初恋
ヨーゼフ2世陛下のご教授を受けられたルイ16世陛下と王后陛下でございました。
そのご教授の甲斐あって、アントワネット様はご懐妊なさったのでございます。
フランス王国全土が喜びに充ち溢れました。
そして、翌年夏にあの方がお見えになったのでございます。
あのスウェーデン貴族のハンス・アクセル・フォン・フェルセン伯爵でございます。
イギリスとスカンディナヴィアに長期滞在なさった後、フランス王国を…ヴェルサイユ宮殿を再訪なさったのでございます。
御会いになったお二人の視線を拝して、私は「恋をなさっている」と確信いたしました。
「良く来てくれました。フェルセン伯爵。」
「ルイ16世陛下。ご即位おめでとうございます。」
「ありがとう。」
「王后陛下。ご即位おめでとうございます。」
「…ありがとう。」
「ゆっくり出来るのだろうね。」
「はい。」
「そうだ! マリー。宮殿を案内してあげるのは、どうだろうか?」
「私が……でございますか?」
「王后が案内するのが良いと思う。」
「はい。承知いたしました。」
私はお二人に付き従いました。
王室礼拝室、戦争の間、庭園……お二人で歩まれている御姿を拝して、お二人共に輝いていらっしゃいます。
「美しいですね。」
「そうでしょう。
フランス・ブルボン家の全てですもの。
ヴェルサイユ宮殿は目を閉じていても、その全容を瞼の裏に描くことが出来るの
です。
それなのに、私はもう、ホーフブルク宮殿もシェーンブルン宮殿も……
覚えていないのです。
生まれ育った宮殿ですのに……。
その姿を思い浮かべないのです。」
「王后陛下……。」
「あ……私は…何と言うことを…
忘れてくださいまし、ね。
今の話は……。」
「お言葉でございますが、私は忘れません。
このひと時を……。」
「フェルセン……。」
お二人がどのようなお話をなさっていたのか知る由もありません。
ただ、お二人の視線の先が熱く、お互いを射るように絡み合っていたのでございます。
それから、その年の12月にアントワネット様は初めてのお子をご出産なさいました。
王女マリー・テレーズ・シャルロット様のご誕生でございました。
王后陛下はご自分でお育てになるとお決めになられて、国王陛下も賛同なさいました。
王后陛下は母になられたのでございます。
私は王后陛下に「初めての恋」を諦めて頂くためにお話ししようと決めたのでございます。
遠い昔の「叶わぬ恋であり初恋」を……。




