2人目 神は平和を望む
魔力。それはこの世界に満ち溢れたひとつのエネルギー。地球上にある物質とはかけ離れた原子構造をしており、科学では説明不可な未知のエネルギー。その魔力はあらゆるものに宿っており、それを駆使してこの世界の生物は生きている。
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私がこの世界に生まれて2年が経った。赤子にとっての2年はかなり長い年数だったため、色々情報を入手することができた。まず、私の名前はリーレ・スターベン。私の生まれたスターベン家は、アグロス王国に属する私の父親であるクローズ・スターベン男爵の一家であり、どうやら神を殺す魔法の研究をしているらしい。どこに使うんだそれ。
とりあえず、家族関係は父、母、兄、姉、私の5人構成の核家族世帯であり、私はこの家族の中では末っ子。赤子と言っても、もう私2歳。流石に喋れるようになっていた。そのため、この世界での主流武器である剣の訓練を受けていた。
(……めんどくさい)
そう、めちゃくちゃめんどくさい。前世で自然と培った技術より剣のレベルは下。それに加えて格闘技というものが全く栄えていないため、徒手格闘技術が圧倒的にカス。そのため、真面目にやれば私は最強レベルに到れる。だが、そんなことをしては真面目にやってるやつに失礼だろう。だから訓練開始から手を抜き、できない凡人を全力でアピールしている。
そして今、その訓練から抜け出して領地内にある魔獣の群れの中にいる。
「こっちの方が訓練になるんじゃないかな……? あいつら全員雑魚だし」
まあ、この辺に住む魔獣は弱い。けど、訓練された程度の大人よりかは確実に強い。訓練された大人なんて小指1本でダウンできるからね。だから私は、幼少期のうちからこういう大自然に身を置いた方がいいと思っている。
そして、この世界には前世の世界にはなかった大きな特徴がある。それは、魔力だ。周りのやつが魔力魔力うるさいからマジですぐに覚えれた。魔力はどうやらこの世界に充満しているひとつの成分らしい。原子構造とかはまだ全くわかってないけど、いずれわかるでしょう。その魔力を使えば、魔法が使えるらしいわ。詳しいことはわからんけど。
私は周囲を見渡す。私は独自に思いついた探知魔法を使い、周囲の魔力反応を調べる。木々の近くからは魔獣と思われる魔力反応はひとつもない。そのため、私は家に帰ろうとした。
「白髪のお前、少し待て」
なんか変な声が聞こえた気がする。確かに私は前世と変わらず白髪。だがしかし、アルビノではない。まあ、誰かに話しかけてるんでしょう。そう思った私は、その声を無視して家に帰ろうと歩いていた。
「おい、待てと言ってるだろう」
それでも私は歩く。私ではないと信じて。
「お前だよお前!! リーレ・スターベン!!」
「最初から名前で呼べや!! 誰を呼んでるかわからんだろうが!!」
私は振り返って話しかけてきた者に言う。互いの声は森の中で響き、虚無となって消えていく。その時に生まれた静寂は、私たちに考える猶予を与えてくれた。
とりあえず、目の前の男は誰だ。まず、魔力反応はなし。見た目は黒髪のセンター分けで長身。黒ワイシャツに黒スーツ。んでネクタイまでも黒……。この世界にこんな現代服があるとは……。世界ってめちゃくちゃ不思議だな。
「……それはすまない」
目の前の男が少し申し訳なさそうに言う。そしてまた、静寂が流れた。いや、話しかけたんなら何かしら話題もってこいや。時間の無駄だろうが。
「まずは名前からだったな」
男は何かを確認し、話し始めた。
「ゼフュロスだ。一応、風の神をやらせてもらってる」
まさかの神。いや、待てよ。あながちこれは本当かもしれない。魔力反応が全くなかったということから、間違いなくこの世に蠢いてるものではない。しかも、こいつは突然現れた。私は周囲に誰もいないことを見て確認している。そういう技か……? そんな神が私に何の用で話しかけてきた……?
「お前に用があってここに来た」
用がなかったら神がわざわざここに来ないだろ。とりあえず用件は手短に済ませたい。抜け出してるんだから、帰ってくるタイミング間違えたらどんな仕打ち受けるかわからん……。
「……で、その用ってのは?」
「お前、転生者だな?」
転生者。恐らく、記憶を持ったまま生まれ変わった人のことを指すんだろう。なんかカッコよさそうだったから仏教の本で読んだことあるぞ。
「まあ、そうだけど……。この世界って転生とか頻繁に行われてるの?」
私は疑問に思ったのだ。「私が転生したということは、少なからず他のやつも転生しているのでは?」と。だから私は、詳しそうな神に聞いた。すると、神からは意外な答えが返ってきた。
「お前が初だ。しかも、この世界に転生のような魔法はない。あったらパワーバランスが崩れてしまうからな」
とても異常な事だったらしい。まあ、これでひとつ分かった。私の転生はこの世界に住むものが行ったのではなく、神によって行われたということ。これは推測だけど、風の神ということは、それ以外の神もいる。そして私は例外的に転生した。つまり、私はこの世界に、神達が考えた何かしらの計画のために呼ばれたってことだ。
改めて言うが、私は用件を手短に終わらせたい。だから私は、ゼフュロスの用件を早く言わせるために急かした。
「で? 用件ってのは何?」
私が聞くと、ゼフュロスはコンパクトにまとめて用件を説明した。
「……この世に蔓延る悪を倒してくれ」
「ほう……」
……。意味不明。
「……は?」
どういうことなのか全くわからなかった。私に頼む意図が全くわからない。まず、神なら悪ごときすぐに成敗させるでしょうが。わざわざ頼む意味がわからない。
「普通、お前のようなやつは即地獄行きだ。だが、お前だけは特例中の特例だ。お前は神達から転生権を認められたんだよ」
「は? 転生権?」
意味のわからない言葉がズラりと並んでいく。とりあえず、ひとつひとつ丁寧に処理していくことにした。
「まずさ、なんで私を使わなければいけないの? まずだいたい、悪なんて神がちょちょいのちょいで殺せるでしょうが」
「それができないんだよ。神は神界以外に直接関与することができない。その代わり、神界以外に住むものは神界に直接関与することができない。だが、お前は違う。お前は神界にも関与できるし、神界以外にも関与できる」
「転生権って言うのは?」
「神達が勝手に決めた名前だ。意味は漢字のままだ」
なんとなくわかった気がする。神達は神界ってところに住んでて、神は自分の住んでる世界以外に干渉できない。そして、神が住めない世界に住むものは神に干渉できない。それでこの世界は均衡を保ってるってわけね。
「まあ、お前は神の代わりにこの世に蔓延る悪を成敗する、『神の使徒』に選ばれたってわけだ」
「ちなみに拒否権は……」
「ない」
「ですよねー……」
どうやら私は、とてもめんどくさい制約を背負ってしまったらしい。まあ、決まってしまったわけだし、しゃーなし程度にやりますか……。
「ちなみに報酬はあるぞ、先払いでな」
報酬だと? しかも先払いだと? それは話が違う。それならこれはかなり美味い話になるぞ……。一応、その報酬の内容を聞いておこう。そう思った私は、ゼフュロスに質問した。
「報酬って?」
「そんなにすぐに食いつくな」
「で、報酬は?」
ゼフュロスは呆れたようにため息をつき、報酬の内容を明かした。
「報酬は『神術』の付与だ」
なんだそれは。私がそう思った瞬間、ゼフュロスは神術の説明を丁寧にしてくれた。
「神術ってのは、はっきり言えば神の持つ能力だ。魔法とは違って、発動の制限がない。しかもひとつひとつが規格外の威力を発揮する。普通、俺達神の依頼を受けたり、神の使者になったりしたら神術を貰う権利が与えられるんだが、どんな強敵が現れても大丈夫なように、お前は自由に神術を貰う権利が与えられる」
「つまりはだ、魔法の上位互換を好きなように好きなだけ使えるってことね。しかも貰い放題。いいねそれ」
これなら神の使者、結構楽なのではないか? そう思った私は、神の使者について結構乗り気だった。
「もう先に言うか。1つ目の依頼は「スターベン男爵家の一家殺害」だ」
「お、おう……」
それ、スターベン家の人間に頼むことかね。神って意外と倫理観ぶっ壊れてるんだね。




