27GF 吸血鬼
『光と闇が交差する時、世界は輝きを取り戻す。』とは、ヘカテーがエアス・ハイジュに渡したNo,57の固有魔法である。発動時の詠唱は魔法名と同じく『光と闇が交差する時、世界は輝きを取り戻す。』である。アゾットと呼ばれる魔法物質を自由に展開し、操作する能力である。この固有魔法を持つ者は、必ず光属性と闇属性を持つ。逆を返せば、光属性と闇属性を持たない者は、その時点でこの固有魔法の所有権を無くす。
アゾットとは、光属性と闇属性の魔力に反応することで本来の性質を発現させる魔法物質であり、光属性を反応させた場合はアゾットに反射の効果が現れ、闇属性を反応させた場合はアゾットに消滅の効果が現れる。そして、ひとつのアゾットに両方の属性を反応させると、発動者と発動者が認めた者、物以外の全てを一定距離まで近づくと弾き飛ばすようになる。その際、実体は持たなくなる。
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「そういえばさ、さっき襲ってきてた奴らっていったいなんなの? なんか知らない?」
「さあ? 俺は吸血鬼ってことくらいしか知らん」
「なるほど……」
ハイジュの死とか色々あったけど、元々は学園にあいつら、サルバゼータが言うに吸血鬼が襲撃してきたところから始まったこの騒動。……吸血鬼自体、この世界には存在するし、襲撃する時の団体の名称として使うにはちょっとビッグネーム過ぎないかとは思う。何せ、アイリスの支配下の吸血鬼にあの系統の奴はいなかったはず。
顎に手を置いて考える私を、ハイジュはじーっと見ている。ただ、何も考えていない、指示を待つ犬のよう。が、今のハイジュには何がどうなっているのかよくわかっていない。何故なら、1度死んでいるから。まあ、よくわかっていないのはサルバゼータもだろうが。
「ちょっと、気になったことができた」
気になったこと。私の知る吸血鬼に事情を聞き、それを確かめる。何を? もちろん、今回の吸血鬼と何か関係があるかを知るためだ。そのために、私は行く。
「サングィスに行ってくる」
「サングィス……!?」
唐突に聞こえたサングィスという言葉に、ハイジュは驚きの表情を見せる。たかが別の国に行くことくらいで何故そこまで驚いた表情を見せるのか、昔の私であれば夜も眠れないくらい疑問に思っただろう。だが、今はわかる。この世界、一国一国の範囲がデカすぎる。というか、魔界がデカすぎる。ミレアスの面積は東京23区とほぼ同じ面積なのだが、アグロスの国土が地球1個分ほどある。つまり、5.1億平方キロメートルあることになる。ちなみに、ここミレアスからサングィスに行こうとなると、およそ10万kmほどある。ちなみに地球一周は4万kmである。
サングィスは隣国ロステラス、カヤラムを経由しなければならない、検問を最低2つも通らないといけない、アグロスから行くのがとても面倒くさい国だ。ハイジュはそういう意味でも驚いているのだろうが、結局は距離だ。
「サングィスに行くのか? 今からか?」
「うん。今から」
「……今からか!?」
「うん。今から」
「この学園の授業はないのか?」
「ないでしょ、しばらく。……わかんないけど」
サルバゼータは私に色々聞くが、返答の一つ一つで思わずため息をつく。もちろん、サルバゼータもハイジュと同じ思考なのだろう。
「とりあえず、遠いぞ」
「知ってるよ? ありえないくらい遠いってことは」
「ここからだと暴風の龍を使って行っても1ヶ月はかかる。その距離をどうするつもりだ?」
「 暗雲貫くは、更なる黒なり。も距離制限あるでしょ?」
「あるね」
常識というものは、確かにこの世界独自だが存在する。地球にはなかった「龍に乗る」という移動方法や、「魔法」という移動手段がある。が、それも結局は限度がある。それは人に許された範囲での移動手段であり、神からの制限でもある。……でも、神による制限など、私に関係あるか。
「じゃ、行ってくる」
私は前方に魔法陣を展開し、回転させながら私の方へ移動させる。それと共に私も前へ歩き、魔法陣に吸い込まれるように瞬間移動する。……実際はなんの役も立たない魔法陣を作り、神術を使って瞬間移動しただけだが。まあ、騙されてくれたでしょ。……瞬間移動の魔法でも作ろうかな。
こうして一瞬でサングィスの首都、ブルートに着いた私の目の前にあるのは、ブルートの中央に聳え立つ巨大な塔「黄昏の巨塔」である。
「久しぶりだな……」
黄昏の巨塔には、この国の女王吸血鬼にして、私の友人(脅しで服従した吸血鬼)であるアイリスが居住している、城のようなものである。
周りを見渡すと、厚着をしている吸血鬼が日中の本、堂々と歩いている姿が見える。どうやら、厚着すると吸血鬼は太陽の光の影響を受けないらしい。そして、1年程血を摂取しなかったらまた、太陽の影響を受けない。その証なのか、軍人は軍服を着た上に日傘をさしているのに対し、一般人は白昼の本を堂々と闊歩している。
目の前にある黄昏の巨塔に入ると、洋風ホテルのような煌びやかなエントランスがあった。その奥には広大なロビー、インフォメーションセンターがある。宿泊業でもしてるのか、この塔は。とりあえず、インフォメーションセンターに行ってアイリスがどこなのか聞くことにした。
「いらっしゃいませ、リーレ様。今回はどのようなご要件で?」
なんでインフォメーションセンターの子が私の名前知ってるの? 教えたつもりはないけど……。
「え、どっかで会ったっけ?」
「いいえ、ございませんよ。ですが……」
え、何? その間怖すぎるんだけど……。
「この国の者なら、誰でも知っていると思います」
「あ……、そうなの?」
「はい」
昔、放浪していた時にたまたまアイリスに出会い、そのまま特訓という名の地獄を味合わせていた。1年間の特訓だったが、そのアイリスが今やタワーの第7席にいる。自分で特訓を続けていたのだろう。まあ、タワー第5席のゴーンの実力があれじゃね。……もう一度鍛え直そうかな。
「とりあえず、アイリスに会いに来たの」
「アイリス様ですか?」
「そう。そのアイリス様」
すると、インフォメーションセンターの子は面倒なことを言い出した。
「アイリス様は現在、ノースタリッドの闘技場で試合をご覧にならっしゃっています」
「……は? ノースタリッド?」
「はい。ノースタリッドの闘技場です」
ノースタリッド。ノースタリッド大陸に存在する唯一の国であり、ノースタリッド大陸全土を国土とする超巨大国家である。そんなノースタリッドには、1つの特徴がある。
「ノースタリッドかぁ……。あそこって今は安定してるけど、紛争多すぎるんだよなぁ……」
そう、紛争が多すぎることである。そして、その戦況は他国に知られることはない。ノースタリッドは地方同士の争いを黙認しているらしく、その争いを話を一切広げることはしないことを約束しているらしい。
「じゃあ、今から会うにはノースタリッドに移動しろってこと?」
「そういうことになりますね。恐らく、ここに泊まっていかれる方がいいと思います。暴風の龍でも最短距離を通っても4ヶ月はかかりますよ」
距離なんて関係ない。面倒になりそうなことには変わりないが、とりあえず状況の整理が先決だ。




