3人目 私というこの世界における重要性
ゼフュロス。ギリシャ神話に登場する風を司る神であり、神話上ではエオスの息子の1人として、優しい性格の持ち主である。この世界では兄弟であるエウロス、ノトス、ボレアスの3人を任意の上で取り込み、1人の完全な神として存在している。生命界での見た目は180cm前半の黒髪センター分け、黒目、黒ワイシャツに黒スーツを着ている。ネクタイまでも黒であり完全に怪しい人物である。神界では髪色が緑色に変化する。こう見えて割と面倒見の良い性格であり、リーレ初め、たくさんの神からの信頼を得ている。
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ゼフュロスは自身の目の前に紺色の縦長の長方形みたいなものを出した。長方形は地面と垂直になっており、長方形の中に紺色より少し濃い色で渦巻きを形成していた。渦巻きのイメージで言えば鳴門海峡の渦巻きだ。ゼフュロスはそれをゲートと呼び、そこを通れば神界に行けるのだとか。明らかに禍々しいオーラを纏っているのだが、ゼフュロスはそれを当たり前のように通っていく。通るのにはちゃんと抵抗はある。人間が通ったらなんか変なのつきそうだし。なんか不安だからゲートの向こう側にいるゼフュロスに聞いてみるか。……声聞こえるのか知らないけど。
「これって何もつかない?」
「なんだと思ってんだよ。早く来い」
ゼフュロスは少し呆れ気味に私にツッコむ。呆れ気味に言ったってことは、多分何もつかないってことだろう。過去に人間がこれを通ったことがあるのか、ってところから気になるんだけど……。まあ、通らなければ万能の力は手に入らない。物は試し、とりあえず通ってみましょ。
「おおぉ。これが神界か……」
思ったよりかは感動がなかった。マジで天国みたいな雰囲気が醸し出されている場所で、空は黄金、地面は雲のような柔らかい白の謎物質。周りには天使がいっぱいいる。その天使はみんな女であり、男の姿は全くない。ギリシャ神話では天使はほとんど男だったはずなんだけど、なんで天使は女だらけなんだろうか。……ゼフュロスに聞いてみるか。
「ねぇゼフュロス」
「どうした」
すぐに返事するゼフュロス。暇なのかな?
「なんで天使って女しかいないの?」
「天使族は女だけで生きることができる種族だからな」
私はよくわからなかった。「女だけで生きることができる」という言葉が、どうにも私の思考の邪魔をする。だから、ゼフュロスに要約してもらった。
「……と、いいますと?」
「人間は男と女で子供を作るだろ? その男の役割を女が担える。だから、男をわざわざ産む必要がないってことだ」
なるほど。めちゃくちゃ簡単に説明してくれたわ。けどさ、男をわざわざ産む必要がないってことは、一応男も産もうと思ったらできるわけだ。性別が女しかないって言うならこれはない話だけど、そんなことをゼフュロスは言っていない。確認はしてもいいでしょ。
「男を産もうと思ったらさ、一応産めるの?」
「ああ、可能だ。だが、頻度は100万年に1人産まれるか産まれないかのめちゃくちゃ低確率だぞ」
「なるほど。実質女だけの種族ってことね」
納得。
しばらく歩くと、神殿のような場所に着いた。雰囲気で言うとギリシャのパルテノン神殿のような、そんな大きな正面玄関が姿を現している。建物は全て白大理石で形成されており、名前はパルテノン。そのままじゃねぇか。
パルテノンの中に入ると、大きな広場があった。正面を見ると果てしなく上へ続く階段、左を見ると神が暮らす生活スペース、右を見ると廊下の先に大きな焦げ茶色の扉がある。ゼフュロスは迷わず右に進み、私もそれに着いていく。
「着いたぞ」
扉を豪快に開け、神からの注目を一斉に浴びるゼフュロスと私。どっちかというと私の方に大量の視線が向けられている気がする。なんなんだこれ。
「これは神謀りっていう、神が今後の世界の運営について話し合う場だ。お前のいたところで言う国会だ」
「なるほど」
ゼフュロスはゼフュロスの指定されている席に向かい、私は天使に連れられて、衆議院議場で言う演壇みたいな所に立たされようとしている。その天使は薄紫色のセミロングヘアーで碧眼、白のセーターに黒の軽い上着を着て、黒のズボンを履いているクールっぽい見た目をしている。
「君、名前は?」
私は一緒に歩いている天使にそう聞く。すると、天使の子は律儀に答えてくれる。
「サラカエルです。何の用でしょうか、リーレ・スターベン様」
「いや、名前聞きたかっただけ。ちゃんと覚えておくよ」
「ありがとうございます」
サラカエルは感謝の言葉と共に微笑んでくれた。……私の心には響かないが。
私が演壇のような場所に立つと、サラカエルは私から少し離れた場所で静観する。神達は私を見てコソコソと話をしている。コソコソ喋ってる人数がめちゃくちゃ多いからザワザワしてるけど、一つ一つの会話がちっちゃいから聞き取りづらい。
突如、カーンと大きな音が鳴った。それと共にザワザワしていた雰囲気は全て消え失せ、一気に静寂が訪れた。
「今回君達に来てもらった用件だが、既に知っているだろうが、「リーレ・スターベンを神格者にするに至って」という話をすることだ」
私から見て右端で司会のようなことをしている男が、場を仕切りだした。恐らく、このような神謀りでの司会をずっとしてきたのだろう。そしてこれからもするのだろう。そして、この神謀り。神が全員集まっていると考えていいだろう。ということは、全ての神が集まって私のこれからを決めるってことだ。……私すごくね?
「クロノスが答える。ゼウスが神謀り開くなんて珍しいし、それほどこの先の世界にとってリーレ・スターベンは重要なんだろ?」
灰色のサラサラロングヘアーの黄緑色の瞳をした、パーカーを着た男がそう答える。名前はクロノスであり、時を操るのだろう……。強すぎでしょ。あと、父親だから当たり前にタメ口なのか……。
「ああ。この者がいなければ多分、世界を再試行させなければならないだろう」
どうやら、今回の神謀りは右端で場を仕切っている白髪短髪白髭モリモリおっちゃんのゼウスが開いたらしい。ゼフュロスはパシリ的な役割なんだろう。……可哀想すぎて腹の底から笑いたい。
「ポセイドンが答える。ゼウス、改めて聞く。神術は誰の神術を授けるつもりだ?」
青髪短髪の髭なしおっちゃんが白髪短髪白髭モリモリおっちゃんにタメ口で聞いた。神話の通りなら、ポセイドンはゼウスの兄貴で、三兄弟の中で次男。三男のゼウスがいるってことは、長男のハデスもいるはずなんだけど……。まあいいや。
「リーレ・スターベンの望む限りだ」
ゼウスの一言に、ザワザワしだした。確か、神術は神の能力で発動の制限がない。簡単に言えば魔法の上位互換。それを私の望む限り無限に貰える……。改めて考えてもやばいこと言ってるわこのジジイ。それにゼフュロスに聞いた感じだと、神界に自由に訪れることができる特権と、神格者になることができる。多分、ゼフュロスの言ってた神の使者は神格者にしかなれない、この世界における特権職業みたいなものなんだろうけど……。そんなバカみたいな特権を望む限り与えるとかなったらザワザワするのも納得だな。
私はポセイドンの顔を見る。ポセイドンは「マジかよあいつ……」と言わんばかりの顔をして、話し合いに参加するのを諦めた。後は任せる……。
「異論はないか?」
ゼウスが他の神達に問いかける。神達は黙りこんだまま30秒経ったため、ゼウスは異論がないとみなした。
「異論がないってことで、とりあえずここは私の神術を授ける」
「とりあえずって……」
私は自分の思ったことを口に出した。そんな特権中の特権、持ってるだけで普通の人より圧倒的なアドバンテージを得るものをとりあえず扱いで授けるものなのか?
「そんなに神術って軽いものなの?」
「オーディンが答える。神術ってもんはそんなに軽いもんじゃねぇ。そのジジイの扱いがおかしいだけだ。それに、神格者を決める時は毎回こうやって神を全員集めねぇといけねぇから、こっちにも負担がくる。要するに、そのジジイ以外は結構重要な会議だと思ってんだよ」
「ゼフュロスが答える。それに、ここにいる神は優に1000を超える。その半分超過が賛成しない限り、神術を与えることができない」
(セリフ取られた……)
オーディンの心情は私に伝わるわけもなく、話は進んでいく。
「じゃあもっとダメでしょ。とりあえずとか軽視しちゃ」
「いいんだよ。俺はこの世界を統べる主神だからな」
神様のトップがこれでいいのか。
「それに、お前は我々ですら頭を悩ます事象を遂行する『神の使者』だ。そのくらいは必要だろう」
「なるほどね……」
我々ですら頭を悩ます事象……。生命界や地底界、地獄に直接関与することができない神だから、そこに住む者を殺したり、害を成す組織に介入しての妨害行動ができないってことか。神の使者ねぇ……。自分に言うことじゃないけど、不憫だな。
……待てよ? 私以外に神の使者はいないの? もしくは私みたいに異世界から連れてくるとかして神の使者を増やせないの? 聞いてみるか。
「ひとついい?」
「なんだ」
ゼウスが反応した。まあ、仕切ってるんだから当たり前か。
「神の使者って現状いないの?」
「ゼフュロスが答える。現状いない」
「ヘファイストスが答える。確か500万年ほど前に10年だけ神の使者をしてもらった奴が最後だったはずだ。その間に人創暦の生命界、地底界は秩序が乱れたということだ」
黒色のTシャツを着て、そのTシャツから見えるほどの筋肉量があり、つなぎ服を腰部分までしか着ていない、黒目茶髪の顎髭が特徴のヘファイストスは、腕を組みながらそう答える。
「オーディンが答える。混沌としたこの星を救うために、わざわざ時間を超えてお前に転生権を与えて転生させたってことだ」
「なるほど。つまりは私にもう1回「大量殺人犯になれ」って言ってるわけだ」
私は自信満々に口角を上げながら答える。至って普通(主観)の視線をゼウスに向けて確認する。すると、ゼウスは少し危機感を感じたように私から目を逸らし、神達の方を向いて言う。
「そういうことだ」
途端に嬉しくなってきた。この世界に来てから倫理観とかあんまりわからなかったからさ、どこからが殺しや傷害の範囲でどこからが範囲外なのかわからなかったんだよ。けど、これから神から与えられた依頼に関わる殺しは神に認められた殺しだから、何の罪にも問われないってことだ。あれ……?
「何それ……、最高じゃん……」
本音が口から漏れ出した。まあ、今更漏れ出すところでなんの問題もないからいいんだけど、戻ったらちゃんと気をつけないとな……。
「では、神術を授ける」
ゼウスは右手から謎の発行物質を出す。それには実体があるようには見えなく、恐らく元いた世界にはない魔力の類。この場合は神術の元となるものなのだろう。それを私の体内へと移動させて入れる。特に体に異常はなく、手を握ったりしたり体の色々な部分を触ったりするが全く変わりない、成長初期段階の2歳児のままである。
「それと、ゼフュロスから初依頼の件は聞いているな?」
「ああ、聞いてるよ。私の家族全員殺すんでしょ?」
「そうだ。別に殺すだけだからそれまでに何をしてくれても構わない。何故殺すのか探るのも、我らに聞くのも良い。ただし、3年以内には確実に殺せ」
「3年もかかんないよ。諸々調べたりするのでも3ヶ月だけでいい」
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あの後、かなり多くの神から神術を授けられた。応対するのにも結構時間かかったから褒めてほしい。といっても全部紹介するのは大変だし、私がよく使いそうな神術を紹介することにする。
まず最初に授けられたゼウスの神術。ゼウスの神術は簡潔に説明すると、なんでもあり。ゼウスは全知全能の神と知られており、恐らくそれをそのまま神術として私に授けたのだろう。この神術に「全知全能」と名付けた。そのまんま。
次に、初めて会った神であるゼフュロスの神術。ゼフュロスの神術は風を自由自在に操る神術であり、竜巻を起こしたり上空の天気を変更することができたりもできる。強風を起こして人や物を移動させたりも、応用次第では化ける神術。更に、この神術には気になった噂を聞き取り、本当か嘘か正確に読み取ることができる。人間関係を築く時においては非常に重要な要素であろう。この神術に「神の風」と名付けた。あいつこんな能力ありながらあの性格なのか……。いいやつだわ。
次に、ゼウスの兄貴であるポセイドンの神術。ポセイドンの神術は水の操作、水中呼吸、地震の制御と海に関するあらゆるものを操作することができる。この神術に「海王」と名付けた。地震を起こすことはなさそうだけど、水中呼吸はめちゃくちゃありがたい。
次に、ハデス(まだ会ってない)、ポセイドン、ゼウスの父親であるクロノスの神術。私の中で、この神術を授けられた時は驚いたのだが、時間神クロノスと農耕の神であるクロノスが同一神だとされていたのだ。まあ、そんなことはさておき、クロノスの神術は時を操る神術。過去、未来の移動が可能とする、マジで1番最強の神術。この神術に「時間操作」と名付けた。ネーミングセンス無いや私。
次に、ちょいちょい茶々入れてきたオーディンの神術。戦の神らしく身体能力上昇だけ。マジで身体能力をめちゃくちゃ上げるだけの神術のため、名前は付けないとオーディンの目の前で言った。すると、オーディンが「つけろやァ!!」と怒鳴ってきたため、仕方なく「ドラゴン程度は怖くない」と名付けた。
最後に1番イケてるおっちゃん神のヘファイストスの神術。ヘファイストスと言えば鍛冶の神。神術も武器、防具生成と、鍛冶に関連する神術だった。それも宝具級の武器、防具を一瞬で生成できる、まさに最強に相応しい神術である。この神術に「武具の原点」と名付けた。
このように、かなり多くの神術を得ることができた私は、時間が一切経っていない状態の森に帰ってきていた。
「どういう魔法だよ……」
そう思いながら、一旦バレないように家へ帰ることにした。




