7人目 冥界落ち告ぐ終告者
リーレが住んでいた時代から遥か昔の時代。それがこの魔界である。地球では先カンブリア時代にあたる年代であり、地球から遠く離れた、膨張を続ける宇宙の中心に位置する。リーレは異世界転生をした訳ではなく、時代を遡行して転生したというわけになる。つまり、地球がある宇宙と魔界がある宇宙は同じである。そのため、同一の森羅万象を受けているのだ。
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スターベン一家殺害事件。あれから10年くらいが経った頃、私はアグロスの首都ミレアスから少し離れた無法地帯、ノーツにいた。初めて来たのは確か9年前だったはず。驚きはしなかったけど、廃墟寸前の街並みに浮浪者が溢れかえっていた。まあ、山谷とか釜ヶ崎、寿町みたいな感じ。たまにヤクザとか極道がゾロゾロ歩いてたりする。そしてたまに抗争が起こったりする。浮浪者達は職を失ってなのか、失わずしてこうなったのか、それとも最初から選んだのか、その辺はよくわからないけど、日雇い労働みたいなのがノーツでは頻繁に行われている。ちなみに私も日雇い労働を何回かしたことあるけど、仕事のほとんどは建設か義勇兵、または魔法実験の実験台。だからなのか、ノーツの至るところから異臭がする。一応都市機能はしっかりしてるからスラム街じゃないけど、スラム街予備軍と言っても差し支えないと思う。
ここで、ノーツの悪口を言っていこうと思う。何故かって? 意味は無い!! やりたいからだ!! じゃ、早速1つ目。空気が汚すぎる。四日市ぜんそくみたいな化学物質の汚染段階には届かないけど、それに迫る勢いではあるくらいには汚い。外なのに埃が舞ってるんだよね。多く舞ってる日は魔力がそれなりにある人じゃないと、常時防御膜を貼れないから外にすら出れない。2つ目は臭い。食べ残しとかゴミが普通に散乱してるから、そこからとてつもなく臭い匂いが発生して、それが街中にこびりついてるんだよね。
「おいコラ。テメェどの面下げて歩いてんだァ?」
「知るかボケェ。お前のこと気にして歩くほど暇じゃねぇんだよクソが」
どうやら喧嘩が始まったようだ。これが3つ目。治安が滅茶苦茶悪い。だから度々起こってはうるさくなってくると私が止めに行ってる。うるさいからね。寝させろクソが。気配から考えると5人と6人。まあ喧嘩で終わりそうな雰囲気ではありそうだけど、喧嘩はとりあえず見ておこうとは思う。
私は闇市のような商店街の屋上で座っていたのだが、近くの大通りで喧嘩が起こっているため、その場でゆっくりと立ち上がる。大通りの人達は喧嘩が起きようが全く気にしない。すると、建物が壊れる音が聞こえた。そして、様々な方向から大量の足音が聞こえる。どうやら大規模な抗争になりそうだ。
「はぁ……」
私は大きくため息をつくと、喧嘩の場所へ走って向かった。すると、建物が壊れた音の元凶と思えるようなものが見えた。魔法だ。
「やっぱり魔法だ」
こいつらは素手で建物を壊せるほど身体能力が高いわけじゃない。かといって、身体強化だけかけて強くなるのもこの世界の喧嘩では弱い。だって、格闘戦はこの世界では弱いから。だからってさ、出鱈目に魔法使うかね。なので私、体動かそうと思います。
「おい」
ヤクザの前に瞬間移動のような速さで現れ、ヤクザに向かって言う。私は神の使者としての依頼がなかった時、ノーツで何をしていたのか。とっても暇だ。だから私は、ノーツを支配しているハンドバ侯爵にある命を受けていた。それは……。
「あ? なんだテメェ。ぶっ飛ばされてぇのかァ?」
「口縫うぞ」
私は残像にも残らない速度で足に魔力を込め、足裏で地面を強く蹴る。地面は蹴った勢いで蹴った部分が湾曲して変形する。それに伴って、地面の体積が変わらないようにヤクザが立っている部分の地面を隆起させる。もちろん魔力で。ヤクザを吹き飛ばした瞬間に地面を魔力で元に戻す。蹴って凹ませた部分も魔力で元通りにする。
ヤクザは宙に浮いている状態であるため上手く身動きが取れず、そのまま頭から地面に落ちようとしていた。だから私は落下地点のレンガを鋭利な形へ変化させ、ヤクザの脳天を突き破って串刺しにした。私は追い打ちをかけるように火属性発生系極火力魔法を使って火炙りにした。ちなみに炙る程度の炎の強さなら最弱火力でも十分である。そのため、ヤクザは一瞬にして丸焦げとなった。その現場を見た他のヤクザ達は、私を見るなり戦慄しながら大きな声で言う。
「あの殺し方……、終告者だ……!!」
「なんでこのタイミングで来るんだよ……!!」
その場にいた者達は続々と戦意を喪失していく。だが、そこにいたヤクザの親玉みたいな奴らが戦意喪失したヤクザ達を奮い立たせる。
「おい!! 狼狽えんな!! 例えこいつが終告者だとしても、俺達はこいつを殴り飛ばすだけだ!!」
「終告者をぶっ飛ばすためだ。ここは一時共闘といこう」
一時的に手を取りあった2つのヤクザグループ。親玉みたいな奴らからやる気が伝播してくように、ヤクザ達全体のやる気が出てくる。けどまあ、どれだけ力をつけたところで、私に敵うわけもなく。
「喧嘩上等」
私は煽るように言う。すると、沸点の低いヤクザ共は簡単に怒る。だって阿呆だから。そして、私めがけて阿呆共が全員本気で走ってくる。その時の掛け声は、決まって「死ねぇぇぇ!!」である。
「死ねぇぇぇ!!」
ほら。当たりすぎて表に出て笑ってしまう。
「アハハハハハハハハハハッ!」
高らかに声を上げて笑う。腹を抱えて笑う。だが、阿呆共にとってそれは不気味だったのだろう。魔獣のように血走って走る阿呆共だが、頭が悪そうな生き方をしていたら本能的に理解するのだろう。多分、私はとても不気味な顔をしているのだろう。走りながらも顔が徐々に青ざめていく。
「やる気? いいよ」
正面から攻撃してくる阿呆共を、一人一人丁寧に相手していく。着ている白いコートが大きく揺れながらも、飛んでくる拳を綺麗に避けて蹴る。後ろから来る攻撃にも、前から飛んでくる拳を利用して攻撃同士をぶつけ合う。横から来る攻撃は腕を掴み、自身にできるだけ近づけた状態で鳩尾に拳をぶつける。その全ての攻撃の中で、私が殴るととても鈍い音が鳴る。その音は、骨が毎回毎回折れてるんじゃないかと心配するくらいには、鮮明に聞こえてくる。
ある程度攻撃が収まる。だから私は阿呆共から距離を離す。すると、その行為に勘違いした阿呆共が話す。
「逃げるのか?」
「まさか。あんたら相手に逃げるわけないでしょうが」
私は右手を前に伸ばし、手に魔力を集中させる。脳内には大量の魔法陣を形成する魔法回路。魔力は魔法陣を形成する魔法回路に使われ、専用の魔法の形へと変化する。パッと見た形は湯気のような形から変化しないが、色が変化しているのだ。魔力は7色に輝き、その魔力は人差し指の先に集束する。私は人差し指だけを伸ばすことでその魔力を強調させ、阿呆共に見せつけるようにする。
「その魔力の色……、複合魔法にしては色が多すぎるだろ……!!」
「あんた達はこの魔法、多分知らないと思う。実際、私もこれ初めて使うし」
私は大きなためを作り、その間に人差し指に集束させる魔力量を増やす。
『冥界落ち告ぐ終告者』
私が作ったオリジナル魔法の通常魔法に分類される冥界落ち告ぐ終告者は、視界内の敵対反応を持つ者を全て一瞬で殺す魔法である。その殺し方はその場その場で私自身が決めれる仕組みとなっており、特に決めてなかった場合は、脳細胞が内側から破壊されていくという死に方となっている。この魔法含むオリジナル魔法は、月と魔術、豊穣、清めと贖罪、出産を司る冥府神、つまりはこの世界の神の一人であるヘカテー曰く「この魔法を使う程の魔力量を与える者は、前にも後にもリーレしかいない」とのこと。つまり、この魔法は私しか使えないというわけ。ちなみにこの魔法は6属性全て最大火力まで行使できないと使えない仕組みになっている(魔法回路に6属性の最大火力にある独自の魔法回路が使われているため)。
唯一無二の魔法を使い、抗争をしていた全てのヤクザの脳細胞を破壊して殲滅した。ひと通り仕事が終わったので、家に戻る。私は足元にポータルを開き、ポータルの中に入る。
「いやー、帰ってきた帰ってきた」
ここは虚無の世界。全知全能の力で作った、現行宇宙とはまた別の仮想世界のひとつである。簡単に言うと、新しい世界を作ってその中で暮らしてるってこと。虚無の世界は現行宇宙と同じ大きさなのに対し、この世界にあるのは私の家のみ。周囲は闇に閉ざされた暗黒の世界である。まあ、目印になってる光があるからそれを手繰ればいいのよ。外の世界を観察しようと思えば、小さなポータルを好きに移動させるだけでいいため、ここにいるだけで大抵の事は解決する。それに、この世界を使うことで擬似的な瞬間移動を行うことができる。私が作った瞬間移動魔法の原型はこれ。
虚無の世界内にある自分の家に入り、中にあるソファに寛ぐ。前世ではこんな感じで寛ぐ時間があまりなかったから、こんな感じに心を落ち着かせる時間を作ることができるなんて思いもしなかった。魔法って本当に便利。
すると、虚無の世界に勝手に入ってくる不届き者を私は観測した。虚無の世界を作ったはいいものの、作る規模が大きかったのか、色々制約を定めなければならなかった。そのうちの1つが、「私が認めた神は自由に出入りできる」というもの。まあ、私が認めた神なんて本当に指で数えるくらいしかいないからいいけど。
「おい」
家の中から聞こえる声の正体はゼフュロス。顔を合わせて会うのは10年振りくらいなので、「久しぶり」と声をかけてあげようと思う。
「あ、久しぶり」
「ああ、約10年ぶりと言ったところか」
「週3回の神界訪問でも中々会わないしね」
「会う必要がないしな」
「うわ、酷い」
「というか、お前がオーディンと毎回のようにつるんでるからだろ。そりゃ会わねぇよ。あんな殺風景な決闘場行く気起きねぇし」
「私から誘ってるわけじゃないよ。向こうが毎回のように『決闘するぞ!!』って言うからさ。しょうがないでしょ。まあ、私からしたらまともに戦えるやつと戦えるからいいんだけど、今はオーディンも弱いし飽きてる」
「あれが弱いねぇ……」
ゼフュロスは小さな声で言う。誰かに同情しているようだ。
「挑む度に負けて帰るオーディンの気にもなれよ」
「体術だけで負けるのが悪い」
「知るか。俺はこんなことを言いに来たんじゃない」
どうやら、ゼフュロスは結構真面目な用件で私に会いに来たらしい。あのゼフュロスが結構真面目なのだ。聞いてみようじゃないか。
「それで? 用件は?」
すると、ゼフュロスは話し始める。
「久しぶりの大型依頼だ」
大型依頼。それは世界に危機を与えるほどの出来事を防ぐための依頼。これまで、豊穣を守るための依頼や治安の安定化の依頼、そして暗殺の依頼という小型依頼がほとんどだったのだ。これまであった大型依頼は3件。1件目は地獄にある門の修理。ただ修理をするわけではない。門の周囲に蔓延る屍を全て破壊、そして群がる雑魚共を一掃するのも依頼のうち。2件目は地底界のとある国にあった国内反乱。所謂テロというやつだ。総勢3万に登る反乱軍を殲滅し、治安を元に戻すまでの超面倒臭い依頼。3件目も地底界。ある組織の暗躍を阻止、組織の壊滅という一番好きな依頼だった。そして、今回で4件目。どんな依頼が来るのか。
「内容は?」
「王都ミレアスにある『国立アグロス魔法魔剣一貫学園』に入学する予定の、初代勇者の子孫と魔王の子孫を暗殺しろ」
まさかの暗殺系だった。まあ、暗殺系は得意分野だからいいんだけど、そこまで情報が明確なら小型依頼としてすぐに暗殺すればいいのでは? と思った。
「小型依頼でもいいんじゃないの? そこまで特定できてるんだからさ」
「いや、そういうことじゃない。明確な未来が見えたわけじゃないが、1つだけわかることがある。お前は国立アグロス魔法魔剣一貫学園に入学するってことだ」
……は?
「……は?」
「つまり、学校行ってお勉強だ」
「……なんで?」
「知るかよ。俺神謀りでいつも寝てるからな」
「クソかよ。冥府神堕ちるぞ」
「天使じゃねぇんだからそんな簡単にはならねぇよ。俺は怠惰に神の仕事をこなすだけだ」
「ベルフェゴール……」
「悪魔の名前出すな。とりあえず聞きたかったらゼウスにでも聞いてこい」
「はいはい」
私は神界への門を開き、ゼウスの部屋へ直接入った。そういや、座標を正確に絞り込むことができるようになった。だから、ゼウスの部屋のど真ん中に神界への門を繋げてやった。私は神界への門を通り、困惑するゼウスの顔を見て心の中で笑う。
「……何笑ってんだ」
「その顔のせいだよ。てか心読むな」
「即答するな」
ゼウスは深いため息をつくと、私に用件を伝えに来た。
「で、何の用だ?」
「私に学校でお勉強させるみたいじゃん。急にどういうこと?」
「そういうことか……」
ゼウスは何かを察すると、私に説明しだした。
「あの学校で普通の生徒のように過ごせ」
「……やっぱお勉強じゃん」
「それだけじゃない。あの学校内は中々怪しいものが揃っている。ワケアリもな。しかも、今年から国立アグロス魔法魔剣一貫学園内の大型依頼の件数が一気に増える。そう思ってくれ」
「あくまですぐに対処するため。そういうことね」
「本音はそういうことだ」
「まあ、わかったよ。で、試験っていつよ」
今日は3月12日。前世では入学試験ならこれからってところもそれなりにあったはず。国立アグロス魔法魔剣一貫学園がいつなのかは知らないけど、相場ならもう少し後なはず。
「3月14日だ」
「了解。資料とかは天使に通しておいて」
「わかった」
こうして、私はアグロス魔法魔剣一貫学園の入学試験を受けることとなった。ちなみにこの学校、5年制である。
「さて、狂気の使徒として初の大型依頼か。ちょっと本腰入れますか」




