静かなる森
森に入った乳母は佇んだのでございます。
⦅………道が無い。獣道すらないなんて……。⦆
「ピエール様……どうかご無事で……。
神よ……どうかピエール様に……
一目ピエール様の御姿を……
どうか、神よ。
この身は如何になろうとも構いません。
何卒、何卒……。」
乳母は道なき森を只管真っ直ぐに進むしかなかったのでございます。
そして、それはピエールたちの部隊も同じだったのでございます。
森を進んでも進んでも景色は変わらずに、幸いなことに狼に襲われることも無かったので乳母は命の危険を感じることは無かったのでございます。
獣にさえ会うことが無い森でございました。
食料が尽きる頃、何日経ったのでございましょうか……。
乳母は「もう、お会い出来ぬまま、この命も尽きるのだろう。」と思ったのでございます。
水さえ無くなってしまったからでございます。
⦅もう、水も無くなったわ。
もう、これが限界なのね。
これが、この森に入った者の末路なのかしら。⦆
そう思いながら歩みを続けておりました乳母の目の前に小川が現れたのでございます。
乳母は命を繋ぐ水を見つけ、重かった足取りが軽く……。
いいえ、命を繋ぐ水を得るために走ったのでございます。
乳母自身、「この身体にまだ走れる力が残っていた」ことに驚いたくらいでございました。
小川に着いて跪き、震える両手水を掬い取り口に運び飲み干したのでございます。
「甘い……美味しい……。
こんなに美味しい水、初めてだわ。
美味しい……。」
そう言って何度も水を掬い飲む乳母の頬を涙の雫が落ち頬を伝わっていました。
⦅水を飲んだからと言って助かる訳ではないのに……
こんなにも涙が止まらなくなるほど嬉しいものなのね。
ピエール様も、部隊の方々も、同じ想いをされたのね。
無謀なことを……国王陛下は……。
若い方々の御命をなんと思っておられたのかしら……。⦆
乳母は水筒に水を入れて歩き始めました。
そして、気を失うように倒れたのでございます。




