30人目 女王への謁見
アイリス・ブラッドレスト主催 全国統一最強決定戦。文字通りアイリス・ブラッドレストが主催した大会である。闘技場があるノースタリッドとアイリスが統べるサングィスは昔から交友があり、その名残で国王が主催することになっている。金銭支援はサングィスが国として支援しているわけではなく、アイリスが個人的なお金を出している。本来ならサングィスが国として支援するのだが、「頑張ってる人には私から支援してあげたいんです」と本人は語っているため、ノースタリッドも認めている。
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来賓席に場所を移した私は、まず部屋の豪華さに驚く。
「こんな豪華なところで見てたの?」
「まあ、腐っても国王ですし……」
「この位の扱いはしてもらわないといけない?」
「いや、そういうわけではないですけど……」
言葉自体は謙遜しているが、態度を見るとその言葉は自信の裏返しへと姿を変える。国王としての立場は、人に大きな自信を与えるようだ。
「変なこと考えました?」
「いや? 何も?」
「その反応ってことは、だいたい考えてますよね」
「そんな無礼なことじゃないよ」
「ならいいんですけどね」
アイリスは闘技場の方を向いている豪華な席に座り、私の話を聞く体勢に入る。目は合わせなかった。――だが、真剣な眼差しで。
「私にそこまで合わなければならなかった理由、それはなんですか?」
「その理由を説明する前に、何があったのかとりあえず聞いてほしい」
「わかりました」
私は学園が襲撃を受けたこと、謎の吸血鬼のこと、介入者のことについて、私が知る限りの全てを話した。
「最後のことについてはよくわかりませんけど、学園が襲撃されたことと、謎の吸血鬼についてはだいたいの考察ができるほどの情報を持ち合わせています」
「そう?」
「はい。……それより前に、ひとつだけ」
「何?」
アイリスは私の顔を見て、片手を頭に置いて疲れたような仕草を取る。
「何故、学園が襲撃されたことにそれほど敏感になってるんですか?」
「あー……、言うの忘れてたね。私ね、学園に入学したの」
「……あのリーレさんが?」
「そのリーレさんが」
「……どんなことがあったんですか?」
「まあ、色々あってね」
「なるほど……」
アイリスは一旦その状況を飲み込んだ上で、私の問に対して具体的な回答をする。
「学園を襲撃した謎の吸血鬼、その正体について心当たりがあります。憶測ですが、魔王直属の配下であった吸血鬼達が徒党を組み、テロ犯罪を起こしているのだと」
遠い過去の話、この魔界に魔王と呼ばれる地底界を統べた上で、生命界に侵攻した者がいた。その侵攻を食い止めるために生命界から勇者が現れ、魔王を討伐した。過去の私からしたら「作り話にも程があるでしょ」と言ってしまえるような出来事が、この魔界にもあった。その時の魔王軍の中にいた吸血鬼達が意志を継いでいるのだろうというのが、アイリスの憶測である。でも、それだけならひとつ謎が生まれる。
「じゃあさ、なんでわざわざ学園を襲撃するなんていうことをするのよ?」
「そこは私にもわかりません。その吸血鬼達が何をしたいかなんて、その辺の国王には知りえませんし」
「なるほどね。だいたい状況はわかった」
現在、学園襲撃を行った分の吸血鬼は全滅している。その上で何故学園襲撃を行ったのかを探りたかった私だが、アイリスに聞いても理由はわからなかった。更なる有識者を探そうにも、有識者が思い浮かばない。なら……。
「その吸血鬼達ってどこにいるか、わかったりしない?」
正体も目的もわかってないのに、居場所なんてわかるわけがないだろ。私もそう思った。が、その上で聞くのが私の流儀。
「実は私達、ずっとその謎の吸血鬼について探ってるんです」
「あ、そうなんだ」
アイリスは立ち上がって私の方を改めて見ると、手を伸ばせば当たるくらいの距離まで近づいてくる。
「なので、探すのを手伝ってくれませんか?」
「え、全然いいよ」
何を探すのかわからなかったが、とりあえず謎の吸血鬼達についてわかることがあるのだろうと理解し、二つ返事で了承した。
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時刻は22時を回った。辺りはすっかり暗くなり、窓から漏れ出した部屋を照らす光が街を薄く照らす。シンボルとなっていた黄昏の巨塔は闇に包まれて黒い影を作り、街を覆い尽くす支配者と姿を変えていた。
私とアイリスは暗くなった黄昏の巨塔から出ると、颯爽とブルームを駆け巡る。究極火力の探知魔法を使い、広範囲を抑えながら怪しいところがないか確認していく。
「とりあえずブルーム内は捜索し終えたけど……」
「怪しい様子はなさそうですね」
流石は女王のお膝元、灯台下暗しとはいかない。ということは、ブルーム外ということだろう。
「……というか、吸血鬼っていう理由だけでサングィスを睨んでるけど、別にサングィス外に拠点があってもおかしくはないよね」
「いや、恐らくそれはないです」
「なんで?」
「リーレさんが言っていた謎の吸血鬼達は、私達が観測している暴動にも関与しています。暴動は基本的にサングィス内で行われてますので」
「基本的って、具体的には何割くらい?」
「まあ……、ざっと7割と言ったところです」
「結構サングィス外の暴動もあるのね」
「ですが、そういう暴動もほとんどはサングィスの国境付近で行われています」
「うーん……。国境を問わずに暴動を起こしてるってことは、あえてサングィスを狙ってるっていう考えもできるけど……」
「私の考えですが、リーレさんの考えているほど謎の吸血鬼達の計画性は高くないと思います」
「それはまたなんでよ」
「だいたい、国を落とすために行われる暴動というものなら、基本的に各地で同時に暴動を起こします。しかも時間を統一せず、不規則に行います。精神の疲弊を目的にするということですね」
アイリスはブルーム内にある森に入った瞬間、足を止めて探知魔法の範囲を拡大する。
「今から詳しく、私達が掴んでいる情報を共有します」
「よろしく」
すると、アイリスはサングィスの地図を雑にだが地面に描き始める。
「ここがブルームです。そしてこれが黄昏の巨塔です」
「じゃあ、私達の今いるのはこの辺?」
「そういうことですね。位置情報を使って、吸血鬼達が暴動を起こした順番を記していきます」
アイリスはサングィスと隣国の国境付近に丸をつける。
「ここから暴動は始まりました。だいたい半年前です。ですがこの暴動は小さく、すぐに軍が制圧しました。私はこの時点では大した問題ではないと考え、放置していました。現地軍に任せていたという形ですね」
「その直後、近郊にあるガロンで大規模な暴動が起こりました。レジスタンスや軍が協力することで表面上は解決したのですが、未だ根本的な解決には至っていないです。未解決事件ですね」
「そこからブルームに向かって一直線上に暴動を起こし、ブルームを囲むように時計回りで動き、その円上にある街で暴動を起こしているという形になっています」
最初に丸をつけた場所からブルームに向かって直線的に線を描くアイリス。それを見て私は何となく理解する。
「ブルーム周辺に拠点がひとつもないってことは、暴動は起こしたけど大した規模にならなかったってこと?」
「そういうことですね。暴動が起こった瞬間に軍が動いていますから。何せ、王都の周りですよ?」
「そりゃ軍が多いわけだ」
「私達は今から、この線上を伝ってガロンに向かいます。この動きで吸血鬼たちが動いたと考えるのが、1番自然だと思うんです」
「確かにね。じゃあ、その予定に従って動こう」




