夫婦
隠し通路をお使いになってアントワネット様はルイ16世陛下に御会いになられました。
扉が開くと、そこに陛下がお出ででございました。
「マリー、貴女が来てくれるのは初めてですね。
どうかしましたか?」
「陛下、二人だけでお話したいのでございます。」
「分かりました。
皆、下がりなさい。」
「承知いたしました。」
私は隠し通路を使ってアントワネット様の御部屋に戻りました。
「皆、下がりましたよ。
どうしたのですか?」
「陛下……お教えくださいませ。」
「何でしょう?
私に答えられることなら何なりと…。」
「……陛下、あの日……
フェルセンを……隠し通路を使って私に会うようになさいました。
どうしてでございますか?」
「…………。」
「どうしてでございますか? 陛下……。」
「……貴女の心が分かったからです。」
「私の心……。」
「貴女はフェルセンに初めて会ったその日から……心惹かれていた。」
「陛下!」
「……私は気付いてしまったのです。」
「…………。」
「マリー、貴女は政略のために……私に嫁いでくれました。
私のような取り柄が無い男に……。」
「陛下! 取り柄が無いなどと仰らないでくださいまし。」
「事実だ。見た目も悪い。気の利いたことを貴女に話すことすら出来ない。
狩猟と錠前づくりが趣味の……何も取り得が無い……。」
「陛下!」
「だが、フェルセンは違う。
彼は見目も麗しく、全てにおいて私より数倍上の男性だ。」
「陛下……陛下は真面目で……。」
「それしかない。能が無いのだ。」
「陛下……。」
「貴女はこんな私のために、今まで私を支えてくれた。
可愛いテレーズも産んでくれた。
これ以上、私は貴女に何も求められない。」
「…………。」
「貴女をフェルセンに委ねることが出来れば……
貴女は……女性としての幸せを得られると分かっている。
分かっているのだ。
……それが出来ない私を恨んでくれていい。」
「陛下……陛下を恨むなど……私は……。」
「離婚は出来ない。
同盟にヒビが入る。
それは国王として許されない。
……すまない。貴女を苦しめている私を許さなくていい。
恨んでくれ。」
「……陛下、許されない想いを抱いてしまった私を……
どうして…責めてくださらないのですか?」
「貴女は悪くないからだ。
ただ、恋をしただけ……それだけなんだ。」
「……陛下、私はあの日、フェルセンへの想いを断ち切りました。」
「マリー! それはいけないよ。
心が壊れてしまう。貴女の心が……。」
「陛下、私はテレーズの母です。
母として、あの子の傍に居たいのです。
フェルセンへの想いは……テレーズを……可愛いテレーズを傷つけてしまう日
が……やって来ると思います。いつか………。
フェルセンへの想いは忘れます。」
「マリー!」
「陛下、私が寂しくないように……辛くなった時に……私の傍に居てくださいます
か? ずっと……。」
「……それは……私では……。」
「陛下、お願いでございます。
陛下が私のことをお嫌いでなければ……。
陛下と二人でテレーズの成長を私は見とうございます。」
「マリー……。」
「……あの日、フェルセンに別れを告げたあの日……。
私は気づきました。
……陛下のお優しさ……深いお心……を………。
私は、もう迷いません。
これからは母として生きて参ります。
私の愛は……テレーズと……国民に注いで参ります。」
「マリー……。それで良いのか?
フェルセンがアメリカから無事に戻ってきた時……。」
「いいのです。
陛下、私の幸せは……陛下と共に……。」
「マリー……。」
その日から後のことでございます。
アントワネット様がご出産なさいました。
お生まれになったのは、王太子ルイ・ジョセフ・グザヴィエ・フランソワ殿下でございます。
王太子殿下のご誕生でございました。
フランス中が喜んだのでございました。




