5人目 ミストルテイン
魔界と呼ばれるこの世界は果てしなく広いため、神界、生命界、地底界、地獄の4つの世界に分割統治されている。その4つの世界は独立していなく、魔界の中にある1つの領域のようなものである。魔界の中心から最も近いのが地獄、そこから外へ地底界、生命界、神界となっている。神界と地獄は完全に統治されているものの、生命界と地底界は未だに完全なる統治はされておらず、混沌としている。
魔界と呼ばれるこの世界には、3つの時代が存在する。天魔大戦前の時代を神界暦と、天魔大戦中の時代を南業暦と、天魔大戦後の時代を人創暦と呼ぶ。神界暦は丁度6億年間、南業暦も丁度800万年間、現在の人創暦は約6億年間続いている。
・神界暦は神々が世界を創造した時代のことであり、古代のこととして受け継がれている話は全て神界暦に起こったことである。多くの生命が誕生し、魔法と神術もこの時代に生まれた。
・南業暦とは、天魔大戦が始まってからノースタリッド平和条約が結ばれた年まで続いた時代であり、天使族と悪魔族の数が激減したことから、世界の均衡が崩れた年代でもある。
・人創暦とは、主に人型の種族が力を持ち覇権を握ろうと力を蓄えている年代である。それにより、神々は常に監視をしていないといけない状態になっており、いつ世界大戦が起きても遅くない状況となっている。
天魔大戦とは、神界に住む天使族と地底界に住む悪魔族の800万年間続いた戦争である。結果は天使族側の辛勝で終わり、生命界は業火に包まれた。天使族と悪魔族の間には「ノースタリッド平和条約」が結ばれ、天魔大戦が二度と起こらないようになっている。
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翌日、私は本格的に依頼をこなすことにした。5時くらいに起きた私は、ベッドの上で依頼の復習やこれから何をするべきなのか考えていた。まず、依頼は「スターベン一家を皆殺しにしろ」というもの。けどよくよく考えてみると、何故一家を殺さなければならないんだ? 神が何故、このような依頼をしたのか私にはわからなかった。まずはそれから探る必要がある。私は根拠のない依頼は受けない主義だ。
次に探る必要があるのは、この世界においてのスターベン家の立ち位置。スターベン家を皆殺しにするのであれば、それは私の住む国のニュースにもなる。大きな力を持った貴族なのだとすると、もちろん大きなニュースになる。
「ま、とりあえず探る必要はあるってことだ」
大きいニュースにするつもりは毛頭ない。だが、大きいニュースになることは確定と言ってもいいだろう。だから、殺すタイミングがとても重要になってくる。私の主観ではスターベン家が崩壊しようが、スターベン家の領地内に住む人達が死のうがどうでもいい。
「タイミング……」
眉間に人差し指を当て、本気で悩む。正直言うと、タイミングなんてどうでもいいと思っている。しかし、昔に殺すタイミングを間違えて大変な目に遭ったということを、今も鮮明に覚えている。だからタイミングは重要だと考えているのだが、わからないことが多すぎる。今、私に与えられている選択肢は2つ。1つ目は滅茶苦茶考えてタイミングを図る。2つ目はタイミングなんて考えずに皆殺しにする。……2つ目にするか。
次に探る必要があるのは、……いや、こんなものでいいか。後は成り行きに任せればいい。ベッドから降り、体を伸ばしたり腕や足を回したりして体を動かす準備をする。
「家の状況を調べようにも、あいつらからは聞けるような関係じゃない。恐らく聞けたとしてもかなり後なはず……」
私は全知全能を使い、1mm程のカメラを複数生成した。それを風属性浮遊系共通火力魔法の「駆けた空、空虚な星」を使って浮かし、カメラの実体が見えないように風属性透過系最大火力魔法の「神隠しとは、神の気紛れと同義である。」を使い、ついでに魔力探知の阻害を起こした。
カメラの映像を映すモニターは私の右目の視界内に管制室のような構図で直接配置し、ピックアップした音だけを右耳に拾うような形にした。これで情報収集の準備は整った。
「後はいつも通り過しているフリをしていればいいか」
私は右目の視界内の端にデジタルの時計を生成し、黒のカラーコンタクトを右目につけて外界からの情報が左目からしか入らない状況にした。その状態のまま、カメラをこの屋敷の全ての部屋へ放った。
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午前7時14分。父と母が起床すると寝室を出て移動を開始。1台のカメラを父と母に尾行させ、寝室にカメラを1台置いておいた。それ以外はまだ動きはない。
父と母は屋敷を出て、古い倉庫に入る。その倉庫の端には、階段が魔法で隠されてあった。その階段を降りていくと、5分程降りた先に古ぼけた地下室があった。その地下室は中央に大きな机。その上には複数の魔法陣の構築式が、紙に書かれた状態でびっしりと並べられてあった。そこに魔法をかけた状態のカメラを複数生成し、紙に書かれた魔法陣の構築式を全て保存した。
紙に書かれた魔法陣の構築式の名称は「ミストルテイン」と言い、概要は「神を殺す魔法」とのこと。この構築式が完成すれば、魔法を用いることで神を容易に殺せる。ということだろうか。なるほど、もうそろそろこの魔法が完成しそうだから、神はそれを危惧して、ミストルテインを完成させようとしているスターベン家を全員殺害しようというわけか。けど……、私が完成させたら意味ねぇじゃん。ポンコツかよ。
午前7時25分。兄と姉が起床すると父と母が通った道と同じ道を辿って地下室に入る。地下室の壁は石のレンガでできていた。どうやら人が集まったようだ。家に仕えているメイドの数名もこの会議に参加しており、そのメイド達は魔法に詳しい者が集まっている。
(今だな)
この時間を利用し、この屋敷にある全ての部屋を探索し始めた。
午前9時。どうやら会議が終わったようだ。その間に私の欲した情報のほとんどを入手することができた。
スターベン家はアグロス国の男爵家であり、貴族の端くれである。だが、先祖が魔法に長けていたため、神を殺す魔法であるミストルテインの魔法陣の製作を国から依頼される。それは人創暦599,995,475年の頃である。5370年前だ。その研究のため、国から長期にわたる援助を受けてその地位を保っていた。貴族でもこのスターベン家は領地を持っており、領地内に住む人達を支配する立場でもある。研究と並行するのはかなり困難であるため、研究に向いていない者に支配の実験を握らせていた。
アグロス国はどうやら、王都であるミレアスは国王が支配しているだけで、それ以外のほとんどは単独または複数の貴族で支配しているような仕組みになっているらしい。だから私は、タイミングとかはあまり考えずに行っても問題ないと考えた。
(もうちょっと情報の入手はしてもいいか……)
メイドが部屋に入ってきた。私は既にベッドに腰をかけて起きていますアピールをしており、「朝食ができております」と声をかけるとすぐにどこかへ行く。まだ全員、あの部屋から出ていないというのに……。だが、あえて私はこの部屋から動くことはない。
午前9時15分。全員が食堂に向かっていることを確認。私は全員が食堂に着いた少し後に着くように、タイミングを見計らって部屋を出た。
食堂につき、何事も無かったかのように席に座る私含め全員。4人は私に悟られないようにあえて無を貫こうとしており、無言でただ朝食を食べていた。それに今は合わせるしかできなく、私も無言で朝食を食べていた。こうやって今まで優秀だと判断した者は実験に参加させ、劣弱だと判断した者は実験のことを知らさせずに過ごさせていたのだろう。この思考になった瞬間、こいつらを私はクズだと判断した。
午前11時47分。訓練の休憩時間、私は森で魔獣を蹂躙しながら、実行する時を考えていた。タイミングで言うと本当にどのタイミングでもいい。欲しかった情報は全て手に入った。後はゼウスに意図を聞くだけ。それは今からすればいいから、本当に私の気分で動くのみ。
「夜の方がかっこいいか」
今考えているプランはこうだ。まず、今日もあるであろう夜の会議が終わって、各自部屋に戻って寝ているであろう午前1時に、姉が寝ている部屋に瞬間移動する。そして、窓を割ってから姉の心臓を5本くらいの木の剣で滅多刺しにする。その際、魔法を使ったら私だとバレる可能性があるかもしれないから、絶対に武具の原点を使用する。次に、兄の部屋の前まで瞬間移動する。姉を襲った時に窓を割るのは、侵入者による行為だと錯覚させるためだから、あえて大人の一般人位の魔力は体外に放出させておく。ドアをぶち破って、部屋の中へ豪快に入ると兄は流石に気づくだろうから、立ち上がったところを頭に木で作った槍を投げて貫通させる。次に父と母が同じ部屋で寝てるから、父と母の寝ている部屋へ瞬間移動し、母を瞬殺する。父とはまぁ……。適当に戦っときゃOK。殺し終わったら家にいるメイドを殺し尽くして家を燃やす。こんな感じかな。
計画を立てていると、不思議と気分が高揚する。多分、久しぶりに人を殺せるからだろう。平和にしたいなんて建前。いや、ちょっとだけ本心か。「悪人を殺しまくって、正義としても殺人鬼としても畏怖される存在でありたい」っていうのが本心だからね。だからなんだろう。
さて、神界にでも行ってゼウスにこの依頼の意図を聞きに行きますか。私はゼフュロスが出していたあのゲート、神界への門を開き、神界へと向かった。




