28人目 食い込み
黄昏の巨塔。サングィス中央都市ブルートに存在する女王の居城兼ホテル兼ランドマーク。高さは1859.61mと周りの山をも見下ろす高さで、国全体を見下ろす見張り塔の役割も果たす。
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インフォメーションセンターの子の言う通り、黄昏の巨塔から出るのと同時に神術を使って瞬間移動を行い、ノースタリッドの闘技場前にある広場に移動した。正確に言えば、その近くの路地裏だが。
路地裏にはナイフや剣、盾や宝具などの破片が転がっている。破片には必ず血がついており、常に紛争が起きている地域であることを確認させられる。
「……で、あっちは大盛況と」
暗く閉じる路地裏の先を見つめていた私は、光が差し込む方へ振り向く。そこには勇ましい見た目をした屈強な男達が姿を現しており、手にする如何にも強そうな武器を見ると今にでも戦おうとしそうだ。あの中に私入るの?
路地裏からゆっくりと体を出すと、差し込む光は私の体を強く刺激する。
「あの女子も参加するのか?」
「さぁな」
「しても殺せる自信しかねぇがな」
私の方を見て、完全に舐め腐った意見を飛ばしてくる。転生前の私なら容赦なく殺してたよ?
「おい待てお前。……ガキ! 待て!」
明らかに私に向けて言う男は、無理矢理私の肩を掴んで動きを止める。流石にこれを巻こうにも騒ぎを起こしかねないだけだし、何せ今は学園生徒の立場も持ってる。変に無視し続けたら面倒だな……。
「ガキて……」
おっと口が滑った。
「はい?」
「お前、闘技場に出場するのか?」
「……はい?」
男はあの、その……、阿呆という人種なのかもしれない。誰がこんな華奢な見た目をした美女が参加すると思うか。それに今日、私は大会に参加する気でここに訪れたのではない。アイリスに会いに来ただけ。アイリスに会えたら用件聞いてとっとと帰るだけだし。もし、彼女が女王としての立場で見ているのだとすれば、少々厄介だが。……もしかすると、その「もし」なのでは? アイリスならやりかねん。そういう性格だ。
「あー、うん。そう」
「そうか。ブロックが同じなら、戦えることを楽しみにしている」
ブロックねぇ……。……そんな出るの?
「それってさ、どこで参加手続きするの?」
「は? まだ参加手続きしてないのか?」
「うん」
男は焦ったように受付を指さす。
「あと5分で受付が終了する! あそこにあるから急げ!」
「マジかよ……っ!!」
あの男には少し、感謝しよう。
受付の元に走り、参加手続きを始める。
「闘技場で行われる大会に参加したいんですけど」
「わかりました。では……」
すると、受付の子はカウンターの下から2枚の書類を出し、私が読みやすいように向きを変えてカウンターの上に置く。見たところ、『誓約書』と『参加於掟』と書かれた書類であった。
「太字の通り、誓約書が書かれた書類と、参加するにあたっていくつかのルールがありますので、目を必ず通してください」
言われるがまま、誓約書に書かれている内容を読んでいく。要約すると、誓約書には『命がなくなる体験を行うことになるが、大丈夫か』『魔法システムの不具合によって命を失う可能性があるが、構わないか』『武具の破壊については一切の責任は取らないが、それで良いのか』『参加前に抱えている傷は、システムによる修復後でも引き継がれるが、保証するか』ということだった。そして、この大会のルールにも目を通す。『第1プロセス、16のグループに分かれ、それぞれ1人になるまで殺し合ってもらう』『第2プロセス、16人の生存者によってトーナメント戦が行われ、どちらかが死ぬまで戦ってもらう。降参は負けと認めない』『第3プロセス、優勝者にはサングィス女王のアイリス・ブラッドレストによる願いを叶えてもらう権利を得る。が、アイリスの尊厳を損なう願いは叶えられない』というものだった。まあ、ありふれたルールだろう。
この大会というか、闘技場には、学園にあるコロシアムと同じように、展開魔法の一種である『修復魔法』『魂移植』が使われている。修復魔法によって、事前に記憶された身体情報に死体から戻し、身体と魂の完全分離までの5秒間の間に魂移植を行うことで、死ぬことなく復活するということだろう。魂移植のことをよく知っていないとできない仕組みであろう。
誓約書に名前を書こうとする。……が、わざわざ本名を使うべきなのか? 本名を使うには、この闘技場ではリスクがありすぎる気がする。何せ、全く知らない者が私の本名を知るわけだし、学園にいるということがバレたら私の身に何が起こるかわからない。個人情報は秘匿するべきだし、とりあえず聞いてみるか。
「これって、偽名を使うのってありなの?」
「はい。認められていますよ」
「あ、そうなの」
偽名を使っていいみたいだけど、これといった偽名を全く考えていなかった。流れで大会に参加することになったわけだし、おかしくはないと思う。でも、考えていないものは考えていない。……前世の名前で行くか。私の前世を知る者なんて、神達しかいないわけだし。
「『ウツロ・シラカミ』でよろしいですね?」
「うん。それで」
ウツロ・シラカミ。まあ、白神 虚というわけだ。マジでそのまんまだけど、その辺は適当でも問題ない。
「それで、リーレ・スターベン様」
なんで知ってんだよ。
「あなたは魔法の使用が禁止されています」
「……なんでぇ?」
|アイリス・ブラッドレスト《あのバカ女》、絶対1枚噛んでるわ。
「アイリス様の側近ですので、色々事情は聞いております。あなたが来ることも、アイリス様は予見されていました」
「まんまと釣られたってことね」
「そういうことですね」
「まあ、このまま釣られてあげようじゃないの」
「あと、アイリス様から伝言を預かっています」
「伝言?」
「はい」
受付の子は、アイリスからの伝言を言う。
「『たまには、一般人の強さというものを確認した方がいいよ。あなたの基準は色々おかしいから』とのことです」
「……あんたが言うかよって返しといて」
「承知しました」
……さて、今から殺し合いするのかぁ。擬似的だけど、めんどくさいという点は変わらないね。




