隠し通路
王太子妃・アントワネット様と侍女たちだけになった時、アントワネット様は大きな瞳を輝かせて仰せになりました。
「ねぇ、ばあや。
これで良かった?」
「はい。お見事でございました。」
「怖かったわ。
でも、少し面白かった……。」
「まぁ……。」
「それに……エチケット夫人も……。」
「いらっしゃいましたね。」
「何でもお出来になる方で素敵な方なのだけれども……
何かにつけて『エチケット』と……。」
「そうでございますね。」
「少し苦手なの……。」
「ノアイユ伯爵夫人も妃殿下のことを思われてのご指導でございます。」
「分かっているわ。……それでも苦手なの。」
「いつか、そのお気持ちが変わる時が参りますよ。」
「そうかしら?」
「そうでございます。」
「ふぅ~っ、疲れたわ。休みます。」
「はい、ご用意を致します。」
暫くしてアントワネット様の部屋の鏡が動き、王太子殿下・オーギュスト様がお見えになったのでございます。
「えっ? 殿下?」
「マリー、ごめんね。傍に居れなくて……。
怖かっただろう。」
「殿下……大丈夫でございます。」
「本当に?」
「はい。ご心配をおかけいたし申し訳ございません。」
「謝らないで……当たり前だから……その…私たちは……
その……夫婦……だから………。」
「………嬉しゅうございます。」
「あっ! そうだ!
マリー、こっちへおいで。」
「はい。」
「この鏡は扉なんだよ。私の部屋とマリーの部屋を繋いでいる隠し通路の扉なん
だ。」
「隠し通路でございますか!」
「うん、そうなんだ。
また、何かあった時に…この隠し通路を使って…私の部屋に来ればいい。
そして、隠れていれば良いと……あの……どうですか?」
「……嬉しゅうございます。」
「では……使って…貰えるのですね。」
「はい。ありがとうございます。」
「それから……陛下のお力を得て話すことにしたのだ。」
「何をお話になられるのでございますか?」
「その日、その時、その場で……マリーには聞いて欲しい。」
「まぁ、その日まで内緒……でございますか?」
「そうだ。内緒です。」
「楽しみにしております。」
「私の言葉を……聞き逃さないで欲しいのです。マリー。」
「はい。聞き逃しません。」
翌日、国王陛下が主たる貴族をお呼びになりました。
ルイ16世とアントワネットの部屋を繋ぐ隠し通路はありましたが、使っていなかったそうです。




