第3話 覚悟の探偵、ド直球で一線を踏み越える
「あの子は?メガネで三つ編みの、農作業していた女子に会いたいんだ」
「あ、あの子は・・・ええと、今はいない」
プライドが傷つけられたせいか、私は素直にすんなりと自分を認めようとしなかった。
「君は?」
「この家の当主、モデルの西尾芽衣です」
「あの子は?」
「あの子は・・・ええと、私の家のメイド」
あれが、私のメイド?私があれで?メイド?
って、何を隠そう、ハーブ研究家だからね。いずれテレビにもまた出ようと思ってる。あのなりで、ハーブ研究家で。えええ?あれがメイドなの?自分でもびっくり。
「あの子に会いたいんだ。推理中だったけど、ああして実物を見せてくれたら、僕も分かりやすい、次に来たら、伝えてくれるか。君に惚れた。いずれ、君を抱くと」
「ええっ」
自分で言ったことの驚きより、言われたほうの内容が何倍も驚きだった。
「なんだ?それほど驚いて」
「い、いえ。いいえ、あの、そんないきなり、相手も驚くわ、ド直球過ぎに言い過ぎよ」
「なんだ。僕とあの子のことだ、君に言われたくない。僕はこういう人間なのだ。単刀直入なんだ」
「そんな、そんなこと、言えるわけないわ、自分で言えや」
「じゃあ、またあの子に合わせてくれ。また、来る」
「もう来ないでいいわよ」
なんという破廉恥な探偵だ。
探偵はふふっと笑って、去った。
会いたいと言ってもねえ・・・会わせたら、私っていつかバレるよね、いつか。
香り豊かなハーブティー。
ほわほわの湯気が立つ、緑の液体。
「高速道路での事故の後、逃げた犯人は逃亡先の民家で潜伏、その時に、被害者との接点が出来た」
「清風館殺人事件は遡れば、昭和の戦後、犯人が旅館である一人の女性と出会った所から始まります」
日本で一番、スキャンダルチックな隣の探偵の推理を聞きながら、ハーブティーを飲む。
はああ。三つ編みの農業女子の私に会いたいと言ってもねえ。
この癒しの空間、止められないわあ。
綺麗なモデルの私が、あの冴えないメガネ女子と知ったら、もうここで、探偵の推理を聞いて、極上のハーブティー時間を過ごすのはできないでしょう?
「う、うげ。まず」
なんで、私のハーブティーはこんなにマズイの。
いったいいつになったら、極上のティーを入れられるの?
コンコン。
あ、探偵が訪ねて来た。
(仕方ない、もとの私のままで会うか)
私はジャージ三つ編みのメイドとして、探偵に会った。お望み通りよ。
前の失敗を謝るために、今回は素直になる。
「はい」
「あ、いたんだね。君に会いに来た」
仕方ないなあ。このマニアックな私、研究家の私のファンなら、無下には出来ないわね。
私は中に入れて、客室でハーブティーをごちそうすることにした。
「もう聞いていると思うけど、君に惚れた」
私はティーポットを落しそうになった。
「なっいきなり、直球過ぎない?」
「これが僕だ。なんか、君の声、君の言葉、誰かを思い出させるが、思い出せない。僕も日々、物理学、化学、生物学などの研究書を読むのに忙しい。まあいい。そういうことだから、僕は君にこれから言い寄る。君に手を出すし、キスもする。その着ているジャージも取っ払って、君に欲望を吐かせる。ピーして、ピーして。思いっきり汗をかいて、ピー。君を抱き締めて離さない。君もそのつもりで」※ピーは公開禁止用語。
カキーン・・・
どこかで、学校のホームランを打つ音が鳴った。
「い、いや、何を言ってるのよ、いきなり、あなた、そんなことを面と向かって、頭おかしいのじゃない?」
「僕はこういう男だ。僕も閉じこもりがちな人間で、人との接触を拒んでいるから、今まで人間と触れ合わなかった。けど、君は別だ、最初から言った。君に惚れた。と。僕もこんな気持ちは初めてだ。何を思われてもいい。汚らしい男と思って構わない。でも、僕は正直に言う。やりたいことをはっきり言う。黙っているタチでもない。外にあんまり出ないけど、僕の実行力は高い。思ったことは必ずやり遂げる。いや、やりたいことは力づくでもやり遂げる。望んだ通りにさせてもらう。でも、世界の中で、誰よりも、本当に君を思っている」
「思うな。やり遂げらんでいいわ」
「悪く思わないでくれたまえ。僕は真剣に君を思ってる。本気なんだ。君ほど、心を動かされたことはない。僕は今まで君のような女性に出会ったことがない。君のことを本気で好いている。僕は思える限り、君のことを思う」
そんなふうに熱く思ってくれるってのは、嬉しいわよね。
実際。こんなに、熱く、真剣に私を思ってくれる人などいなかった。
なんて、思わずうっと詰まった。そういう一方的なまでも、思ってくれるってのは、今時、ないもの。日本男子で今時、そりゃ、なかなか、ないでしょうけど・・・
とはいえ、いきなり来て、初対面で言うにしては言うことがおかしいわよ。あまりに露骨すぎる。
「女性にこのような気持ちになったのは初めてで、だから、僕も慌てているのかもしれない。理性が保てない。今から君のことを連続でピーしたい。殺人犯を常に格闘しているが、僕も君のことを縛り上げて、思う存分ピーして、僕の欲望の限りを果たしたい。今なら、数々の犯人の気持ちが分かる。それぐらいヤリタイ。僕は君のことを思っている。だから、僕と付き合って欲しい」
でも、いきなり、これ。これはいくら何でも、許容の範囲を超えている。
「かーえーれ。私の操をいきなり奪おうとする奴は帰れ」
「君はかけがえのない女性だ」
「ええい、美辞麗句を散りばめながら、激しく性的な言葉を使うな。聞いてりゃ、あんた、私が初恋なんでしょ?いったい何様のつもりでそこまで横柄で、高圧的に迫れるわけ?」
「僕は言った。これが正直な気持ちだと。君とただ激しくベッドでむつみ合いたいだけだと」
「帰れ」