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狂気の使徒  作者: ひょうすい
序章 狂気の使徒
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9人目 狂気の使徒・破



 ヘカテー。紫眼紫髪ロングヘアーを後ろでひとつに束ねた、紫を基調とした比較的動きやすいドレスを着た女。リーレ曰く「神の中でも割とマシな神」という評価であるが、リーレと考え方が似ているからである。また、リーレがいる虚無の世界に頻繁に訪れる暇なヤツでもある。「魔法部門全管理最高責任者兼全運用最高責任者兼特例授与者」という神界での役職についており、かなり偉い。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 冥界に着いた私は、目の前に広がる景色に圧巻されていた。パルテノン周域は果てない青空が広がっており、地面が白い雲のような色で地平線が見えるほどに果てなく広がっているようになっているのだが、冥界の中は明かりを灯した洞窟のような状態であり、地面には鉱物の山がところどころに点在している。パルテノン周域は視覚的に明確な昼夜の区別があるのだが、冥界は上を向くと洞窟の天井で閉ざされており、明確に昼夜の区別をつけることはできない。



 (デパート……? みたいなのかな? 結構並んでるなぁ……)



 私の知っている東京とよく似ていた。ビルがズラリと並んでおり、道路が舗装されている。路面電車こそ通ってはいないが、それ以上に神達の格好だ。神達は1950年代後半のような、徐々に再欧米化が進んだ時代に見合った服を着ており、私の知ってる東京を投影しているようだった。



 「東京に似てる……」


 「まあね」



 ヘカテーがなんでか自慢げに反応してきた。知らぬ間に声に出してた私も悪いっちゃ悪いけど、そんな自慢げに言うかね、ヘカテーさんよ。



 「リーレがいた世界を元にこの冥界はできてるからね。再現は結構簡単だったよ。あ、進化は特にしないからずっとこのままだけどね」


 「……どういうこと?」


 「えーとね。冥府神がこの冥界に追いやられた時、私が魔法を使ってこの街並みを作ったのよ」



 話を聞くと、まずクロノスに頼んで神が1番適応しやすい文明を世界中から探してもらい、それを元にヘカテーがこの景観を作ったらしい。神が1番適応しやすい文明が戦後間もない日本文明、しかも東京の街並みだとは思わなかったけど……。まあ、結構尋常じゃない速さで発展し続けたからわかるけどね。



 「じゃ、とっととハデスのところに行きますか」


 「ここから遠い?」


 「いや、そんなに遠くないよ」



 私達はハデスのいる冥府神殿(コラオス)なる場所へ向かった。そんな中で、私は見たことのある建物を見つけた。



 「東京タワー?」



 赤と白の333mもある巨大な電波塔、東京タワー。温度がどうたらこうたらで夏に高さが伸びるとか言ってたっけか。いや、それエッフェル塔か。



 「東京タワーだよ。命知らずのガンギマリ職人達が作った血と汗と緊張の結晶物だよ」


 「それは私も知ってる」



 死のキャッチボールがどうたらこうたらって言ってたやつだっけ。1人工事中に死んだらしいけど、1人の犠牲だけでこれができるのは改めて見ると凄いと思うわ。

 その後も、私達は見慣れた街並みを歩き続けていた。日本語で書かれた道路標識や看板、料亭や飲食店、デパート、商店街があった。日本にはいい思い出や悪い思い出が色々あるが、景色という1つの物に対しての思い出は比較的いいものであったため、車道の中央を闊歩していると少し優越感に浸れていた。だって車道なんて、普通車でしか走れないからね。見事なまでに計算されて作られた道路の幅、車線の数、信号までの距離、白線の数と間隔。



 「普通さ、こんな厳密に作る?」



 私は何気なくヘカテーに質問する。車道を指して言い、その真意を聞く。



 「まあ……、ハデスが結構厳正な性格だからねぇ。『作るのであればできるだけ似せて作れ。半端なものはいらない』って一蹴されたから」


 「厳正なくせに情緒不安定なの? 矛盾してんじゃん」


 「そうなんだよ。頭おかしいからあの人」



 歩いている間に、ハデスに関する情報をヘカテーから色々聞いた。その中の情報を要約すると、ハデスは地味に可哀想な存在であり、元々はそんなに厳正な性格ではなかったのだという。純粋で優しい性格だったのだと。

 都心から少し外れたところに私たちは着くと、そこには周囲から完全に浮いた神殿があった。恐らくこれが冥府神殿(コラオス)だろう。ヘカテーは神殿の扉の取っ手に手をかけると、腕に力を入れて思いっきり扉を開ける。



 「たーのもー!!」



 私はヘカテーのそういうところは好きだ。物怖じせずに本能のままに喋るヘカテーの自由さには、何故かこっちまで自由になったような気がする。それに、ヘカテーは私に対してだが地味に気遣いをしてくれる。だから、ヘカテーはすんごく絡みやすい。



 「なんだ……?」



 冥府神殿(コラオス)の奥から現れた、鬼の形相をした赤眼銀髪で逆立った髪型の、黒のマントがついた黒の鎧に身を包む2m越えの迫力のあるおっさん。ドスンと足音が鳴る度に地響きが鳴り、正面に立ったものにとても圧迫感を与えるものであった。だが、それと同時に本当の感情を心の奥底に隠して殺している感じがした。だから私は、雑魚みたいな威圧に一切屈することなく鬼の形相をした男に話しかけた。



 「ヘカテーから色々聞いた」


 「俺は何も聞いていないが?」



 男は私がそう言った瞬間にヘカテーの方を向いて言う。ヘカテーは「へ?」とアホっぽく一言だけいい、男はそれを見て呆れたのか私の方を向く。多分……、これがいつも通りなのだろう。私もきっとそうするわ。



 「あんたがハデスで合ってんだよね?」


 「ああ。それがどうした?」



 見上げた先にあるハデスの顔には、見るからに血管が浮き上がっており、更にその血管からピキピキと鳴っていた。本当に激怒する直前のジジイって言ったところだろう。

 私は、ハデスが何故こんなに苛立っているのか知っている。あえてハデスをイラつかせているが、理由は特にない。それに多分、今のハデスは何を言ってもイラつくだろう。話を戻すが、私はヘカテーから色々情報は貰っている。その中のひとつに、ハデスがめちゃくちゃ苛立っている理由というものがあった。



 「ペルセポネ」



 その一言を発しただけで、ハデスは顔に浮かべた血管を一瞬でしまう。そして、ハデスは何か察したのかそのまま話を聞く体制に入る。



 「ペルセポネが神土病にかかってるから、そんなに怒ってんでしょ? 治してあげようか?」



 神土病。冥界にある鉱物が洞窟内の土を汚染し、その土が発する独特の変質物質「モーゲン」に対する免疫が無い者が発症する致死率100%の病気である。神土病には1370名の神が罹っており、その1370名全員が死亡している。まともな治療法がまだ確立されていない為、このままでは罹ると100%死ぬ病気となってしまう。その1371人目がペルセポネであり、昏睡状態にまで陥っているかなり危ない状態だという。神土病の発症場所は膵臓であり、膵臓がモーゲンに侵食されるとそこから各部に伝播していく。膵臓が完全に侵食されるとその時点で死亡し、膵臓の90%が侵食されると体が耐えきれず強制的に昏睡状態へ移行する。

 そんな神土病だが、私は治す可能性である唯一の方法を知っている。神土病の存在は全知全能(ゼウス)を獲得した際から知っており、ゼフュロスを実験台にしてその治療法を模索していた。



 「お前には何ができる?」


 「まあ、黙って任せといてよ」



 結構高くにあるハデスの肩を、私は跳んで軽く叩く。



 「信じてやって。ああ見えて、彼女はやるよ」


 「ああ。触られた手でわかる」



 ハデスが先導し、私とヘカテーはペルセポネのいるハデスの自室へ向かった。どうやら、ハデスとペルセポネは同じ部屋で暮らしているらしい。まあ、妻なんだから特に違和感はない。

 ハデスの自室に入ると、豪勢なベッドの上で横になっている黄緑色の髪でクラウンハーフアップの髪型をしている、ウェディングドレスのような服を着ているπがとてもデカイ女性がいた。背丈は私と同じくらいだろうか。私はペルセポネの膵臓があるであろう部分に手を当て、最高火力(レベル7)の探知魔法を使って範囲をペルセポネの体に制限し、極限まで精度を良くしてモーゲンの状態を原子レベルで解析する。



 「ハデスはこういう女性が好みなんだね」


 「黙れ。悪いか?」


 「悪くはないけど」


 「じゃあ黙れ。集中しろ」


 「へいへい」



 神土病を治療する方法。それはゼフュロスの体で試したのだが、ゼフュロスの心臓を複製し、全知全能(ゼウス)ですぐに復活させることができる状態を作り、神を殺す術(ミストルテイン)を心臓にだけ発動する。心臓を綺麗に殺し、殺した直後に全知全能(ゼウス)を刹那の間に生成する。血が動き出す前に生成することで、ゼフュロスはこれまでと全く変わらない生活を歩むことに成功している。つまり、神土病でもできるだろうということ。だが、神土病の場合は最初から健康な膵臓をしているわけではなく、モーゲンに汚染されている状態である。だから、私は時間操作(クロノス)を使って、ペルセポネの健康な時の膵臓を確認する。そして、健康な時の膵臓を複製する。

 改めて手術の流れを言うならば、まず時間操作(クロノス)を使用してペルセポネの健康時の膵臓を複製する。その状態でこの時代に帰ってきて、神を殺す術(ミストルテイン)を使ってモーゲンに汚染されている膵臓を殺し、複製した膵臓を殺した直後に生成する。これが大まかな流れとなる。



 「ちなみに聞くが、成功率は何パーセントだ?」


 「10%行ったらいいんじゃない?」



 これはハデスを黙らせるためのハッタリに過ぎない。成功率を低く言うことで口止めし、自分が集中する精神的余裕を作るのだ。ハデスは私の誘導通り黙ってくれた。



 「I'll start the operation.」



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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「なんだ」



 完全に時間が停止した瞬間、目の前に現れたのはクロノス。私が時間操作(クロノス)を発動すると、決まって私の前に現れるのがクロノスなのだ。本人曰く「リーレが何をしでかすかわからん」からなのだと。



 「手術みたいなものだよ」


 「……なるほど」



 なんだその間は。さっさと理解してさっさと通しやがれ!!



 「ペルセポネが健康な時だろう? 20年前になるな」


 「ありがと」



 私は時間を停止させたまま、20年前の冥府神殿(コラオス)へ遡行した。目の前にいるのは、ハデスの頭を撫でているペルセポネだった。何の状況なのか全く分からないが、とりあえず膵臓を複製して帰ってくる。



 「時間を戻すぞ」


 「いいよ」



 クロノスは私の承認を確認してから、時間を動かし始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 私はペルセポネの膵臓部分に手を当て、全知全能(ゼウス)の発動準備を済ませた上で深呼吸をした。集中した私は、神を殺す術(ミストルテイン)を発動させる。

 発動してから0.0000()000000()000000()0000001()秒後、私の脳味噌は全知全能(ゼウス)を発動する信号を出し、0.0000000()000000001()秒後に全知全能(ゼウス)を発動する。発動した瞬間に膵臓が生成され、問題なくペルセポネの膵臓が動き出したことを発動していた探知魔法で確認する。



 「終わったよ」


 「……もうか?」


 「うん」



 私はハデスに手術が終了したことを伝えると、すぐにペルセポネが目を覚ました。瞳の色は黄であり、自他ともに認める感性の欠如した私でも美しいと思った。その目は全てを理解した目であり、私の方を見る。



 「リーレさんですよね?」



 ……なんで名前知ってんの? 知り得る情報源は何も無いはず。……というかさ、目覚ますの早くない?



 「まあ、はい……」



 唐突過ぎて腑抜けた、そして唖然とした声しか出ない私。だが、それに関わらずペルセポネは質問を続ける。



 「あなたが神土病から救ってくれたんですね?」


 「まあ、はい……」



 同じ返答しかできない……。というか返答なんて全く考えてなかったよ!!



 「お礼と言ってはなんですが……」



 そう言うと、ペルセポネの側に立っていた私の右手を手に取り、ペルセポネは手の甲に唇を軽くつけた。手の甲に当たる唇は柔らかくて弾力があり、「本当にノーメイクかよ」と思うほどにピンクな唇は、少し色っぽかった。



 「これでいけたはず……」



 ペルセポネは小さく呟く。これまで行ったことがないことなのだろうか。私はそれが何か全くわからないが、とりあえず聞いてみることにした。



 「えーと、これはどうなってるんですかね?」


 「そう言えば説明していませんでしたね。リーレさんに私の神術を与えました」



 確かに、全知全能の効果の一つである神術把握に、ペルセポネの神術が名前が設定されていない状態で追加されている。その他には全知全能(ゼウス)神の風(ゼフュロス)など、これまで獲得した神術の全てが書かれている。ちなみに、そこから神術の内容を見ることができるのだが、見てみると「様々なものを成長させることができる」というものらしい。私は即興で豊穣(ペルセポネ)と名付けた。

 私が神術を受け入れたからなのか、ペルセポネは嬉しそうにして笑顔を浮かべる。もしかしてと思い、私は横目でハデスの顔を見る。すると、そこにはペルセポネが起きていることでとても嬉しそうなハデスの姿。



 「ハデスさんに一つ質問」


 「なんだ」


 「明後日、パルテノンで神謀りが行われることは知ってる?」



 すると、ハデスは私の話に興味を持たずに「知らん」と冷たく返す。ヘカテーはその事を今日初めて知ったらしいから、ハデスが知らんと言うのもおかしくはない。何せ、パルテノンからの情報は確定された冥府神に関係あることしか伝えられないらしいからね。私という特異点が現れたから、ヘカテー含め冥府神に情報が伝播して知っていくのだろうが、ハデスには口止めして伝えていないのだろう。

 ここからが本題だ。私のやりたいことはまあ、何となくヘカテーは察しがついているだろう。なので、今からハデスにそれの説明を始める。



 「今回の神謀りに私は参加するつもりはなかった。けど、冥府神ってことを頭の中に思い浮かべた瞬間、参加しようと思ったんだよ」


 「……どういうことだ?」


 「ハデスってさ、冥府神の中心的存在ってことで合ってる?」


 「まあ、そうだな」



 ハデスは私の話を腕を組み、ときどき頷きながら聞く。



 「……まさか、貴様!!」


 「お、わかった?」



 どうやらハデスはわかってくれたようなので、私は手を伸ばして、手のひらを前に突き出すような状態のまま、手のひらの先に虚無の世界への扉(ヴォイドフィールド)を開いた。ヘカテーは先に虚無の世界へ入った。



 「じゃ、明日またここ来るよ」


 「おい待て!!」



 私はハデスの制止を無視して、虚無の世界に入った。虚無の世界への扉(ヴォイドフィールド)を閉じると、ヘカテーは冷や汗をかきながら話し始めた。



 「いやぁー、中々エグいところと攻めたねぇ」


 「明日はしっかり説明する予定だから、なんとかなるでしょ」


 「楽観的すぎでしょ」



 そう言い、私とヘカテーは明日を待った。



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