第4話 ハーブティ研究家、本格的な殺人事件の勃発
私はとりあえず、探偵を帰らせた。
正直ってのは、だとしたら、私がメイドで、きらびやかな姿のモデルの私は別物って言った私は、彼に嫌われることをしたのでないかしら?
どうしよう。
嘘を嫌う人間にしたら、嘘って嫌われるよね。
私、正体を教えたら、彼とはジエンドになるの?
あんなタイプだもの、焦がれた私に嘘つかれたと知ったら、何をされるか分からないわ。
「東京新聞社の報道では、東京テレビの撮影所で、殺害された女性は、時任綾乃。二五歳。直前の友人の連絡から、被害者は誰かと会っていたとのこと。女性はファッションデザイン、アパレルブランド、モデルとさまざまな事業を展開しており、この仕事関係も関係があるのでないかと、警察も捜査しています」
その時だ。
何気なくつけたテレビの報道の中で、綾乃という、私の知るモデル仲間の名が出た。
(え、あの綾乃が殺されちゃったわけ?)
ハーブ栽培ばかりで、私は最近ニュースや情報がない生活だ。
他のチャンネルも変えたら、お昼のワイドショーで、モデル殺害をやっている。
「東京の撮影スタジオか。多目的スタジオで、部署も多い。となると、犯人が紛れるのに好都合だ」
「ええ。その日も多くの撮影があり、大勢、出勤してまして、取り調べが難航しています。被害者のモデルは・・・」
隣でも、警部と探偵もその会話らしきものが・・・
やっぱり、私の友人が殺されてしまったってわけ?あの綾乃が?
「被害者は撮影スタジオの撮影セットで殺されており、見つけたのは撮影クルーの女性です。殺害方法は刺殺。撮影の背景の中で殺されていました。当時、殺害現場では、ファッション誌の撮影が行われており、カメラマン、衣装係、マネージャーなどと複数の人間が出入りしてました。当時の撮影現場にいた人のリストです。当時、撮影会社に出勤していた全ての人のリストもあります。こうした大勢の人間が来ており、犯人につながる証拠は上がっておりません」
「ううむ。確たる証拠がないと、それは厄介だね」
「ええ。警察の上層部では、通り魔殺人としても捜査したほうが良いのでないかとの声も上がっています。しかし、防犯カメラに写っていた不審な男がおり、現在、警察が行方を追っています。被害者の携帯から、直前の連絡を取ってた男は、男性モデルの山本周一。被害者とも交際しており、被害者には借金があり、直前に喧嘩をしていたという情報もあります」
山本周一?綾乃の彼氏だわ。嘘。そんな。あんな優男に殺しなど出来るはずもないわ。
探偵は間違っている。
「ううむ。写真だけの情報だけでは弱い。僕はこのアトリエで現場捜査をする代わりに推理することをモットーとする探偵だが、写真と伝達情報だけでは読み取りきれない情報がある」
「捜査は常に現場百遍と言います。犯行現場に行って見るのが一番手っ取り早い。現場に行かれますか?」
探偵はおもむろに立ち上がる。
探偵が東京のスタジオに行く?私も行かなきゃ。
私は慌てて綺麗に取り繕って、バーバリーの鞄を持って外に出た。
「私も行く」
探偵の乗り込む覆面パトカーの窓をどんどんと叩き、私は言った。
「君は?」
警部が怪訝そうに凶悪な顔を向ける。
「殺されたモデルってのは、私の友達なの。山本周一が犯人じゃない。私も行く」
「関係のない人間はお断り。たとえ身内でも、捜査現場には入れない」
と警部に言われたけど、探偵はすっと男を遮った。
「まあ、僕の連れとして、いいよ。それほど言うなら、いいだろ、警部さん」
「多々園さんがそう言うなら」
「ありがとう」
「一応、お隣さんだから」
探偵が横顔で目だけこちらに向けて言うことには、どきり。
車は私達を乗せてすぐ出発した。
けれど、すぐに探偵は額を押さえ、体をぶるっと震わせたかと思うと、懐から薬を取り出し、飲んだ。そして寝てしまった。
その様子を、警部は心配そうにチラチラ。
「あの、多々園さんは、何かあるんですか?」
東京のスタジオについて、何事なくすたすたと歩きだした探偵を見て、私は警部に聞いた。
「ええ。多々園さんは、ある事情から、閉所恐怖症なんです」
「閉所恐怖症?」
「狭い所とか、天井の低い所とか、苦手なんですよ。それで普段、警察からの推理の協力は自宅で行われているのですが、現場は見てみないと分からないこともありますから、ときどきああしてお出まし願うのですが、一時的に薬で発作を抑えているので、本人は大変な状態と思いますよ」
知らなかった。探偵さんにそんな弱点があるだなんて。苦しそうにしていたのに、スタジオなんて閉鎖的な環境よ。大丈夫かしら?