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第1話 ハーブ研究家、探偵と遭う


「お嬢様。このようなところに一人、とてもこの爺や。暮らしていくのを放置するわけにはいきません。それでなくても、死んだご両親から、芽衣お嬢様のことは頼まれているのです。やはり、止めましょう」

「何を言ってるの。爺や。もう、ここを私は買ったの。お金も払ったのよ。全財産使って、もう懐はすっかんかん。今からここで、ハーブの研究をするの。ハーブのお茶を出すお店をやるまで。見て、この庭、広いし、日当たりが良い。周りも見ても、緑多いし、自然豊かな景観で、良いところじゃないの。静かな一等地の住宅街って言ってたの、本当だった。いいじゃない。とても気に入った、すごく素敵な環境よ。暮らしやすそう」

 私は西尾芽衣。モデルの仕事を止めて、心機一転して、ハーブティーの店を出そうと思っている元モデル。

 それで、とある風光明媚な町で、洋風家屋を買った。

「わあ、綺麗、可愛い、やーん、いい、好き、ここ、わーい」 

 レモンミント、ラベンダー、ローズ。香りに惹かれて、最初は小さな瓶を買うことからやり始めたけど、実際、園芸店で生えているのを触って、実際の草木の香りの良いのに心が奪われた。

 ここには、水色の壁、白い窓枠、円柱が立つ正面玄関、庭にはすでに植えたハーブが生えている。夢のようなおとぎ話の世界だ。私はテンション最高潮だ。

(いい、素敵、とても良い環境だし、とっても良いところ、暮らしやすそう)

 モデルの時は最新のメイクやファッションを身に着けてたけど、今は分厚いメガネ、三つ編み、動くのが楽な服(農作業着)。

 一見、ダサい地味女子でも、自分では、ハーブ研究家のつもり。

 でも、元の私を知る人なら、誰だか分りゃしないだろう。

 マニアック度合が増して、自分では気に入ってる。

 芽衣はどうして仕事を辞めるの?タカシだって、射止めたのに。

 モデル内では、なぜ私は辞めたのか。けっこう噂された。

 そういう狭い世界が嫌だっての。 

 モデル業界でトップクラスのモデルで、モデル女からもモテるタカシも、ぜんぜん、私は好きでなかった。でも、噂されて、それが出演番組とか雑誌にも影響するようになって、縦横の軋轢が、なんだかふと、つまらなくなった。

 子供の頃からモデルでやっていた私は、ちょうどモデル業を卒業したい時だったし、ハーブティの良さに気づいた時だったので、今しかないと、運を天に任せて動き出した。

 可愛い洋館を見つけて、庭も広く、ものは順調に進んでいると思っていた。 

「あなたはその時、秘密の抜け穴を使って出入りし、被害者殺害後、また部屋に戻って、警察の応答に何気なく出たのです。佐藤さん」

 な、なんですと?佐藤さんが、真犯人だった?ナタで時計塔の主人の娘を殺したって、あの人が、まあああ、まああ、なんというエグい話。

 ただ一つ・・・隣が探偵だったことを除いて。



「多々ただぞのさん。東京の連続殺人犯と思われた一連の殺人事件ですが、殺害現場に犯人とおぼしき証拠がありました。深夜二時に、不審な電話を聞いた友人がマンションに行ってみると、そこに友人の死体が」

木畠きばた君。早急に判断するのはよしたまえ。犯人の手がかりとおぼしきものでも、わざと置いたかもしれない。君の言うように、その机に時計があったなら、そこに犯人が置いたのだ」

「捜査をかく乱するためですか?思い出の時計をそこに?なんと・・・」

 隣では、探偵の多々園栄次郎が、警察に請われて、事件の捜査を助けてやっている。

(うっわ。今日もやってる)

 巷では知られてないが、警察が多大に尊敬を尽くしているところを見ると、かなりの探偵のようだ。しかし、いくら優秀でも、探偵ではあまりこの世に有名になることはない。そういう職業だ。それに、有名になってしまっては、探偵もこっそり調べることは出来ないと思われる。ので、警察内部で有名。そして、警察内部だけの有名探偵。でも、私は隣ということで、知ってしまった。

「では、犯人は全員が寝静まった後、被害者を呼び出し、殺害後、夫にわざと発見させ、その後、あとから遅れて現場に到着した、ということです」

 うっわ・・・富豪女性の誘拐事件、そんなになってるの?

 私はハーブティーを作る。今回、精魂込めて作ったミントを絞り出したお茶だ。

 私がハーブティーをしようと思ったのは、香りが好きだから。疲れた時、マッサージやお風呂、お茶として飲んだり、とても癒されたから。だから、そもそもやるなら、農作物として一から作ってみようと思った。農作物として一から研究し、最も良い極上のハーブティーを作るのだ。

 私のハーブティー。極上の逸品。分かる人間はこうでなくっちゃ。優雅さ、最上級のひと時を味わう人間が、それが最高クラスよ。

「う、うげ。まず・・・」

 試しに爺やに飲んでもらった。爺やは勘弁してくださいと口を押さえ、首をいやいやする。

「な、なにおう。そんなはずは。私が一から研究し、作ったハーブティーなのよ。いったい、なぜまずいの?ちょっと貸してごらん。う、うえ、まず」

 しかし、私のハーブティーはマズイ。

 ハーブはフレッシュなのから、干したものまで段階に分けてもあるし、寝かせて置いていくものもあり、様々だが、ハーブティーというのは結局、とどのつまりは、マズイものがほとんど。だったら、なぜハーブティを?と思われるだろうが、ハーブという香りの世界で、極上の逸品を探す。それが私の至上命題なのだ。



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