6人目 スターベン一家殺害事件
天使族。基本的に女しかいない種族であり、例外的に神界に住んでいる、神に仕える種族である。天使は地底界に住む悪魔族と戦争を繰り広げており、その決着は未だついていない。
天使の階級。それは9つ存在しており、上から順に熾天使、智天使、座天使、主天使、力天使、能天使、権天使、大天使、天使となっている。名前がついている天使の殆どは、熾天使か智天使、座天使のどれかである。そして、その3種の位の差はほとんどない。
熾天使の中でも、最上位に位置する天使がいる。それが四大天使であり、ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルの4人が該当する。その4人は圧倒的な力と地位を有しており、同じ熾天使と比べても天と地ほどの差があり、神の方針に背かない限りは何をしても良い。
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私は神界への門を開き、神界へ向かった。神界へ入ると、そこには訓練と称してバチバチに戦闘をしている天使が2人。そして、それを取り囲むようにその戦いを見るたくさんの天使達。喧嘩でもしてるのか? とりあえず、私はそいつらに事情を聞いた。
「何してんの?」
すると、1人の天使は私に反応して事情を話してくれた。
「ミカエル様とゼルエル様が戦ってるんですよ。その訓練がここで行われているからみんなで応援してるんですよ」
どうやら、ミカエルってのは四大天使っていう熾天使の中でもクッソ強い奴らの1人なんだと。そして、その弟子みたいなんで四大天使の実力に追いつこうとしてるのがゼルエル。丁度今戦ってるところ見てるけど、ミカエルがずっとゼルエルをボコしてる。ゼルエルは隙を探ってるっぽいけど、あの実力じゃ隙を探る前に押し切られる。筋自体は悪くないんだけどなぁ……。
「……ぁあ!! もどかしい!!」
私は小さな声で叫ぶ。それは誰の耳にも届かない、ひとりでに消えていく声だった。
ゼルエルってやつを鍛えてやってもいいんだけど、私にもやることがある。それが終わったら鍛えてやってもいいんだけど、如何せんこの体だからなぁ……。技術とか教えても結局は実戦で見せないとイメージしにくい。……後でいっか。とりあえず、私はゼウスのいる場所へ向かうことにした。
「……んでさ、ここどこ?」
「え……?」
……。どうやら、天使には私が神の使者としての役目をしている最中だということが知れ渡っていないらしい。それに加えて、私の存在を知らないらしい。神達何しとんじゃ。神に仕える種族にくらい言っとけや。不便だろうが。
「その人なら私が対処します」
「メタトロン様!?」
私の目の前に現れた女は金髪ショートカット、紫の瞳を持った150cm位の6枚の翼を持った天使。服装は何故かセーラー服。どうやら、そのメタトロンという天使が説明してくれるようだ。知ってる奴もいた。とりあえず一安心。
私とメタトロンは少し離れたところまで移動した。そこはこの建物の廊下であり、壁にもたれかかりながら私たちは話をしていた。
「で、リーレ様は何故このような場所に?」
「神界への扉を開いたらここに着いた。んで、ここからパルテノンまでどの方向にどれだけ離れてるのかわからなかったからさ。それに、ここにも来るかもしれないから場所の名前も聞いとこって思って」
「なるほど……」
メタトロンは顎に手を置き、何か考えている様子だった。まあ、私にこの天使の考えてることなんて関係ないし……、感情読むなんてしなくていいでしょ。
「ここは天使達が住む宮殿。名称はヴァルハラ。元々はオーディン様が住まわれていた城なのですが、パルテノンができた今、必要なくなったので大多数の天使がここに住んでいます」
大多数。ってことは、ここには住んでいない天使もいるってことだ。まあ、そいつらのことは後でいいでしょう。……後に回しすぎだろ私。
「ここからパルテノンの方向と距離でしたね。ここからパルテノンは北に2km程行ったところにあります」
「そう。ありがと」
メタトロンに軽く感謝すると、パルテノンの中にあるゼウスの部屋へ瞬間移動した。
「ねぇ」
「どうした」
瞬間移動した瞬間にゼウスに語りかける。ゼウスは驚くことなく私の呼びかけに応じる。普通驚かない? 肝座ってんなぁ……。とりあえず、私はゼウスに今回来た目的である「私の家族を全員殺す依頼の意味」を聞いた。まあ、答え合わせのようなものだけど。
「スターベン一家ってさ、何か神達にとって嫌なことでもしたの?」
「そういや言ってなかったな。奴らは我々を滅ぼそうとしている」
……嘘であり嘘ではない、か。私は全てを知っている。神達はわざと神を殺す術を作った。その魔法陣は完璧なまでに作られており、本当に神を殺せるかもしれない魔法である。まずまず、魔法は神が生み出した神秘の1つ。私は何故、こんな神を信仰する宗教がひとつも無い世界の人が、どのようにして魔法を知ったのかすらわからない。まあ、複雑なことがあるんだろう。知ったこっちゃない。
「……具体的にはどういうこと?」
しらを切ってゼウスに意図を無理矢理吐かす。威圧もかけて、いつでも殺せるような状況にしてゼウスを脅すような雰囲気で、言った後にニヤリと笑う。ゼウスは冷や汗をかいて、目を閉じながら呆れたように私に意図を話した。
「神への僅かな攻撃を可能とする神を殺す技を作ろうとしているからだ。そのためには優秀な人材が必要で、お前の兄、姉が使われているのだ」
全て知っている情報だ。それに、神を殺す技はもうそろそろ完成する。まあ、発動するのに莫大な魔力量が必要なんだけどね。まあ、ちょっとだけ知ってる風だけ出しとこう。
「なるほど。それってさ、私にとっても影響が及ぶってことで合ってる?」
「そうなりうる可能性がある」
「じゃあぶっ殺さないと。私の平穏を邪魔させるわけにはいかないからね」
「そうか」
案外冷たい。酷いわ。
私は生命界に帰るための扉である生命界の扉を開き、生命界に帰ろうとする。
「早速使ってるのか」
「まあね。便利だし」
「回数制限をかけなかったところも評価してほしいがな」
かけれんのかよ。
「かけれるんだ」
「やろうと思えばな」
「どうせ『1度かけてしまった神術にはかけれない』とか言うんでしょ」
「痛いところを突く奴だ。お前は」
神術で神に影響を与えるやつだったら回数制限をかけるんだろう。けど、私にはかけられていない。ってことは、私はこいつをはじめ、神術をくれた色々な神に信頼されている、ということなのだろう。
「まあ、神達に影響を与えるわけじゃないからさ、安心してよ」
「そうだと信じている」
私は生命界の扉を潜り、いつもの森に戻った。すると、そこには新たに現れた魔獣が蔓延っていた。
「討伐してから帰るとしますか」
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私がパルテノンに瞬間移動した後、メタトロンはすぐにサラカエルと遭遇した。
「あの化け物、隙が一切ない」
「うん。あの人、他人に会う時は常に警戒している節があるんだよね」
「少しは警戒を解いてほしいんだけどなぁ……」
「それは私もわかる。あのまんまじゃいつか精神がもたなくなる」
「まあ……、アルミサエルに頼んだらどうにかなるでしょ」
「最強じゃん」
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翌日の午前1時。確実に全員が眠りについた。私は武具の原点を使用し、神具級の短剣と木の剣を5本生成した。その状態で姉の部屋に瞬間移動し、外に木の剣を1本瞬間移動させた。
「さて、地獄の始まりだ」
木の剣を、魔法を使って私の手元へ引き寄せる。私の手元と木の剣の間にあった窓は綺麗に割れ、姉は少し反応する。だが、起こさせはしない。4本の木の剣で姉の体を滅多刺しにし、姉を一気に起こして悶絶させる。
「ぐっ……。ぁぁあっ!!」
とても痛がっている。だが、そんな程度では私の心は1mmも動かない。だから私は、容赦なく残りの1本を姉の心臓に突き立てる。その際、姉の視界に一瞬だけ私の顔が入る。
「リーレ……!!」
「……じゃ」
私は姉に背を向けながら軽く手を1度振り、手を振った瞬間に姉の体は爆散した。それは、木の剣に付与してあった武具の原点の能力の1部である。
次は、兄の部屋の扉の目の前に瞬間移動する。ここまで、本当に予定のまま行われている。だが、姉の部屋で起こった1件はすぐにメイド間に広まり、メイド達が起きだした。
「……仕方ないか」
私は全知全能を使って自身の分身を7体生成した。それは全て実像分身であり、それぞれにさっき生成した神具級の短剣を1本ずつ持たせた。
「この建物にいるメイドを狩りつくせ。狩り尽くしたら消滅しろ」
「了解」
すると、分身たちは一気にその場から消えた。次の瞬間、各地でバタバタ言い始めた。まあ、結構広いし仕方ないか。
これで面倒事はなくなった。殺しに行こう。私は兄の部屋の扉を豪快に突き破り、部屋に侵入した。危機感がある兄はすぐに起き、ベッドから起きて護身用の剣を持って構える。
「馬鹿が」
兄はそう言うが、兄の視線の中央に現れたのか、先がドリルのような形に変形した木の槍だった。槍は兄の顔を容易に貫き、衝撃波で兄の顔を消滅させた。回転させすぎた。
何はともあれ、次は父と母の部屋。母は瞬殺して、父は適当に殺す。そこは特に決めてなかったから、完全アドリブで殺す。すぐに瞬間移動した私は、母の枕元に瞬間移動して木の剣で貫いた。父は母が殺された時に生まれた返り血で起き、私の存在に気づいた。
「……き、貴様ァァァァァアアア!!」
非常にうるさい。近所迷惑だから黙ってもらえないだろうか。
「あー、ごめんごめん。あんた以外のスターベン家は皆死んでるよ。あんたは私の事スターベン家の人間だと思ってないみたいだし、この表現は合ってるんじゃない?」
父は怒りの形相を私に向ける。まあ、たかが数十年生きた雑魚の怒りの形相。威圧を感じなければ、恐怖はもちろん感じることはない。だから私は、精神不安定状態の父に追い打ちをかけるように、火属性発生系魔法極火力を床に向かって放った。すると、炎はみるみる家中に広がっていく。
「ついに家まで燃え始めちゃった」
何故か私は腹の底から笑っていた。不気味な顔で、目の奥は霞んでいた。私は前世から、この状態ではまともに人と話したことはなかった。というか、話してもらえなかった。昔はずっとこの状態だった。誰にも理解してもらえず、ただずっと、1人で生きていくことしかできなかった。だから殺しを始めたんだと思う。返り血は私を隠して、私を塗り潰して、虚飾の私を作ってくれる。けど、虚飾は簡単に剥がれ落ちて本性が顕になる。まあもう、それを隠す必要は全くないんだけどね。
「これであんたらの死体も無くなって完全犯罪だぁ」
ニチャァっと私は砕けた笑顔を向ける。だが、父にとってそれはダメだったみたい。何がダメだったのかはわからんが、とりあえず怒ってる。あー、怖い怖い。
「……何をしたのかわかってるのか?」
「急に親ヅラすんな。んで、わかってやらないとさ、何してるかわかんないじゃん。そんなことも分からないとか……」
「ハッハッハッハッハッハッハ!!」
いやー、流石にこの父は面白いわ。惨めすぎて泣けてくる。世間一般で言われる「クズ親」ってやつなんだろう。
不気味に、腹から、私は久しぶりに大声で笑った。こんなに嬉しい気持ちになったのはいつだろう。いつ、こんな面白い、こんな嬉しい体験をしたのだろう……。
「こんなに嬉しい気持ちを体験したのはいつだろう!? あんたらは私にこの体験をさせてくれなかった!! え!? なんだっけ!? 神殺しだっけか!?」
「……そうだ」
「聞こえねぇよ!! ……まあいいや。その神殺しだけどさ、私神の使者なんだよね」
昂った感情を、一瞬にして無に帰す私。その異常な姿に、父は「こいつは常軌を逸脱した異常者」だと思った。そう私は全知全能で相手の心の中にある言葉を読む。そんな心理から、父は私に浴びせた言葉は……。
「この……、化け物がァ!!」
罵声だった。
「あんたはあんたの嫁、息子、娘を自分の計画に誘導して犠牲にする気だった。そして、その犠牲をミストルテインで無に帰すところだった。わかってたんでしょ? 発動には莫大な魔力を必要とするって」
「あ、あぁ……」
「命を代用して、足りない魔力の分を埋めるとはね。そんな考えを持ったあんたが、1番化け物だよ」
私の言葉で、父は激昂した。
「死ねェェェェェェェ!!」
正面から殴ってきた。何故そんなにシンプルなことしかできなかったか。それは、父に今できることはそれしかなかったから。神殺しの研究に全てを費やしているため、それ以外は本当に下の下。貴族でいられるのは神殺し研究のおかげ。そんな状況で、前世から殺しの達人だった私に敵うわけもなかった。
「結果は暴力……。それすらも弱いとは……」
私は父の背後に瞬間移動し、父の肩に飛び乗った。父は私を振り解こうとするが、中々振り解けない。手に持っていた神具級の短剣で、あっという間に首を撥ねる。そして、肩からバック宙で降りると同時に、父の体を細切れにした。
「結局は雑魚か……」
そう言い、私は分身を見た。すると、分身は誰かに全て破壊されていた。誰だ? 分身とはいえ、私を倒せる存在なんて本当に限られている。私はメイドを殺せといった。ということは、それはメイドの中にいるということ。気がかりだ。
私は屋敷の正面玄関に行くと、そこにはメイド長がいた。そのメイド長はたくさんの返り血を浴びていた。どうやら、私の分身を殺した時に付いたものらしい。私の作った分身は実像分身。血はもちろんある。
「リーレ様。あなたがこれを?」
燃える屋敷の中、メイド長は私に問いかける。私は質問に正直に答え、首を縦に振る。すると、メイド長は戦闘態勢に入る。
「私の分身を倒す腕前は見込むけど、エルフのあんたが一生を尽くしても、私には指一本さえ触れれないよ」
私は時間操作を発動し、私だけ動ける特別な世界を生成した。その状況で武具の原点を発動し、大量の神具級の剣、短剣、槍を無作為に生成し、メイド長の体に次々に投げ、刺さったところで固定した。
「今は殺すしかない。普通に戦いたかったけど」
その状況で時間操作を解除し、メイド長は為す術なく私に瞬殺された。
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それからというもの、私はスターベン領地内に居る全ての人を殺した。逃げる女子供を、産まれたての赤子を、屈強な男を、子を授かっている女を、寝ている大多数の者を、とにかく殺した。殺して、殺して、殺し回った。
「こんなもんか……」
領地内にある河川敷で一息していると、ゼフュロスが現れた。
「気が済んだか。リーレ・スターベン」
「とりあえずね」
「だが、これからどうするつもりだ」
そう、この後どうするか考えてなかった。まあ、適当に歩けば何かしらあるでしょ。
「孤児に扮して辺境の地でも歩いていくよ」
「辺境の地……、か。とりあえず行く宛てはなく、未定って訳だ」
「That's right.」
「……面白そうだ。神界から見ておくことにしよう」
「そう、自由にすれば?」
私はその場を離れようと立ち上がると、ゼフュロスは私を呼び止める。
「……ひとつだけ助言を」
「何?」
「スターベンという名は残しておけ。なにか役に立つはずだ」
「……わかった」
「それともう1つ。どの方向に行くつもりだ?」
「西」
「西は王都だ」
「じゃあ王都に向かうよ」
「……そういや、どこでもいいって言ってたわ」
私は西にある、アグロス王国の王都ミレアスへ向かった。
それからのもの、あの事件は未解決事件として処理されることとなった。世間には、「スターベン一家殺害事件」として、人創暦史上最大の証拠がひとつも見つからずに操作が終了した事件として、語り継がれることになった。私はあんまり気にしてないけど、私はたまたま1人で外出してたから助かったってことになった。領地は全焼したため領地を受け継がされることはなく、自由奔放な貴族して適当に振る舞えと国王に言われた。適当て。酷くね?
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ーー人は神に到達しようとした。人は神を殺そうとした。だが、それには果てのない時間を必要とした。神は、「神を殺す術」と呼ばれる魔法の魔法陣を設計し、自身たちを殺す術を人間が知る道を作った。それは、神によるひとつの気まぐれであったのだーー
そう、あくまで気まぐれであったのだ。神は人がそれに触れようとすると消す。だが、その例外が現れてしまったのだ。神が直接裁ける対象なのに、裁くことができない真なる脅威。そう、リーレ・スターベンである。
「……自分で言ってて恥ずかしくないのか?」
「黙れシバくぞ黒スーツ」
そこにいたのは、白神 虚と瓜二つの姿をしていた、リーレ・スターベンだった。




