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裏返し  作者: 九文里
1/1

豹変した中村君

 夏休みが終わって中学校に登校初日、教室に入ると中村君が「おはよう」と挨拶してきたのでビックリした。

 中村君は、教室の中に入っていくと一人一人にニコニコして挨拶していった。

 みんな中村君を見て、驚き、しどろもどろに挨拶を返している。

 

 中村君の席は、一番後ろの窓際、僕の隣の席だ。

 中村君は、机から消しゴムを落とした時、僕の机を蹴って目で合図してくる。それで僕は消しゴムを拾って中村君の机の上に戻してやる。

 窓際で話ししている子達を威嚇して、相手が逃げると満足気な顔をする。

 それが中村君だ。

 そのうちヤバイ奴にケンカをふっかけて痛い目に会うんじゃないかと期待していた。


 ところが、夏休みが明けると良い人になって、親切で愛想の良い人に豹変している。

 僕が落とした消しゴムも瞬間的に拾ってくれる。

 直ぐまた、元の怖い人に戻るだろうと、みんな思っていたが、何日経っても1ヶ月過ぎても良い人のままだ。


 宝くじで何億円も当たって貧乏から脱出したからだとか、ある宗教に入れられて洗脳されたからだとか、いろいろ噂が飛んだ。

 でも何があったのかは、謎のままだった。


 ある日の体育の時間、教室で着替えをしていたら、中村君がTシャツを裏表逆に着てたから、恐る恐るTシャツが裏返しだよと教えてあげたら、えらく感謝されて、

「いつも裏返しで着ちゃうんだよね。お母さんにいつも怒られるんだ」と笑って言っていた。



 中村君が学校を休んだ。先生がプリントを持って行って説明してこいと言うので、中村君の家に行った。

 玄関先で中村君のお母さんが出て来て、「わざわざ家まで持って来てくれて有り難う」と何回も頭をさげられた。お母さんもたいへん慇懃な人だ。 


「たいしたことないのよ、ちょっと熱っぽかったから休んだの」

 と言うと玄関の所にある階段の下から、2階に向かって中村君を呼んでくれた。


「陽一、お友達が来てくれたわよ」


「はーい、今行く」

 上から中村君の返事が返ってきた。


 着替えているのか、暫くしてから階段の上でドアの開く音が聞こえた。

 階段が軋む音がする。もう中村君が降りてくる。階段の上の方で中村君の足が見えて、段々全身が現れてきた。

 中村君が降りてくるのを見てて僕は息を飲んで固まった。

 中村君の顔が変なのだ。真っ赤で、顔の表面にいくつものミミズのような、剥き出した血管が走っている。頭には髪の毛がなくのっぺりしている。赤い顔の中で目だけが白くて見開いている。

 僕が中村君の顔を見て固まっていると、中村君のお母さんが中村君を見て言った。


「陽一、あんたまた裏返しに着てるわよ」


 中村君はお母さんを見て言う。

「あっ、ゴメンゴメン、またやっちゃった」

「ちょっと待ってて、部屋で着直してくるから」

 

 中村君は、2階にあがって行った。


 僕は、あわててプリントを玄関に置いた。

「よ、用事があるので帰ります。これ、中村君に渡しといて下さい」


 お母さんにそう言うと、僕は玄関を飛び出して、思い通りにならない手で何とか門を開けると、外の道に出た。

 鞄をぎゅっと握りしめ、てそそくさと中村君の家から離れてると、背中から声がした。


「ありがとう、岩坂君」

 

 顔だけ振り返ると、玄関を出た所で中村君が手を振っていた。いつもの顔に戻っている。


 僕はひきつりながら軽くお辞儀をして、足早に歩いた。とにかく早く中村君の家から離れたかった。


 裏返しに着てるって、何を着てるんだ。

 

 僕は帰るすがら恐ろしい想像が頭を離れなかった。


 次の日、中村君は普通に学校に来ていた。いつもと変わらず普通に過ごしている。僕の隣でいつも通り勉強している。

 もう既に愛想の良い中村君で定着してしまい、みんな中村君と笑って会話をしている。


 中村君の豹変の理由を知ってしまった僕はぎこちないが何とか中村君と普通に接している。


 でも、あの中には一体何がいるんだろう。

 僕はつい考えてしまう。

 







 

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