を伺っている。公も同様に腰を落として動かずにいた。


「(こりゃ相当まずいな……熊に出会った時ってでかい声をあげりゃ良かったか?)」


「グラアゥ!」


 結局何も出来ないうちに獣が動き出し、見せかけの拮抗状態が崩れ去る。熊は突進していくと口を大きく開けて凶暴な牙を剥き出しに。

 そして今まさにその牙を獲物に突き刺さんと襲いかかる!


「く、来るな来るな来るな来るな来るな!」バッ!


 瞼を半開きに、咄嗟に手を前に突き出して防御の姿勢をとったその時。手のひらが青緑色に輝き始める。


「なに!?」


 直後ピュン!と音がなると一筋の光が熊の脳天から全身を貫いた!


——プシャ

「ブォッ!」


 少量の血液が宙に舞う。同時に獣の鳴き声がした。一体なにが起こったのか彼には理解できなかった。しかし間も無く、獣が力なく倒れる所を見るとそれが死んだ事だけは理解できた。

 

 公は緊張が解けて地面にどっさりと尻をつく。それから、まだ息が整わないまま両の手のひらを何度も何度も見た。


「な、なんか出た……」


***


 そんなこんなで不思議な事がおこりながら、遂には光源に到着した。


「はえー」


 満点の星空の下で、疑問と不安、それに少しの感動が入り混じった嗚咽を発す。


 それもその筈、彼が目の前にしていたものが余りにも現実離れしていたのだ。まず家?のような建物がありはした。しかし、場所が異常だった。


 というのも規則正しく並び立つ長木の上部や中部、そこに木製の家が木々を柱として出来ている。ツリーハウスの進化版と言った所だろうか。


 そして家だけじゃ無く広場のような円状の足場も

またちらほらと。

 各広場の中心を貫く木には螺旋階段が巻き付いている。なるほどこれを登るらしい。


 彼はなんだか夢見心地のまま、その階段を登り始める。 木製の階段は一歩を刻むごとにミシミシと音を立てた。手すりはあったが、湿っていて体重を預けるには不安が残るものだった。


 階段を登り終わり、小さなスペースにたどり着いた時、彼の目に村の全体が飛び込んだ。

 

「……へぇ趣味が良い」

 

 満点の星空の下、家々からは青白い光の粉が舞い上がっていた。寒色だけのイルミネーション。

なんとも非現実的で優美なのだろう。


思わず彼も見とれてしまった。

見惚れて、後ろに居る者に気づかなかった。


次の瞬間、眠るように意識が落ちた。


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