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やがて箒星と共に  作者: くりみなる
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星と共に



「おわぁっ!!!」


 とある男が眠りから覚醒した。


「はぁ!はぁっ!はぁっ!」


 目覚めて早々飛び起きて、息を大きく、早く吸い始めた。手を胸の辺りに当てて腰を曲げ、苦悶の表情を漏らしている。


 けれど、心臓の鼓動の速さと並々ならない発汗は彼が生きている事を証明していた。


 太陽はそんな事も知らずに相も変わらず彼の体を焼いていく。その熱さに彼が気づくと、その頭にはどわっと数多くの疑問が湧いてきた。


(生きてる?!ここは?!身体は!?)


 彼はそんな混乱に苦しみながら、やっとのことで顔を上げる。すると、彼の目の前一面に広がっていたのは、ギラギラとした海と白い砂浜であった。


「え、え、えっと俺、俺は……死んだのか?」


 ここで経緯を軽く示そう。彼の名は数平(かずひら) (こう)である。絶賛夏休み中の高校2年生、体格は一般よりはガッチリとしていて、髪は黒く短い。何より特徴的なのは右手の中指が第二関節で途切れていることだろう。


 そんか彼は旅先の海でなんとサメに襲われ、謎の死を遂げた。そして次に目を開けた時には、ここにいた………と言う訳である。


 ただ、ここには人っこ一人おらず、浜辺には流木や小石、草木などが流れ着いている。

 その様はまさに手入れのされていない、野生の浜であった。まず確実に元居たビーチではない。

 

これを見て彼がまず思った事。それは遭難であった。よくテレビ番組等で流れているアレである。


「(サメにどこかに連れて行かれたことまでは覚えていてその先で何か...)いやまず俺の身体ぁ!?」バッ


 急いで自分の身体を見回す。そして、彼はいつのまにか自分が裸になっていた事に気づいた。やけにさっきから体がジンジンするのはこういうことかと、そう納得した。


「ったく海パンの損害賠償はどこに請求すりゃいいんだ?」


 体には外傷らしい外傷は無かった。激痛が走った足も、腸が引き摺り出された腹もスッキリそのまま治っていた。いや、そもそもそんな外傷を負っていたらもう二度と目を開けることは無かっただろう。

あんな気分を味わったのは人生二度目だった。


 こうなると益々不思議になってくる。なぜ生きているのか、なぜこの身体は動くのだろうか。手掛かりはゼロ。彼は潮風にさらされ少しの間呆然と立ちつくした。

 もちろん事態は好転する訳もなく、太陽に雲がかかり始めた頃、彼はようやく歩く気になった。


「ったく鮫に襲われるなんてな。まったく、このクソったれの映画を作りやがったクソったれの監督にはクソッタレのギャラを払ってもらわなきゃな」


 などと恨み言を放ちながら、砂浜を歩く。砂は歩みを阻害して余計に体力を使う事になった。しかし、そうしている内に浜辺に何か目立つ物が流れ着いているのが見えた。

 遠目では分からないが、鮮やかな赤色の物体。近付くごとにその嫌な正体が分かってくる。


「おいおい...勘弁してくれよ」

 

 それは人の、老婆の死体だった。その身体はむくむくと膨らんでいる。水死体だろう。公は思わず苦い顔をした。


 また、さっき見えた赤い物体はこの人が着ていた服であった。青と赤を基調とし、胸の辺りには何かのマークが縫われている、ローブのようなものだった。それも所々に穴が空いていたり既にボロボロ。


 さて、今彼の悩みとして服がないというものがある。サイズは見たところこの老婆が着るには大きく、彼にちょうど良いサイズの様だ。

 彼はどうとも言えずにチッとだけ舌打ちをして腕を組んだ。

 

「……死体漁りねぇ...趣味じゃない。趣味じゃないんだが...太陽が黙っていてくれたらな」


 彼は幾分か考えた後、頷いて老婆の服に手をかける。すまないな婆さん。大切にするよ、とだけ呟くと、死体のブニブニした感触に鳥肌をたてながら服を取り上げた。それから最後に、頭を下げ祈りを捧げてその場を去った。


 そんな事があってから暫く時間が経ち、時は夕方。その頃、彼は砂浜の終わりに来ていた。


「ここで浜は終わりか...」

 

 と背中を伸ばし、聳える崖と島の内部にある森をちらりと見る。崖には行けないにしても森の中も行きずらいだろう。そこにはどんな生物がいるかわかったものではない。特に初めての土地では。


「しかし参ったな、暑いし喉が乾いた。こうなると炭酸水が欲しくなっくる。強炭酸で、1Lの奴...あぁクソッ飲んどきゃ良かった...っとりあえず行くか」


 そう意を決して、慎重に森の中へ。彼の身長ほどある雑草がわんさか繁茂する森を彼は勘で進む。その途中、動物の鳴き声らしきものが聞こえたり、近くの茂みがガサガサと動いたりした。

 

 そんな状態で足場が悪い森を進んで行くが、成果は得られず日が完全に落ちてしまった。こうなると進むのにはかなりの危険を伴うこととなる。

 夜行性の動物、見えにくい足場、冷える気温、全てが牙を剥く。


「これは冗談じゃ無くやばいだろ」

 と呟きながら途方に暮れたその時、不意に空を見上げた。


「これは...すごいな」


 そこには夥しいほどの【星】が様々な色で鮮やかに咲き誇っていた。都会に住んでいる人間には絶対に見れない稀有な光景だ。

 思わず彼は見惚れてしまう。写真とかでは見た事があるのだが、肉眼で見るのは初めてのことだった。ただ、不思議な事に、何度数えても月が三つもある。


「だいぶ疲れてる……お?」


 公はあるものを発見した。周りの星と全く別の存在のそれは、光の尾を引いて青白く輝いていた。


「彗星か」


 彼は自然と呟いた。そして、その光景に目を見開く。それは、神秘的で、地球上の何より美しく、雄大で、巨大で——ロマンがあった。過去や現在においてこれに心を囚われる人が現れるのも無理はない。

 

「あぁ...おっ!」


 彗星に満足した後、ひとまず周りをぐるりと見回してみると青白い光が放たれている場所があった。彼は急いでその方角へ向かうことにした。

刻まれた小さな希望と共に。

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