29人目 全国統一最強決定戦
サングィス。吸血鬼アイリス・ブラッドレストが統べる国であり、難民を多く受け入れる数少ない国である。難民を多く受け入れる代わり、難民達から少量の血を摂取することで、吸血鬼は強さを維持することができている。首都はブルームで、中央には黄昏の巨塔が聳え立っており、国のランドマークとなっている。
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時間になり、続々と参加者は闘技場に入っていく。かくいう私もその1人だが。全員が入ったことを運営が確認すると、観覧の者に案内が入る。恐らく、展開魔法の拡声魔法だろう。もしくは風属性魔法を使ってるか。
「さあ始まりました! 『アイリス・ブラッドレスト主催 全国統一最強決定戦』が!」
その言葉で、闘技場中のボルテージが上がる。そういやこれ、アイリスが主催してるのね。そりゃ見に来るわけだわ。
その後は受付で聞いたような説明を、ところどころ端折ったりして分かりやすく説明していた。すると、早速第1プロセスが始まるようだ。
「第1プロセス、最後のひとりになるまで生き残れ! 『サバイバルバトルロワイヤル』!」
私は最後の16グループに入れられた。既に1グループが終了しており、今観客席から2グループの戦闘を見ている。そこでは約500名の参加者が殺し合いをしており、最後のひとりになるまで本当に殺し合っている。外から見れば、結構地味な光景だなと思う。私が想像してたのは、もっと魔法がバンバン飛び交う荒れた内容だったんだけど、実際は1対1を徹底した白兵戦。500人が同じ空間にいるだけで、本質的にひ1対1と何も変わらないため、「500人集めるだけ無駄なのでは?」と思ってしまう。せめて12人多かったら楽だったのに。
そんなこんなで進んでいくと、最終グループの召集がかけられた。私は控え室に行くと、そこには屈強な見た目をした男が大量にいた。こんなむさ苦しい部屋で待ち、その上で戦うのかと思うと、少し気が滅入る。
「そこの餓鬼、よくこの大会に出ようと思ったな」
男のひとりが話しかけてくる。目線をかなり上にあげないと顔が見えず、首が痛くなる。こう見えても私、160cmくらいあるんだけど。そこまで小さいわけじゃないんだけど。
「まあ、アイリスに用があるから」
「なるほどな。だが、俺にも叶えてもらい願いがある。そう簡単に負けるわけにはいかねぇよ」
男はガチガチの装備を身に纏いながら、とても自信満々に答える。そんなガチガチに装備をつけるのか? と思って周りを見渡すと、周りの男達の姿も鋼鉄の鎧へ姿を変えている。……そういうものなの?
「あんたは装備をつけないのか? 今は自前の装備をつける時間だぞ?」
「あー、……持ってきてない」
「持ってきてねぇのか? 舐められたもんだな」
「急遽だったからね。仕方ないと言えば仕方ない」
「仕方ないって、自分で言うのか?」
「言わないと、自分を納得させられないでしょ?」
すると、大会運営者から「会場に向かってくれ」との司令が入る。男達はぞろぞろと会場への一本道を進んで行く。その中には、もちろん私も。
闘技場内は要塞のように入り組んだ構造になっており、どこを進んでいるのかは居場所を完璧に把握できる者でない限りわからない。もちろん、先導者は全ての道順を理解している。
メインステージに立つ前に、肉体の最終状況のチェックを受ける。これは、メインステージの結界内で死亡した時に、ここでチェックした状態の肉体に魂移植を行って、肉体を失った魂を新しい肉体へ移す。ということを行うためだろう。私も最終状況のチェックを受け、何も問題になることはなかった。
全員がチェックを終え、やっとメインステージに姿を表す。その瞬間、歓声と怒号が浴びせられる。周りを見渡すと、そこには大量の観客。どうやら、そこから降り注いでいるらしい。
「最終Dグループ、ファイト!」
掛け声が鳴ると、男達は目付きを変えた。最初から狙いを研ぎ澄ませていたのか、近くにいる者に血眼を変えて攻撃を始める。大勢に狙われた者が次々と脱落し、周りの動きに合わせながら攻撃している者だけが残っていく。私もまた、そのうちの1人だ。
さっき話しかけてきた男が容赦なく私の元に攻撃を仕掛けに来る。男は私を舐めてるようだ。
「ここで脱落してくれ」
「えぇ……」
私は魔法の使用が禁止されている。そのため、この結界内の敵を瞬時に切り刻むことはできない。ならどうすればいいのか。答えは意外と単純だった。
「めんどくさっ……」
私は神の風を発動し、結界内に存在しないはずの風を生み出す。最初は弱い風だが、徐々に勢いを増していく。白い髪が靡き始めた頃、私は武具の原点を発動し、ただでさえ小さいのに、もっと小さなダガーを大量に生み出す。風に乗せれるほど小さく軽いダガーは、結界内にいる敵に牙を向き始めた。
「何が起こった……!?」
鎧にカンと、軽い音が鳴ったかと思えば、その時にできた小さな傷を大量のダガーが襲い、鎧を貫通する。心臓を貫いたダガーは完全に鎧を貫き、勢いを落とさず次の目標へ飛ぶ。まあ、そうなるように私が風を操ってるんだけど。
たった5秒間で、30人が脱落した。次は目の前にいる男だ。
「お前か!?」
「何が?」
「とぼけれるレベルじゃねぇだろ……。お前以外全員動揺してんだよ」
「あー、そう。……で?」
男は私に剣を振り下ろす。大きく、豪快に。だが、それが意味を成さないようになるまで、そう時間はかからなかった。右腕の神経を貫き、剣を持てなくする。その上で両足を同時に貫き、立てなくする。その上で心臓を貫き、完全に殺す。
「次回、リベンジしようか」
もう聞こえるはずのない死体に、私は語る。
そんなこんなで3分程で私以外の全員が死亡し、Dグループ生存者が決まった。
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第2プロセスはトーナメント。AからPグループの優勝者16名によるトーナメント戦だ。私はDグループ優勝者だから……、第2回戦でCブロック優勝者と当たるのか。
「あんたか? Dブロックの優勝者は」
「そうだね。そういうあんたは?」
「俺はCブロックの優勝者。あんたと次戦う男だ」
屈強な男が話しかけてくる。両手で持ち上げるような大剣を片手で軽々と持っており、筋肉量が窺える。体躯も2mは優に超えており、私を赤子のように見下ろす。
男は私を見て、少し口角を上げる。舐められたな、これ。こいつの予想を超える強さで、捻り潰してやる。
「せいぜい逃げるなよ?」
「第1プロセスを優勝した人がそんなことすると思う?」
「強いものを見つけたら、誰だって逃げ出したくなるものだ」
「それ、結構痛いよ」
第1回戦が終わり、第2回戦が始まる。私の相手はさっきの見下してきたクソ男。ボコボコにしてやろうじゃねぇか。ええ?
「逃げなかったか」
「逃げるも何も、あんた弱いし」
試合開始のゴング(※爆発系魔法)が鳴る。男は前傾姿勢になり突進しようとするが、全知全能を使って地形を操作し、踏み込む足元を乱した。体重移動を開始していたため体制を一瞬崩すが、すぐに元の体制に戻る男だったが、私はその間に男の目の前に移動していた。
「デカいからさ、殴りやすいよね」
ドラゴン程度は怖くないを使って体を強化した上で思いっきり鳩尾を殴ると、鎧を破壊してその上で肉体に拳が届く。肉体に届いた時のインパクトは強烈なもので、男は結界の内壁に思いっきり叩きつけられる。
男は立ち上がると、目の前に白い女がいる。さっきまでは小さな弱そうな女だと思っていたのに、いつの間にかその小さな存在は「悪魔」のような存在に形を変えていた。私にとってそれがどのような意味を表すのかはわからないが、男は戦おうとする。
「的デカいんだもん。そりゃ攻撃するでしょ」
「……は?」
私は武具の原点で複数生成していた大剣を全て上空から落とし、地面に磔になるように男に刺す。
「じゃ、死のっか」
「え、ちょ待……」
男が言い終わる前に剣で体を切り刻み、為す術もなく殺した。
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準々決勝、準決勝と、まともな敵がいなかった。1回戦と同じ手法で楽々と突破し、飽きかけていた頃に決勝の時間が訪れた。これが終わればやっと会えるのかと、少し安堵する自分がいる。最後くらい、接戦を演じてみようかな。
試合開始のゴングが鳴る。敵はまーた屈強そうな男。ここまで残るということは、それほどに強い相手なのだろう。
「じゃ、戦うか……」
男は武装をあまりせず、最低限の装備に留めている。機動力重視なのだろうか。なら、その方がやりやすい。
男は剣を持って私に向かって一直線に走る。私も武具の原点を使って同じように走る。間合いに入った瞬間、男は思いっきり剣を振り下ろし、私の頭をかち割ろうとする。それを防ぐように大きく踏み込み、剣を振り上げて勢いを打ち消す。踏み込んだ足を利用してそのまま前へ走り抜け、男の股をすり抜ける。すり抜けた直後に素早く方向転換し、大きく振りかぶって背中を切り裂くように振り下ろす。男はそれに対応し、振り返りながら剣を横に振って相殺する。
「やるな」
何処からの目線なのかよくわからないけど、男は私を相当力のある相手だと思っているらしい。
「へ、へぇー……」
ノリに合わせることができない私だった。
何度も剣を振り、攻撃をしては防ぐの繰り返しが続いた。男は一振一振に全力を注いでいるため、体力が目に見えて減っているのがわかる。徐々に剣を振る速度が遅くなっているのがわかる。まあ、わかるよ。5分もそんなことしてたら疲れるわ。
私は思いっきり剣を振り上げ、男が強く握る剣を吹き飛ばす。男の手から剣が離れ、最早攻撃する手段がない。諦めるか? が、そんな甘くはなかった。男は拳に素早く切り替え、私に殴りかかる。そこまで来れば、私の勝ちだ。迫り来る左腕を肩ごと切り飛ばし、一気に四肢を飛ばす。
「じゃ」
頭に剣を突き刺し、男は絶命する。完全に死んだわけではないけど、この表現が1番正しいでしょう。
「優勝者は、ウツロ・シラカミ!!」
歓声が闘技場に響き渡る。まあ、これだけの歓声を貰ってるんだから、アイリスも歓声くらい送ってるんでしょうね……。ってえげつないくらい死んだ魚を見るような目をしてる。「なんでいるの?」って言ってるわあれ。
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大会が終わり、アイリスと会える時間が来た。アイリスはずっと目にハイライトがなく、蔑むような目をする。
「……私なんかした?」
「ここにいるのが悪いですよ。だって、あなたが出たらバランスが崩壊するじゃないですか」
「それはごめん。けど、アイリスに用があったの」
「私に用ですか? ……それも今日でなければならない?」
「そう。できれば今日でなければならない」
「なるほど……、わかりました。何ですか?」
「まあ、こんなみんなに見られてる場所じゃめんどくさいから、場所を移そう」
「では、私の見てた来賓席に行きましょう。そこなら誰も来る心配はありません」
「じゃあそこに行こう」




