24人目 戦う覚悟
魔力を持つものであれば、必ず適正属性を持つ。適正属性を持たないものは存在せず、もし適正属性を持っていなければ、魔力を持たないか、或いは何かしらの異端が発生したと捉えられる。
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「気乗りがしない」「何故戦わなければならないのか」「戦う理由が一切ない」「目の前のこいつ/この人は誰だ」
2人は全く同じことを、全く同じテンションで、全く同じ間隔を空け、全く同じスピードで思う。実際、この2人が戦う理由は一切なく、なんなら協力した方がいいまである。共通の敵を持つ者は、必然的に仲間になると言う。まさにその通りだが、私はそんなこと一切気にしなかった。
気まずい。非常に気まずい。理由はひとつ、無駄に作ってしまったこの気持ち悪い静寂の空気。
「……あ、あの」
この気色悪い空気をなんとかしようと、ハイジュが口を開ける。
「あなたの名前はいったい……?」
「そうだな。何も言わなければ戦う気にすらならんか」
目の前の男は真意はわかった上で、私にバレないようにとあえて高圧的に反応する。
「カヤラム第6王女直属護衛団『陽炎』団長、ルベロド・サルバゼータだ」
カヤラム。その言葉を聞いた瞬間、ハイジュの琴線に触れた。
一瞬にして身体強化・中をかけて戦闘体制に入ったハイジュは、正面から思いっきり殴る。
(急になんだ……!?)
高速で迫る拳を、事前に自身にかけてあった身体強化・強を駆使し、左に体を逸らして避けたサルバゼータは、ハイジュに攻撃しようと詠唱を始める。
「闇より来たりし漆黒の無情の攻撃、我に……」
詠唱をし始めた瞬間、鋭く光る灰色の瞳が見えた。詠唱するより前に攻撃が来ると直感で理解したサルバゼータは、いつでも攻撃を回避できる体制へ移行する。
『闇から出る光、音と共に墜ちる。』
闇から出る光、音と共に墜ちる。は、光属性攻撃系極火力魔法であり、自身の手が届く範囲から全く音のしない光線を、込めた魔力の分だけ、その場で決めた弾道の通りに放つことができる魔法である。光線の数や光線の威力は込めた魔力の中で自分で調整することができる。
無詠唱で発せられたその魔法は、8本の光線が前方から進んでくる。目の前に来た瞬間に一気に拡散して、8方向からの同時攻撃へと変化する。
(速いな……)
サルバゼータは即座に8方向に防御盾を生成すると、一時的に光線を全て防ぐ。それと同時に後ろへ跳ぶと、防御盾を消して地面に光線を流す。
「何のつもりだ? いきなり本気の攻撃とは……」
「今、なんて言った……?」
サルバゼータの声を遮るように、ギリギリ聞こえるレベルの小さな声で、ハイジュは聞く。
「何か言ったか?」
声の詳細が聞こえなかったのか、サルバゼータはもう一度聞く。
「さっき、何と言ったと聞きました」
「さっきか? カヤラム第6王女直属護衛団『陽炎』団長、ルベロド・サルバゼータと言った」
「じゃあ、聞き間違いじゃなかった……」
ハイジュは目を閉じて1度、深呼吸をする。大きく息を吸い、大きく息を吐く。それと同時に身体中の魔力を練り上げ、身体強化・強を自身にかける。
「死ぬ準備はできた?」
「……殺されるようなことをした覚えはない」
「覚えがない……。カヤラムの王族と密接な癖にか?」
ルベロドの疑問は他所に、ハイジュは練り上げた魔力を素に、魔法を複数、同時に展開する。
『神が照らした希望』
『爆炎付与』
『神が閉ざした虚像』
神が照らした希望は、光属性攻撃系強火力魔法で、魔法陣から5本の鋭く破壊力のある薄黄色の高出力光線を放ち、対象物を的確に破壊する魔法である。
爆炎付与は、火属性付与系強火力魔法で、爆炎の如く燃え盛った炎を、対象に付与する魔法である。
神が閉ざした虚像は、闇属性光線系強火力魔法である。魔法陣から5本の鋭く破壊力のある紫色の高出力光線を放ち、対象物を的確に破壊する魔法である。
黄色の魔法陣と赤色の魔法陣が重なった状態の複合魔法陣と、紫色の魔法陣と赤色の魔法陣が重なった状態の複合魔法陣が大量に現れ、戦場を支配する。ハイジュはそれらを一気に発射すると、薄い黄色の炎を纏った光線と、濃い紫色の炎を纏った光線が大量に現れ、一気にサルバゼータを襲う。
「仕方ないか……」
「深淵の闇に閉ざされ、無の世界に魅入られる。暗黒の世界へと全てを招待しよう。そこは既に、光など届かない世界なのだから」
『深淵世界の処刑台』
自分しか入らないほどの大きさの深淵世界の処刑台を生成し、大量の光線を防ぐための防御結界として使用した。範囲が小さい分、標準時の時よりも圧倒的な硬度を誇る。
光線が当たる音が止む。一部分だけ開けて外の様子を見ると、魔法陣は既に消えていた。
(あの女がどこにいるかは分からないか……)
サルバゼータはそう思い、深淵世界の処刑台の解除の際、一瞬で膨張させ破裂させた。それと共にサルバゼータは詠唱を始めていた。
「桃源郷への扉は閉ざされたまま。であれば、そこに至るまでの虚空を駆けようではないか」
『虚空突破』
虚空突破は、闇属性移動系強火力魔法で、指定した場所へ虚空を経由してから移動する。虚空へ移動することで必ず姿は消えるが、痕跡は残るし移動音はするしで不便な一面もある。
魔法を発動する寸前にハイジュの場所を確認すると、虚空へ入り一瞬で背後に回る。
「後ろ……!?」
ハイジュは音を聞いて何とか気づくが、その時には既に虚空から現れており、長い足から繰り出される回し蹴りをもろに顔面に食らった。
地面に叩きつけられたハイジュは、強化した腕で地面を押し、体を浮かせる。それによって出来た空間で足を地面につけると、即座に足払いをしてサルバゼータを倒す。
『死の暗黒光線』
魔法陣を即座に生成したハイジュは、立ち上がる前に地面に倒れたサルバゼータの腹に片足を乗せ、魔法陣を右拳の先に付与する。
「カヤラムの王族に関わるものは、残さず殺す」
拳を振るった瞬間、サルバゼータが高速で詠唱を”再開”する。
「与え給え」
『闇の光線』
闇の光線とは、闇属性光線系通常火力魔法で、魔法陣から超強力な光線を1発放つ魔法である。
魔力を大量に込めた状態の闇の光線が迫った瞬間、ハイジュは咄嗟にサルバゼータ程込めていない死の暗黒光線を放つ。真正面からぶつかると、火力差が2つあるにせよ、かなり闇の光線が勢いを抑えていた。
「闇より来たりし漆黒の無情の攻撃、我に与え給え」
『闇の光線』
光線同士の衝撃の音の隙に、小さな声で詠唱していたサルバゼータは、ハイジュの顔面の目の前に魔法陣を生成し、光線を放つ。ハイジュは魔法陣が現れた瞬間にサルバゼータの上から逃げる。
(危ねぇ……)
サルバゼータは急いでその場から逃げると、死の暗黒光線が地面を大きく抉る。それを見て、サルバゼータは冷や汗をかく。
「……じゃ、本気出すか」
背中に携えてあった片手剣を抜くと、再び身体強化・強を自身にかける。すると、さっきとは段違いのスピードでハイジュに近づく。大した武装も持っていないハイジュに対して、容赦なく攻撃を仕掛ける。
サルバゼータはハイジュの目の前に簡単に立つと、生成された防御壁や防御盾をいとも簡単に切り裂き、左腕を斬り落とす。
「……っ!」
「次は右腕だな」
サルバゼータが痛みに悶えているハイジュの腹を思いっきり蹴り飛ばすと、それを追いかけて右腕を斬り落とす。その流れで両脚も同時に斬り落とす。
「……ぁぁっ!!」
「殺すのであれば、殺される覚悟もしなければならない」